戦場のハッピーバースデー (ピュン誕/
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質素ながらも心づくしの宴の後、誰も居ないコクピットでピュンマは深く溜息をついた。
「アレは・・・一体なんだったんだ?」
いつもより贅沢な006の料理に驚いていたら、仲間達から口々に祝いの言葉を掛けられた。少ない材料に苦心の跡が見られるケーキは003の力作で、005の手作りプレゼント、007の一人芝居、009のあれは・・・多分手品。みんなでバカみたいに笑って、話をした。日常を考えれば今日の夕餉は敵襲以上に驚いたといっても言い過ぎではなかった。
今日が自分自身の誕生日だということすら忘れてしまっていたから、余計。
誕生日なんて祝ったことが無いから、尚更。
彼がこの世に生を受けたとき、すでに祖国は長らく続く戦争状態にあった。父は当たり前のように戦い、母は死と隣り合わせの毎日でも明るく子供たちを育ててくれた。
8歳になったころ、何の説明も無く武器を持たされ、誰ともわからない敵との戦いが始まった。以来10年以上、戦争は日常だった。人を殺すことも仲間を失うことも日常だった。そのことに心の痛みを感じなくなったことさえ気づく余裕も無かった。
部族間の諍いだと思っていた戦いは、いつしか施主国を後ろ盾にした政府軍との戦いに変わり、武器、その他の装備が圧倒的に不足していた自分たちは、ゲリラ戦を余儀なくされた。
それだけ、たったそれだけの毎日だった。
誕生日を祝うことなど考えたことも無かった。
「だいたい・・・今は戦いの真っ最中だろうに」
誕生日パーティーなんて、浮かれているにも程がある。
祝ってくれる仲間達を前に口には出来なかったが、彼の心の内は苦りきっていた。今日は001が寝ていて良かった。こんな気持ちを露にすれば、口論になるのは必然。味方はわずか10人しか居ないのだ、些細な揉め事は避けるに限る。長く戦いを重ねてきた彼の教訓の一つだった。
「ま、確かに戦争中に呑気にバースデーもないだろうな」
心の内を見透かした言葉に008は慌てて振り返った。暗がりの中に居たのは、004。手にマグカップを持ち、一つを彼に薦めた。軽く礼を言ってみたものの、気まずさは消えない。今の独り言を聞かれたのか、あるいは祝いの席で自分の不満が顔に出ていたのだろうか。何でもお見通しだとニヤついている004を前にふて腐れる。
「生憎、僕はそんな文化圏に住んでなかったんでね」
まぁそうだろうな、彼の隣に座ったドイツ人は笑った。お前さんの戸惑いはわかったが、ま、気づいたのは俺と005、あとは7くらいなもんだろう、そんなことを言った。
「君の国でもやっぱり祝うのかい?」
「誕生日をか?・・・まぁ、簡単に、だったけどな」
「003はさ ―――」
祝いの席で人一倍うれしそうに振舞っていた少女を思い出す。
「『こんな寂しいパーティーで・・・』なんて謝ってたけど・・・、実際はもっと豪華なのかい?」
「まぁ、国にも文化にもよるし、それこそ様々だけど、アイツの暮らしてきた世界では、もっとにぎやかな祝いをしていたんだろうな」
「君も?」
「俺か? 俺はあんなもんだったさ」
「他のみんなはどうなんだろう」
「さあな、誕生日の祝い方なんて聞いたこともないし、話す気にもなれないが・・・」
004はコーヒーを一口含んで溜息をついた。
「ささやかにでも祝っただろうな」
ドルフィン号の機械音が静かに響く。
「ま、お前さんにしてみれば、いろいろ思うところはあるんだろうけど・・・アイツに付き合ってやってくれないか?」
004の言う「アイツ」が003を指しているのだということは表情でわかった。兄が妹を思うような、そんなやさしい横顔。
「いつのことだったか・・・・『戦争だからって、戦ってばかりじゃ本当に戦うための機械になってしまう』って泣かれてな・・・。お前が来るずっと前のことだ。それ以来、可能な限り行事は祝うんだよ、クリスマスも復活祭も・・・。ま、ここのところは戦闘続きでそれもままならなかったがな・・」
008が大きく伸びをし、溜息を一つこぼした。
「ぼくは戦争ばかりだったから・・・祝いとか行事とか・・・そんなこと考えたこともなかったよ」
「迷惑、だったか?」
「いや、戸惑ったのは事実だけど、うれしかったよ。こんなこと生まれてはじめてだったし・・・・。うん、確かに003の言う通りかもしれないな。戦争だからって、戦うことばかり考えていたら、僕等はダメになるかもしれない」
戦いに明け暮れた日々だったけど、信念をもって戦ってたけど、それでも自分たちだって誕生日くらい祝えばよかった。贅沢なことはできなくても、言葉をかけるくらいは。
ママドゥーだったらどんな顔をしたんだろうな・・・・。きっとはにかんで礼を言うだろう。カボレだったら間違いなく照れてぶっきらぼうになるだろう・・・。耳まで真っ赤にそまるんだぜ、アイツ。
「なんだ、にやけて、女のことでも考えてたか」
「いや、残念ながら」
「つまらないヤツだな」
「悪かったな」
こうして8月20日の夜は静かに深けていった ――――――
この後、文字通り「戦う機械」になった親友との再会が待っていることを、彼はまだ知る由もなかった。
暗くてすみません、誕生日なのに。
8と4の組み合わせは大好きです、大人な感じで。
とにもかくにもピュンマ誕生日おめでとう(無理矢理っ!)
設定は平成版。
時期はコズミ博士の下を離れて、フランスへ行くまでのどこか辺りで。その間にピュン誕があったのかどうかは不明ですが、あったという方向で。
時期はコズミ博士の下を離れて、フランスへ行くまでのどこか辺りで。その間にピュン誕があったのかどうかは不明ですが、あったという方向で。
質素ながらも心づくしの宴の後、誰も居ないコクピットでピュンマは深く溜息をついた。
「アレは・・・一体なんだったんだ?」
いつもより贅沢な006の料理に驚いていたら、仲間達から口々に祝いの言葉を掛けられた。少ない材料に苦心の跡が見られるケーキは003の力作で、005の手作りプレゼント、007の一人芝居、009のあれは・・・多分手品。みんなでバカみたいに笑って、話をした。日常を考えれば今日の夕餉は敵襲以上に驚いたといっても言い過ぎではなかった。
今日が自分自身の誕生日だということすら忘れてしまっていたから、余計。
誕生日なんて祝ったことが無いから、尚更。
彼がこの世に生を受けたとき、すでに祖国は長らく続く戦争状態にあった。父は当たり前のように戦い、母は死と隣り合わせの毎日でも明るく子供たちを育ててくれた。
8歳になったころ、何の説明も無く武器を持たされ、誰ともわからない敵との戦いが始まった。以来10年以上、戦争は日常だった。人を殺すことも仲間を失うことも日常だった。そのことに心の痛みを感じなくなったことさえ気づく余裕も無かった。
部族間の諍いだと思っていた戦いは、いつしか施主国を後ろ盾にした政府軍との戦いに変わり、武器、その他の装備が圧倒的に不足していた自分たちは、ゲリラ戦を余儀なくされた。
それだけ、たったそれだけの毎日だった。
誕生日を祝うことなど考えたことも無かった。
「だいたい・・・今は戦いの真っ最中だろうに」
誕生日パーティーなんて、浮かれているにも程がある。
祝ってくれる仲間達を前に口には出来なかったが、彼の心の内は苦りきっていた。今日は001が寝ていて良かった。こんな気持ちを露にすれば、口論になるのは必然。味方はわずか10人しか居ないのだ、些細な揉め事は避けるに限る。長く戦いを重ねてきた彼の教訓の一つだった。
「ま、確かに戦争中に呑気にバースデーもないだろうな」
心の内を見透かした言葉に008は慌てて振り返った。暗がりの中に居たのは、004。手にマグカップを持ち、一つを彼に薦めた。軽く礼を言ってみたものの、気まずさは消えない。今の独り言を聞かれたのか、あるいは祝いの席で自分の不満が顔に出ていたのだろうか。何でもお見通しだとニヤついている004を前にふて腐れる。
「生憎、僕はそんな文化圏に住んでなかったんでね」
まぁそうだろうな、彼の隣に座ったドイツ人は笑った。お前さんの戸惑いはわかったが、ま、気づいたのは俺と005、あとは7くらいなもんだろう、そんなことを言った。
「君の国でもやっぱり祝うのかい?」
「誕生日をか?・・・まぁ、簡単に、だったけどな」
「003はさ ―――」
祝いの席で人一倍うれしそうに振舞っていた少女を思い出す。
「『こんな寂しいパーティーで・・・』なんて謝ってたけど・・・、実際はもっと豪華なのかい?」
「まぁ、国にも文化にもよるし、それこそ様々だけど、アイツの暮らしてきた世界では、もっとにぎやかな祝いをしていたんだろうな」
「君も?」
「俺か? 俺はあんなもんだったさ」
「他のみんなはどうなんだろう」
「さあな、誕生日の祝い方なんて聞いたこともないし、話す気にもなれないが・・・」
004はコーヒーを一口含んで溜息をついた。
「ささやかにでも祝っただろうな」
ドルフィン号の機械音が静かに響く。
「ま、お前さんにしてみれば、いろいろ思うところはあるんだろうけど・・・アイツに付き合ってやってくれないか?」
004の言う「アイツ」が003を指しているのだということは表情でわかった。兄が妹を思うような、そんなやさしい横顔。
「いつのことだったか・・・・『戦争だからって、戦ってばかりじゃ本当に戦うための機械になってしまう』って泣かれてな・・・。お前が来るずっと前のことだ。それ以来、可能な限り行事は祝うんだよ、クリスマスも復活祭も・・・。ま、ここのところは戦闘続きでそれもままならなかったがな・・」
008が大きく伸びをし、溜息を一つこぼした。
「ぼくは戦争ばかりだったから・・・祝いとか行事とか・・・そんなこと考えたこともなかったよ」
「迷惑、だったか?」
「いや、戸惑ったのは事実だけど、うれしかったよ。こんなこと生まれてはじめてだったし・・・・。うん、確かに003の言う通りかもしれないな。戦争だからって、戦うことばかり考えていたら、僕等はダメになるかもしれない」
戦いに明け暮れた日々だったけど、信念をもって戦ってたけど、それでも自分たちだって誕生日くらい祝えばよかった。贅沢なことはできなくても、言葉をかけるくらいは。
ママドゥーだったらどんな顔をしたんだろうな・・・・。きっとはにかんで礼を言うだろう。カボレだったら間違いなく照れてぶっきらぼうになるだろう・・・。耳まで真っ赤にそまるんだぜ、アイツ。
「なんだ、にやけて、女のことでも考えてたか」
「いや、残念ながら」
「つまらないヤツだな」
「悪かったな」
こうして8月20日の夜は静かに深けていった ――――――
この後、文字通り「戦う機械」になった親友との再会が待っていることを、彼はまだ知る由もなかった。
暗くてすみません、誕生日なのに。
8と4の組み合わせは大好きです、大人な感じで。
とにもかくにもピュンマ誕生日おめでとう(無理矢理っ!)
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