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運命  (シリアスComments(0) )

平ゼロ15話後の話 ギルモア視点





(1)

ムアンバでの戦いは熾烈だった。
「全員無事で戦いを終えることが出来たのは奇跡だった」と004は言った。


それにしても・・・戻ってきてからの008の様子がおかしい。
もともと彼は饒舌にしゃべる方ではないが、以前にも増して物思いに耽る姿が多くなった。
その横顔からは戦意が消え、自分の運命を呪っているようにさえ思えた。
参謀として、今までその能力を存分に発揮してきた008がこの様子では今後の戦いに影響が出かねない。

気になったワシは003に尋ねた。

「008の様子がおかしいように思うんじゃがの。何かあったのか?敵地で」

ワシの問いに彼女は、「私がそう思っただけなんですけど・・・」と前置きをした上で答えた。
「サイボーグマンの1人が008のお友達・・・というか同士だったんです。彼、必死で説得しようとしていましたから・・・。確か名前はママドゥーって言ったかしら」

ママドゥー、その言葉を聞いた瞬間、ワシの背中に冷たいものが走った。

「・・・ママドゥー、確かにそう言ったのか?彼は?」
「え、えぇ。博士、顔色が悪いですよ、どうかなさったんですか?」
「い・・・いや、大丈夫じゃ、何でもない」
しばらくワシの横顔を見ていた003だったが、やがて静かな口調で言った。
「博士はママドゥーのことをご存知なんですね・・・」
「・・・知らん。知らんぞ、ワシは・・・」
「・・・・・」
「君も、今の話は忘れてくれ」


ワシは003を避けるように背を向け、メディカルルームに戻った。

ママドゥー・・・彼は間違いなく008-δ(デルタ)だ。
その名前をきっかけに、脳裏に数年前の光景がありありと蘇ってくる。



(2)

言うまでもない話だが、ワシは黒い幽霊団に身を投じ、サイボーグの開発に従事した。
人間でありながら優れた肉体をもつ人間を創る、その夢を実現させてくれたのが黒い幽霊団だったからだ。
004までの開発は何の疑問も持たなかった。
自分の夢や好奇心が形になっていく、その手ごたえに胸を躍らせながら手術に臨んでいた。

しかし・・・技術的な問題点からサイボーグ計画は一旦凍結され、月日が流れた。

再び再開された005の手術で、ワシは初めて「試験体個人の想い」を考えた。
自らこのような改造を望んだわけではないのに、親から譲り受けた身体を赤の他人に改造され、それを喜べるのか?
まして、改造された目的が武器となれば・・・・。
始めは小さな疑問でしかなかった。
しかしその問いは日に日に膨らみ、次第に罪の意識へと変貌していった。
麻酔が効くまで抵抗を続けた006・・・
起動処置を施されて、自分の能力に愕然としていた007・・・

もうこんなことは止めさせなくてはならない。

その時だった、
「ヤット、博士ガ ソノ気ニナッテクレタネ」
「001か?」
「ソウダヨ、僕ダヨ」
「何故001がワシに話し掛けてきたんじゃ?」
「博士モ 脱走ノ仲間ニ 加ワッテ 欲シインダ」
「脱走じゃと?」
「ソウ、脱走サ。僕達ハ モウコンナ馬鹿ゲタ所ニハ 居ラレナイ。 武器デナクナルタメニ、人間ラシク生キルタメニ、ココヲ脱走スルコトニシタンダ。 コレハ002カラ007マデノ全員ノ 意思サ」
「その作戦にワシも加われと」
「ソウ。僕達さいぼーぐダケデ 逃ゲタトシテモ、修理デキル人ガ居ナイト、待ッテイルノハ「死」ダカラネ。研究者ノ中デ 僕達ト行動ヲ共ニシテクレル人ガ 現レルノヲ 待ッテイタンダ」
「わかった・・・。で、いつ行動を起こすんじゃ?」
「マダダヨ。 残念ダケド、007マデデハ 黒い幽霊団ト 戦闘ニナッタ時 確実ニ負ケル。今ノ開発計画ニ載ッテイル008ト009ノ完成ガ 絶対条件ダ」
「ワシにまだ罪を繰り返せというのか?001?」
「008ト009ニハ 気ノ毒ダケド、ソレデ黒い幽霊団ヲ 叩ケルノナラバ 犠牲ハ少ナイト思ウ。 今行動ヲ 起コシテハ 犬死ニスルダケダ」

001の言い分は正しい。
今の戦力で仮に脱出に成功したとしても、その後開発されるであろう008と009の追跡を逃れることはできないであろう。ならば、この手で008と009を「改造」して自分達の戦力に見合った戦士にするほうが得策だ。
良心の呵責に耐えかねるところがあるものの、中途半端な今の状態で事を起こすのは一番不味い。
心を鬼にするしかあるまい、そう思った。


(3)

「008は黒人から選べと?」
上層部の指示にワシは問い返した。
「お言葉ですが、黒人の身体能力は陸上を走るのに向いており、水中活動には必ずしも向いていないというのが私の意見です。ですから黒人はむしろ009の方に向いているんでは・・・」
そう言うワシに、上層部は続けた。
「君の意見はもっともだがな、ギルモア君、泳ぎに向かない人種を改造でいかに適合させるか、そこが今回の実験の狙いとするところだ。黒人を陸上戦闘用の009に改造したところで面白くも何ともない。サイボーグに改造するという技術はすでに007までで完成したと言ってもいい。これからの改造はは身体的欠点とされる部分を改造でどこまで適合させるかが課題だ。・・それは量産を見据えての話でもあるからそのつもりで当たって欲しい」
「・・・・わかりました」
「それからなギルモア君、008候補のサンプルが揃ったそうだ。見に行かないか」
彼は冷酷な笑いを浮かべた。
ワシは彼の後についていった。

ここは試験体の安置室。
「アフリカでの”人間狩り”は面白いように進んだ」とハンターの男は得意気に我々に語った。
「とにかく内乱で殺しあってるから、人間が面白いように捕れて、捕れて」
そう言って下品な笑いを浮かべた。

彼のつまらない話には耳を傾けず、008候補の人間を1人1人丁寧に見ていく。
筋肉のつき方、骨格、関節のやわらかさ・・・。
サイボーグへの改造、身体はほとんどが機械化されるとはいえ、人間としての身体的特徴は改造後の性能にも大きく影響することがわかってきている。まして我々の脱走の仲間になる人物だ、いつも以上に慎重に見定めをする。


改造候補は20人以上あったが、結局2人まで絞った。
サンプルコード 008-δ(デルタ)と008-λ(ラムダ)の2人だ。
δは関節が非常に柔軟で、身体の作りが黒人の割には水中活動には向いていそうだと直感した。
一方λの方は戦士としての資質に恵まれた身体という印象を受けた。
改造対象としては2人とも申し分ない。どちらも仲間に欲しい人材だ。

そのときワシはあることを思いついた。

「008をδ、009をλにしたいんじゃが・・・」
そう言ったワシの言葉を上層部は否定した。
「駄目だ。009は東洋人と決めてある。東洋人は中国を中心に人口が多い。東洋人が009の改造に耐えられることが証明できれば量産時の人間狩りにも幅が出る。今はとにかく1人だけを選べ」

ワシは悩んだ。
深海戦闘用、この目的だけならば絶対にδが適任だ・・・。
しかし、λを手放すのはあまりにも惜しい。

悩んでいるワシに先ほどのハンターの男が、ニヤケタ顔を近づけてきた言った。

「λをお気に召したんですか? さすがはギルモア博士、お眼が高いと申し上げておきましょう。なんと言ってもλはこの俺が一目見て気に入って、追いまくってようやく手に入れたサンプルですからね・・・」
「君、わざわざこのために彼の命を奪ったというのか」
「いけませんか、博士。 そこら辺で野垂れ死にかけてる奴でもいいんでしょうけど、質のいいサンプルをご所望でしょ?
λはいいですよ。身体的能力も申し分はない。何より、戦闘時の判断がいいですよ。この俺をほんとうにキリキリ舞いさせたんですからね」

唾を飛ばしながらそのときの様子を得意気に話す男、まるで魚釣りで大物を釣ってきたかのような語り口。
魚だったら笑って聞くことができただろうが、男が捕ってきたのは「人間だ」・・・。
男の目は既に狂人と化している様に思えた。
否、数年前までの自分の目もこのように狂っていたのかもしれない、もしかしたら今だって・・・。

「λは深海戦闘用に改造したとしても、陸上での戦闘能力も申し分の無い力を発揮すると思いますぜ」


彼の話は聞いているだけで虫唾が走る。
しかし彼の言った最後の一言がワシを決断させた。
今、自分達に必要な力、それを考えるとλが適任だ。

「008-λ・・・」そう呟いて彼の首に掛かっていたドッグタグ(兵士の身元確認用名札)を見た。
「ピュンマ  19XX年8月20日生まれか・・・まだ22歳なのに・・・、すまないな」
そう言って詫びた。
もう1人の実験体にもドッグタグがついていた。
「008-δ・・・君はママドゥーというのか・・・君も仲間に迎えたかったよ」

「008はλに決めた。早速運んでくれたまえ」
部下に指示すると、ワシは実験室に戻った。


(4)

ドルフィン号の窓から見えるジャングルの風景、この土地でピュンマとママドゥーは共に同士として戦っていた。
それがちょっとした運命の悪戯から敵同士となった。
その引き金を引いたのは、紛れも無くワシだ。

あのとき、もしワシが008にママドゥーを選んでいたら・・・・ピュンマをこの地で殺してしまっていたのかもしれない。その想いに身震いがした。

「運命ナンダヨ、仕方ガ無カッタト思ウシカナイ。 誰モ博士ヲ責メタリハ シナイヨ・・・」
「001か?」
「アノトキハ 1人シカ 選ベナカッタ。2人ヲ救ウコトハ デキナカッタ」
「・・・・」
「モシ、アノ時博士ガ008 -ぴゅんま- ヲ 選ンデイナカッタラ 僕達ハ既ニ全滅シテイタカモシレナイ」

イワンの仮説は納得するに十分だった。
008が立てる作戦の緻密さ、有効性、それが今までどれほど自分達の危機を救ってきたか・・・。
0010との戦い、0013をめぐる深海での戦い・・・。
況して、彼が感情を切り捨てられ、サイボーグマンとして敵に回ったとしたら・・・勝ち目は無かったのかもしれない。

額に脂汗が流れる。

「アノ時ノ 博士ノ選択ハ 間違ッテイナカッタト思ウ」
「・・・・・・」
「運命ダッタンダヨ。ぴゅんまモ ままどぅーモ」

再度001が繰り返した。

「じゃがの、そう簡単には割り切れないものじゃよ。あのときのワシの判断が2人の運命を決めてしまったんじゃよ」

窓の外の風景がかすんで見える。
泣いているんだとそのとき理解した。

「大切ナノハ 過去ヲ 悔ヤムコトジャナイヨ、博士。 コレカラノ 犠牲ヲ 最小限ニ 押サエルコト」
「001。この戦いは我々にとって生き延びるための戦いじゃが、それはまた、これからの犠牲を少なくさせるための戦いだと言いたいんじゃな」
「ソウダヨ」
「ワシらが本当にあの黒い幽霊団を壊滅できるというのか・・・・」

ギルモアは再び窓の外を見つめた。
決戦の日はもうすぐそこに迫っていた。





あとがき

ムアンバ編を見ていたら思いついた話です。

ピュンマよりもママドゥーの方が先にブラックゴーストに掴まっていた。
なのに、ママドゥーの方が後に改造されたのは何故か?

プロトタイプの改造前に人選が行われていたに違いないと。

それがこの話を書くきっかけでした。
実に暗い、救いがたい話になってしまって・・・困ったものです。

ピュンマは偶然に選ばれた、けれど、運命だったのかなと
そして、選ばれずにサイボーグマンにされてしまったママドゥーも。

すべてのことが偶然に進んでいるように思えても、終わってみるとそれが必然(運命)だったんじゃないかと思うことがあります。そんな気持ちが漠然とあってこの話になったのかもしれない。
今やっとそう思います。

何かいてるんだ・・・支離滅裂・・・(ノ_-;)ハア…


(03年1月21日 NBG様に投稿)
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