こんな夏の日には (ピュン誕/
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煌くほどの海が久しぶりで、思わず泳ぎ出していた。どれくらいの時間そうしていただろう、疲れるということは無かったが、それでも浮力ではなくて重力を感じる身体が少しだけ気だるいようで。
無造作にタオルで水滴を拭うと、Tシャツを被った。岩場に置いていた木綿に、もう太陽の匂いが染みている。
手首を掴んで、大きく伸びを一つ。少し浮かび上がったかかとを、とん、と降ろした。今度は両腕を後ろに引っ張るように、そのまま空を仰ぐ。
今年の夏は雨が多くて曇りがち。それでも今日は
なんという晴天だろう!
足を投げ出すようにしてゆっくりと歩く。たまに目を細めて、空を見上げる。夏の空の青さは、少しだけピュンマの故郷に似ていた。
懐かしい気分に、少しだけなった。
それでも随分と違う。故郷の木々は、もっと緑が深かった。花も…。
ふっと、庭先の向日葵に視線が止まった。
「いいお天気ね」
耳馴染んだ声がした。振り向けば故郷を出てから巡り合った友人が…フランソワーズがひらひらと手を振りながら歩いてくる。
「今日はようやくお洗濯が乾きそう」
「乾きすぎて干からびてしまうよ。見てごらん」
ピュンマがふっと視線で指し示した。フランソワーズが振り返ると、庭先の低木樹の根元の地面はひび割れ、多年草の葉がしおれて垂れている。
「一昨日まで水溜りがあるくらいだったのに」
「しばらく晴れが続くんだろう?水をあげなくちゃ」
「そうね…如雨露じゃあ、埒があかないかしら?」
フランソワーズは呟くように。くるりと水場へと向かい、少し透けたような青色のホースを繋ぐと、蛇口を捻る。端から、水が水晶のように割れてほとばしった。
「危ないわよ。水がかからないようにね、008」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ!」
ホースの口の部分を潰すようにして、しおれた葉へと向ける。ざあっと音がして、細かくなった水の粒子が振り注いだ。
昨日は曇り。一昨日までは雨が降っていた。葉を叩く水の音は聞き飽きたと思ったけれど、そうではない。
- 夏の音がするんだ -
「虹が見えたりしないのかしら」
「ああそうだね、光の加減かな?今は見えないみたいだ」
「でもとても綺麗。水が、まるで光のようだわ」
数日間の雨など、一瞬で吸い上げてしまうほどに晴れあがった空。太陽が高く、零れ落ちる光線が眩しい。夏が、来た。
夏が来た。煌くような季節。
「夏はね、好きなんだよ」
「あなたの国はいつも暑いかったんじゃないの?」
「だから好きなのさ。この国の、夏も」
「確かに似合うわ、008。あなたには、夏が」
「それはありがとう」
庭中に水という光を振りまきながら、フランソワーズが笑った。
ピュンマが、笑い返した。
蛇口を捻るときゅっと少し高い音がする。
「買い物にでも、行きましょうか。こんなに暑いから、夏らしいものが欲しいわね」
ホースを大きな円を描く形にして片付けながら、フランソワーズの提案。
「それはいいね。アイスでも買ってこようか。みんなの分もね」
「あら、夏といえば西瓜でしょう?大きくて甘い西瓜を買ってきましょう。みんなで切って食べたらきっと美味しいわ」
「…なんだ僕の意見は求めてなかったわけかい?」
「そんな訳は無いわ。西瓜、008も嫌いじゃないでしょう?」
行きましょう、ともう一度繰り返して、フランソワーズは先に立って歩き出した。まったく、と聞こえる様に声に出してから、後を追うように歩き出す。
確かに。こんなに暑い夏の日にはよく冷えた西瓜は悪くない。飛びきり美味しいやつを買ってこよう。
ピュンマは自分の誕生日など、誰にも教えてはいない。今日の夕食のデザートには、何も知らずに大きな西瓜を切り分けてくれるだろう。
食べ終わった時に、8月20日の理由を教えてもいい。
アイスを買えばよかったって、そう言って彼女は怒るのかな。
作者様 コメント
お題は「夏の8と3」。
…む、難しい。どうしよう。
と うだる頭をこねくり回し、今年少ない夏空を頼みに、これかな・と。
空を見ただけで暑さが伝わってくるような、夏の空。
そんな夏の一日のひと時、で、誕生日は?(涙)というものになってしまいました…猛省。
夏の雰囲気だけでも、感じていただければ本望です。(ほたる@イラスト担当)
夏の83と言うことで爽やかさを目指して見ました。
が、なんとなく玉砕気分…。
彼等ってどうやってお互いの誕生日を知るのかな…と考えまして
自分から言ったりしないと知らずに終わってしまうのかもしれない
そんなことを思ってみたり。(遠山@小説担当)
ピュンマのお誕生日をお祝いするためだけの祭り Le Festival de Freesia 主催の遠山伊智子さま(文) と有原ほたるさま(絵)になる夢の合作。 お持ち帰り自由をいいことに、早々に強奪してまいりました。
遠山さまの写真を切り取ったような描写にはいつも、いつもうっとりしてしまいます。
今年のどんよりした夏が、この文章で一気に盛夏に様変わり。けれど、水しぶきの爽やかさが涼を 運んできてくれて、心地良い気分になりました。
そして、ピュンマの気持ちもまた、この天気そのものなんでしょうね・・・。
フランちゃんの、「意見を求めつつも結局は聞いちゃいない姿」に笑。
そして、ほたるさまフランの屈託のない笑顔が、あまりにもらしくって、微笑んでしまいました。 ピュンマの唖然とした表情も素敵です(笑)
「だったら・・・・聞くなよ・・・。」って言い出しそうで。
誕生日と知って彼女がどんなリアクションを示すのか?
きっと一日遅れの大パーティーが行われるんじゃないかと。(妄想)
全員からのプレゼントが全てアイスで、おなかを壊さないことを切にお祈りしています。
2003ピュンマ誕生日お祝い企画「Le Festival de Freesia」
管理人遠山伊智子さまと有原ほたるさまの合同作品。
彼の誕生日の何気ない一日のお話です。
管理人遠山伊智子さまと有原ほたるさまの合同作品。
彼の誕生日の何気ない一日のお話です。
煌くほどの海が久しぶりで、思わず泳ぎ出していた。どれくらいの時間そうしていただろう、疲れるということは無かったが、それでも浮力ではなくて重力を感じる身体が少しだけ気だるいようで。
無造作にタオルで水滴を拭うと、Tシャツを被った。岩場に置いていた木綿に、もう太陽の匂いが染みている。
手首を掴んで、大きく伸びを一つ。少し浮かび上がったかかとを、とん、と降ろした。今度は両腕を後ろに引っ張るように、そのまま空を仰ぐ。
今年の夏は雨が多くて曇りがち。それでも今日は
なんという晴天だろう!
足を投げ出すようにしてゆっくりと歩く。たまに目を細めて、空を見上げる。夏の空の青さは、少しだけピュンマの故郷に似ていた。
懐かしい気分に、少しだけなった。
それでも随分と違う。故郷の木々は、もっと緑が深かった。花も…。
ふっと、庭先の向日葵に視線が止まった。
「いいお天気ね」
耳馴染んだ声がした。振り向けば故郷を出てから巡り合った友人が…フランソワーズがひらひらと手を振りながら歩いてくる。
「今日はようやくお洗濯が乾きそう」
「乾きすぎて干からびてしまうよ。見てごらん」
ピュンマがふっと視線で指し示した。フランソワーズが振り返ると、庭先の低木樹の根元の地面はひび割れ、多年草の葉がしおれて垂れている。
「一昨日まで水溜りがあるくらいだったのに」
「しばらく晴れが続くんだろう?水をあげなくちゃ」
「そうね…如雨露じゃあ、埒があかないかしら?」
フランソワーズは呟くように。くるりと水場へと向かい、少し透けたような青色のホースを繋ぐと、蛇口を捻る。端から、水が水晶のように割れてほとばしった。
「危ないわよ。水がかからないようにね、008」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ!」
ホースの口の部分を潰すようにして、しおれた葉へと向ける。ざあっと音がして、細かくなった水の粒子が振り注いだ。
昨日は曇り。一昨日までは雨が降っていた。葉を叩く水の音は聞き飽きたと思ったけれど、そうではない。
- 夏の音がするんだ -
「虹が見えたりしないのかしら」
「ああそうだね、光の加減かな?今は見えないみたいだ」
「でもとても綺麗。水が、まるで光のようだわ」
数日間の雨など、一瞬で吸い上げてしまうほどに晴れあがった空。太陽が高く、零れ落ちる光線が眩しい。夏が、来た。
夏が来た。煌くような季節。
「夏はね、好きなんだよ」
「あなたの国はいつも暑いかったんじゃないの?」
「だから好きなのさ。この国の、夏も」
「確かに似合うわ、008。あなたには、夏が」
「それはありがとう」
庭中に水という光を振りまきながら、フランソワーズが笑った。
ピュンマが、笑い返した。
蛇口を捻るときゅっと少し高い音がする。
「買い物にでも、行きましょうか。こんなに暑いから、夏らしいものが欲しいわね」
ホースを大きな円を描く形にして片付けながら、フランソワーズの提案。
「それはいいね。アイスでも買ってこようか。みんなの分もね」
「あら、夏といえば西瓜でしょう?大きくて甘い西瓜を買ってきましょう。みんなで切って食べたらきっと美味しいわ」
「…なんだ僕の意見は求めてなかったわけかい?」
「そんな訳は無いわ。西瓜、008も嫌いじゃないでしょう?」
行きましょう、ともう一度繰り返して、フランソワーズは先に立って歩き出した。まったく、と聞こえる様に声に出してから、後を追うように歩き出す。
確かに。こんなに暑い夏の日にはよく冷えた西瓜は悪くない。飛びきり美味しいやつを買ってこよう。
ピュンマは自分の誕生日など、誰にも教えてはいない。今日の夕食のデザートには、何も知らずに大きな西瓜を切り分けてくれるだろう。
食べ終わった時に、8月20日の理由を教えてもいい。
アイスを買えばよかったって、そう言って彼女は怒るのかな。
作者様 コメント
お題は「夏の8と3」。
…む、難しい。どうしよう。
と うだる頭をこねくり回し、今年少ない夏空を頼みに、これかな・と。
空を見ただけで暑さが伝わってくるような、夏の空。
そんな夏の一日のひと時、で、誕生日は?(涙)というものになってしまいました…猛省。
夏の雰囲気だけでも、感じていただければ本望です。(ほたる@イラスト担当)
夏の83と言うことで爽やかさを目指して見ました。
が、なんとなく玉砕気分…。
彼等ってどうやってお互いの誕生日を知るのかな…と考えまして
自分から言ったりしないと知らずに終わってしまうのかもしれない
そんなことを思ってみたり。(遠山@小説担当)
ピュンマのお誕生日をお祝いするためだけの祭り Le Festival de Freesia 主催の遠山伊智子さま(文) と有原ほたるさま(絵)になる夢の合作。 お持ち帰り自由をいいことに、早々に強奪してまいりました。
遠山さまの写真を切り取ったような描写にはいつも、いつもうっとりしてしまいます。
今年のどんよりした夏が、この文章で一気に盛夏に様変わり。けれど、水しぶきの爽やかさが涼を 運んできてくれて、心地良い気分になりました。
そして、ピュンマの気持ちもまた、この天気そのものなんでしょうね・・・。
フランちゃんの、「意見を求めつつも結局は聞いちゃいない姿」に笑。
そして、ほたるさまフランの屈託のない笑顔が、あまりにもらしくって、微笑んでしまいました。 ピュンマの唖然とした表情も素敵です(笑)
「だったら・・・・聞くなよ・・・。」って言い出しそうで。
誕生日と知って彼女がどんなリアクションを示すのか?
きっと一日遅れの大パーティーが行われるんじゃないかと。(妄想)
全員からのプレゼントが全てアイスで、おなかを壊さないことを切にお祈りしています。
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