大誤算(後) (遠雷(いただきもの)/
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海が悲惨な状況に染まっていた、その頃。
皆、やはり目の前の素晴らしいプライベートビーチの方がいいのか、プールにはまったく人気がなかった。そう、ほぼ周とイワンの貸し切りと言っていいような状況。
そんな静かな風景の中、ちょっと浅めのプールを選び、周はイワンを抱いて水に足を踏み入れた。
『気持ちいいね』
「最高」
はあーと、温泉でも浸かるように息をついた周は、ぱしゃりと優しくイワンに水を掛けてやる。
綺麗な風景に、澄んだ空気。
そして気持ちの良い、水の中。
出勤簿を勝手に改竄されたときには呆れ果てて声も出なかったが、こうして来てみるとそれも有難かったな、と思う。
クロウディアとも色々出かけたりしたが、こんな遠出は久しぶりだ。
思えば、駄目な母親だと、思う。
アルベルトの言うとおり、クロウディアだって…「娯楽に飢えて」いたのかもしれないのに。
『周?』
「ん、何でもない」
キョトンとして見上げたイワンに、周は小さく苦笑した。
今更。
こんなこと思い浮かべても、どうしようもないのに…と、つい自嘲的な笑みがこぼれてしまう。
その時、
「気味の悪い笑みを浮かべるな」
と突然、側から声を掛けられた。
周とイワンはチラリと振り返って、現れた声の主…アルベルトを見上げる。
「あら、監視員を請け負ったんじゃなかったの?」
「ガキの守りは、ピュンマに任せた」
「うわー、無責任!」
「どっちがだ。先にトンズラしやがったくせして」
ふんっと鼻で笑って、アルベルトはプールサイドに座った。
すると。
「あらー? 島村博士じゃないですかぁー!」
無人だったプライベート・プールに、若い親子連れがやって来た。
それを見て周は、あちゃーと頭を抱える。
同僚の女性科学者。確か彼女も家族でやって来ると言っていたが、まさか時期が重なるとは…
「やぁだ! 一緒の日だったんですね! あら…?」
女性の目が、一気に腕の中のイワンに向けられる。
そして、言われたのは、
「いつ…産んだんですか…?」
という、まあ妥当だと思しき、疑問。
やっぱりそうきたか…と眉をぴくりと痙攣させた周は、
「違うのよ。弟夫婦の子供、なの」
と、見事な営業スマイルで切り返す。
それを聴いたアルベルトとイワンは、ゆっくりと顔を見合わせた。
『弟夫婦』に『その子供』……何一つ、真実ではない。
だが女性は、アルベルトとイワンを食い入るように見つめて首をかしげると、
「そうなんですか。いや、旦那さまと同じ髪の色だから」
と無邪気に微笑んだ。
『旦那さま』……って、誰のことだ…
密かに眉をつり上げたアルベルトだが…それでも何とか、平静を装う。
ここで訂正してもどうせ話がこじれるだけだ、これは黙っておくに限る、と判断し黙りを決め込んだ、のだが。
……あろうことか、ニヤリと周の胸元でほくそ笑み…
「パパ、ママ」
と、珍しく声を発したイワンの言葉によって。
その場の状況は、一変する。
ぎょっと目をむいた、アルベルトと周。
だが、時既に遅し。
「やっぱりー! クロウディアちゃんの兄弟なんですね?!」
「いや、本当に違うんだってば」
「照れなくたっていいですよぉ!」
「本当だって。ねぇ? イワン?」
相変わらずの営業スマイルの周は、言いながら軽く…だが少し力を入れて、イワンの背を密かに抓る。
それにアワアワと暴れたイワンは、何度もコクコク頷いた。
突然態度の変わった赤ん坊に目を瞬いた女性は、案外もの分かりが良いのか…それとも単にからかっただけなのか…すぐに納得して、じゃあ、と家族と共に去っていった。
その姿を見送った周とアルベルトは…すうっとイワンに向き直る。
「やってくれたわね、小悪魔」
「全くだ」
注がれたのは、今にも突き刺さりそうな…薄氷色と鈍色の、視線。
『痛いよ、周! 幼児虐待だっ!』
未だに軽ーくだが背中を抓られ続けるイワンは、必死の抵抗。
だが。
「どの口が──そういうこと言うのかなぁ?」
と、周の絶対零度な視線は、変わらない。
それに加えて、更に冷たい鋼鉄の手にぐりぐりと力を入れて頭を撫でられ…イワンは密かに逆ギレ、した。
『もう! 何だよ二人とも!』
最大のテレパシーで叫び、無意識に掴んだもの、は。
周の水着の、肩紐。
はらり、と…周の右肩から、それが滑り落ち……見えたのは………………
あ、と額に汗を浮かべた、イワン。
目をむいて顔を背けた、アルベルト。
そして。
「─────イワン。程々にしておきなさいよ?」
マイナスが限界点まで達した、周…
気まずい空気に囲まれ、生きた心地がしなくなったイワンは、必死に周を見上げた。
『待ってよ周! 今のは事故っ!!』
そんなこんなで海組・プール組で多少のイザコザはあったものの(多少か?)、まあ無事と言えるだろう一日はあっという間に過ぎていった。
日が沈むと豪勢な食事をして、盛大に花火。
それが終わるとお子様組は、一日のエネルギーを使い果たしたように爆睡してしまった。
微笑ましく、そして無邪気に眠る彼らを見ると、ピュンマは息をついてベランダの椅子に腰を下ろす。
すると、
「はい、お疲れサマ」
と、背後から綺麗な色のカクテルを差し出された。
振り返るとそこには、涼しげなノースリーブを着た周、そしてビール片手に歩み寄ってくるアルベルトがいた。
二人はピュンマの向かい側に座ると……ハイスピードでグラスを空け始める。
「ま、ここからは大人の時間といきましょうよ」
「大人が聴いて呆れる」
昼間のイワンとのやり取りを思い出し、アルベルトは鼻で笑った。
何だかこの組み合わせにとてつもなく恐怖を感じたピュンマだが、昼間の疲れもあり、そしてジェットにやらかされた頭がまだ疼くのもあり…ま、いいかと息をついてカクテルに口を付けた。
「大変だろう、ガキどもは」
疲れきった表情のピュンマに、アルベルトは喉を鳴らして笑う。
「……戦闘時の冷静さはどこへ行った? って感じだよ」
苦笑を漏らしつつ、ぼやくピュンマ。
「ま、いいんじゃないの? たまに弾けるぐらい」
「…お前ら親子はいつもだろうが」
「うちはサーカスか」
周はじろり、とアルベルトを睨む。
あー、まただよ…とピュンマは頭を抱えたが、疲労度マックスで止める気も起こらない。
というか、そもそも止めようという奇特な人間は、メンバーの中に誰一人いないだろう。
険悪だが意外にも静かに飲み続け始めた二人を、ピュンマはそおっと見つめた。
なんだかんだ言って、この二人……面倒見がよかったり、する。
今日は例外だとしても、いつもお子様組に保護者(?)みたいな感じで付き添って行くし、周もイワンの面倒とかよく見るし。
アルベルトもアルベルトで、文句言いつつもちゃーんと子供達の暴走をくい止めてたりする。
……逆に暴走している時もあるけど…
「凄いよね、二人とも」
口をついて出たのは、率直な感想。
「本当に、みんなの両親、みたいだよ」
今日一日で、弾けたお子様達がどんなに危険か身に染みて分かったピュンマは、クスクスと微笑した。
が。
「「両親?」」
途端に…二人の頬がぴくりと痙攣する。
「その『両親』って、どこのどいつとペアなのかなぁ?」
「それ以前に、あんな喧しいガキ、いらん」
「あなたは案外、似合ってると思うけど? ほら、バカ陽気の親にはもってこい」
「恐ろしいことをぬかすな」
「何よ、褒めてるのに」
「褒めてるとは言わんな。著しい暴言だ」
「やだー、照れなくてもいいのにぃ」
「…一体、何が言いたい、お前」
ぎらりと、アルベルトの瞳が険しく輝く。
対する鈍色も、すうっと細められ、真っ正面からその険しさを受け止めていた。
次第に密度を増していく、険悪な雰囲気。
………すみません。僕が悪かったです…
口は災いの元、というのを普段の子供達の日常から学習したつもり…だったのだが。
まだまだ、修行が足りないらしい────……
これから一週間こんな状況が続く、ということを考えると…密かにノイローゼになりそうなピュンマだったが…
一緒にやって来た時点で、もう何もかも遅い…
「ほう、何ぞ面白い物があるのう」
リビングのテーブルに広げられているのは、たくさんの土産。
それを眺めたギルモアは、面白そうに微笑んだ。
「いーよなぁ、若者は。我が輩も是非、お供したかったね」
土産の獅子の置物を手にぼやいたグレートは、大げさに溜息をついた。
「…帰った早々、ピュンマみたいに高熱出したいアルか…?」
お気楽そうなグレートに、張々湖は一筋の汗を流す。
そう、ここに積まれているのは、例の沖縄旅行一団からの、土産。
そして一週間という長きにわたる時間を彼らと過ごしたピュンマは…ギルモア邸に帰り着いた途端、高熱を出して寝込んでしまった。
一体、この海の向こうで何があった、とその様子を見たグレートと張々湖は首をひねったが…瞬時に、あー…分かるような気がする、と妙に納得。
そう。何しろ…メンバーがメンバーだ。
いつも海外にいるピュンマには、あまり免疫がないため…まあ、こうもなるだろう。
日本で暮らし、それなりに彼らに対して免疫がついてきた二人は、ピュンマを気の毒に思いつつも凄まじく納得したように頷いた。
「ピュンマも大誤算だったろうな。これほどのものとは思ってなかったんだぜ? きっと」
「『一緒に行ってもいいよ』、と承諾した時点で、ワテら大絶賛だったネ」
ピュンマの勇気ある行動に、敬意を表して。
二階で闘病中の身には悪いが、ここは有難く土産を頂くことにしよう。
「博士、まあお座り下さい。美味しそうな物も結構ありますぜ?」
少し変わったお菓子を頬張り、グレートはギルモアをソファーへ促した。
そっと歩み寄ったギルモアは、ふと視線を止めて、穏やかに笑う。
土産、か───
「ワシは、これで十分じゃよ」
言って、手に取ったのは、一枚の写真。
それは…真っ青な海を背景に写る、旅行組の集合写真。
弾けた笑顔、楽しそうな雰囲気のそれは。
どんな物よりも、嬉しい、土産。
いつまでも。
こんな彼らの姿を、見ていたい。
そう。
夏色に輝く、太陽そのものの、笑顔を。
<了>
<Prev.
juiさまのサイト「凛樹館」でキリバン5000を踏んでいただきました。
リクエスト内容は、
「遠雷」ネタ。
おこちゃま(イワン ジェット フラン ジョー クロウディア)とアルベルトそして周で海水浴。
ピュンマさまも仲間に加え、なおかつ彼を壊して欲しい。
さらに、お約束、アルベルトと周には絶対零度の会話。
という、私の我侭に完璧に応えていただきました!!!!(感激)
juiさま、「ピュンマを弾けさせるのは難しいよねー。」と仰りながらも、どうしてどうして、彼らしい「切れ方」に感動です。 「能力使わないでね」って大人の振りしながら、切れると思いっきり「能力」を駆使(爆)。
後半は後半で、「パパ、ママ」ってイワン・・・、あの2人を相手にチャレンジャーです。
そしてピュンマ様も暴言ですか・・・。さぞかし身も心も凍る思いだったでしょう。
寝冷えならぬ、会話冷えで高熱ですね。お早い回復をお祈りしております。
最後の博士のほのぼの感がお話を綺麗にまとめてらっしゃって。素敵なお話でした。
juiさま、本当にありがとうございました!ペコリ(o_ _)o))
海が悲惨な状況に染まっていた、その頃。
皆、やはり目の前の素晴らしいプライベートビーチの方がいいのか、プールにはまったく人気がなかった。そう、ほぼ周とイワンの貸し切りと言っていいような状況。
そんな静かな風景の中、ちょっと浅めのプールを選び、周はイワンを抱いて水に足を踏み入れた。
『気持ちいいね』
「最高」
はあーと、温泉でも浸かるように息をついた周は、ぱしゃりと優しくイワンに水を掛けてやる。
綺麗な風景に、澄んだ空気。
そして気持ちの良い、水の中。
出勤簿を勝手に改竄されたときには呆れ果てて声も出なかったが、こうして来てみるとそれも有難かったな、と思う。
クロウディアとも色々出かけたりしたが、こんな遠出は久しぶりだ。
思えば、駄目な母親だと、思う。
アルベルトの言うとおり、クロウディアだって…「娯楽に飢えて」いたのかもしれないのに。
『周?』
「ん、何でもない」
キョトンとして見上げたイワンに、周は小さく苦笑した。
今更。
こんなこと思い浮かべても、どうしようもないのに…と、つい自嘲的な笑みがこぼれてしまう。
その時、
「気味の悪い笑みを浮かべるな」
と突然、側から声を掛けられた。
周とイワンはチラリと振り返って、現れた声の主…アルベルトを見上げる。
「あら、監視員を請け負ったんじゃなかったの?」
「ガキの守りは、ピュンマに任せた」
「うわー、無責任!」
「どっちがだ。先にトンズラしやがったくせして」
ふんっと鼻で笑って、アルベルトはプールサイドに座った。
すると。
「あらー? 島村博士じゃないですかぁー!」
無人だったプライベート・プールに、若い親子連れがやって来た。
それを見て周は、あちゃーと頭を抱える。
同僚の女性科学者。確か彼女も家族でやって来ると言っていたが、まさか時期が重なるとは…
「やぁだ! 一緒の日だったんですね! あら…?」
女性の目が、一気に腕の中のイワンに向けられる。
そして、言われたのは、
「いつ…産んだんですか…?」
という、まあ妥当だと思しき、疑問。
やっぱりそうきたか…と眉をぴくりと痙攣させた周は、
「違うのよ。弟夫婦の子供、なの」
と、見事な営業スマイルで切り返す。
それを聴いたアルベルトとイワンは、ゆっくりと顔を見合わせた。
『弟夫婦』に『その子供』……何一つ、真実ではない。
だが女性は、アルベルトとイワンを食い入るように見つめて首をかしげると、
「そうなんですか。いや、旦那さまと同じ髪の色だから」
と無邪気に微笑んだ。
『旦那さま』……って、誰のことだ…
密かに眉をつり上げたアルベルトだが…それでも何とか、平静を装う。
ここで訂正してもどうせ話がこじれるだけだ、これは黙っておくに限る、と判断し黙りを決め込んだ、のだが。
……あろうことか、ニヤリと周の胸元でほくそ笑み…
「パパ、ママ」
と、珍しく声を発したイワンの言葉によって。
その場の状況は、一変する。
ぎょっと目をむいた、アルベルトと周。
だが、時既に遅し。
「やっぱりー! クロウディアちゃんの兄弟なんですね?!」
「いや、本当に違うんだってば」
「照れなくたっていいですよぉ!」
「本当だって。ねぇ? イワン?」
相変わらずの営業スマイルの周は、言いながら軽く…だが少し力を入れて、イワンの背を密かに抓る。
それにアワアワと暴れたイワンは、何度もコクコク頷いた。
突然態度の変わった赤ん坊に目を瞬いた女性は、案外もの分かりが良いのか…それとも単にからかっただけなのか…すぐに納得して、じゃあ、と家族と共に去っていった。
その姿を見送った周とアルベルトは…すうっとイワンに向き直る。
「やってくれたわね、小悪魔」
「全くだ」
注がれたのは、今にも突き刺さりそうな…薄氷色と鈍色の、視線。
『痛いよ、周! 幼児虐待だっ!』
未だに軽ーくだが背中を抓られ続けるイワンは、必死の抵抗。
だが。
「どの口が──そういうこと言うのかなぁ?」
と、周の絶対零度な視線は、変わらない。
それに加えて、更に冷たい鋼鉄の手にぐりぐりと力を入れて頭を撫でられ…イワンは密かに逆ギレ、した。
『もう! 何だよ二人とも!』
最大のテレパシーで叫び、無意識に掴んだもの、は。
周の水着の、肩紐。
はらり、と…周の右肩から、それが滑り落ち……見えたのは………………
あ、と額に汗を浮かべた、イワン。
目をむいて顔を背けた、アルベルト。
そして。
「─────イワン。程々にしておきなさいよ?」
マイナスが限界点まで達した、周…
気まずい空気に囲まれ、生きた心地がしなくなったイワンは、必死に周を見上げた。
『待ってよ周! 今のは事故っ!!』
そんなこんなで海組・プール組で多少のイザコザはあったものの(多少か?)、まあ無事と言えるだろう一日はあっという間に過ぎていった。
日が沈むと豪勢な食事をして、盛大に花火。
それが終わるとお子様組は、一日のエネルギーを使い果たしたように爆睡してしまった。
微笑ましく、そして無邪気に眠る彼らを見ると、ピュンマは息をついてベランダの椅子に腰を下ろす。
すると、
「はい、お疲れサマ」
と、背後から綺麗な色のカクテルを差し出された。
振り返るとそこには、涼しげなノースリーブを着た周、そしてビール片手に歩み寄ってくるアルベルトがいた。
二人はピュンマの向かい側に座ると……ハイスピードでグラスを空け始める。
「ま、ここからは大人の時間といきましょうよ」
「大人が聴いて呆れる」
昼間のイワンとのやり取りを思い出し、アルベルトは鼻で笑った。
何だかこの組み合わせにとてつもなく恐怖を感じたピュンマだが、昼間の疲れもあり、そしてジェットにやらかされた頭がまだ疼くのもあり…ま、いいかと息をついてカクテルに口を付けた。
「大変だろう、ガキどもは」
疲れきった表情のピュンマに、アルベルトは喉を鳴らして笑う。
「……戦闘時の冷静さはどこへ行った? って感じだよ」
苦笑を漏らしつつ、ぼやくピュンマ。
「ま、いいんじゃないの? たまに弾けるぐらい」
「…お前ら親子はいつもだろうが」
「うちはサーカスか」
周はじろり、とアルベルトを睨む。
あー、まただよ…とピュンマは頭を抱えたが、疲労度マックスで止める気も起こらない。
というか、そもそも止めようという奇特な人間は、メンバーの中に誰一人いないだろう。
険悪だが意外にも静かに飲み続け始めた二人を、ピュンマはそおっと見つめた。
なんだかんだ言って、この二人……面倒見がよかったり、する。
今日は例外だとしても、いつもお子様組に保護者(?)みたいな感じで付き添って行くし、周もイワンの面倒とかよく見るし。
アルベルトもアルベルトで、文句言いつつもちゃーんと子供達の暴走をくい止めてたりする。
……逆に暴走している時もあるけど…
「凄いよね、二人とも」
口をついて出たのは、率直な感想。
「本当に、みんなの両親、みたいだよ」
今日一日で、弾けたお子様達がどんなに危険か身に染みて分かったピュンマは、クスクスと微笑した。
が。
「「両親?」」
途端に…二人の頬がぴくりと痙攣する。
「その『両親』って、どこのどいつとペアなのかなぁ?」
「それ以前に、あんな喧しいガキ、いらん」
「あなたは案外、似合ってると思うけど? ほら、バカ陽気の親にはもってこい」
「恐ろしいことをぬかすな」
「何よ、褒めてるのに」
「褒めてるとは言わんな。著しい暴言だ」
「やだー、照れなくてもいいのにぃ」
「…一体、何が言いたい、お前」
ぎらりと、アルベルトの瞳が険しく輝く。
対する鈍色も、すうっと細められ、真っ正面からその険しさを受け止めていた。
次第に密度を増していく、険悪な雰囲気。
………すみません。僕が悪かったです…
口は災いの元、というのを普段の子供達の日常から学習したつもり…だったのだが。
まだまだ、修行が足りないらしい────……
これから一週間こんな状況が続く、ということを考えると…密かにノイローゼになりそうなピュンマだったが…
一緒にやって来た時点で、もう何もかも遅い…
「ほう、何ぞ面白い物があるのう」
リビングのテーブルに広げられているのは、たくさんの土産。
それを眺めたギルモアは、面白そうに微笑んだ。
「いーよなぁ、若者は。我が輩も是非、お供したかったね」
土産の獅子の置物を手にぼやいたグレートは、大げさに溜息をついた。
「…帰った早々、ピュンマみたいに高熱出したいアルか…?」
お気楽そうなグレートに、張々湖は一筋の汗を流す。
そう、ここに積まれているのは、例の沖縄旅行一団からの、土産。
そして一週間という長きにわたる時間を彼らと過ごしたピュンマは…ギルモア邸に帰り着いた途端、高熱を出して寝込んでしまった。
一体、この海の向こうで何があった、とその様子を見たグレートと張々湖は首をひねったが…瞬時に、あー…分かるような気がする、と妙に納得。
そう。何しろ…メンバーがメンバーだ。
いつも海外にいるピュンマには、あまり免疫がないため…まあ、こうもなるだろう。
日本で暮らし、それなりに彼らに対して免疫がついてきた二人は、ピュンマを気の毒に思いつつも凄まじく納得したように頷いた。
「ピュンマも大誤算だったろうな。これほどのものとは思ってなかったんだぜ? きっと」
「『一緒に行ってもいいよ』、と承諾した時点で、ワテら大絶賛だったネ」
ピュンマの勇気ある行動に、敬意を表して。
二階で闘病中の身には悪いが、ここは有難く土産を頂くことにしよう。
「博士、まあお座り下さい。美味しそうな物も結構ありますぜ?」
少し変わったお菓子を頬張り、グレートはギルモアをソファーへ促した。
そっと歩み寄ったギルモアは、ふと視線を止めて、穏やかに笑う。
土産、か───
「ワシは、これで十分じゃよ」
言って、手に取ったのは、一枚の写真。
それは…真っ青な海を背景に写る、旅行組の集合写真。
弾けた笑顔、楽しそうな雰囲気のそれは。
どんな物よりも、嬉しい、土産。
いつまでも。
こんな彼らの姿を、見ていたい。
そう。
夏色に輝く、太陽そのものの、笑顔を。
<了>
<Prev.
juiさまのサイト「凛樹館」でキリバン5000を踏んでいただきました。
リクエスト内容は、
「遠雷」ネタ。
おこちゃま(イワン ジェット フラン ジョー クロウディア)とアルベルトそして周で海水浴。
ピュンマさまも仲間に加え、なおかつ彼を壊して欲しい。
さらに、お約束、アルベルトと周には絶対零度の会話。
という、私の我侭に完璧に応えていただきました!!!!(感激)
juiさま、「ピュンマを弾けさせるのは難しいよねー。」と仰りながらも、どうしてどうして、彼らしい「切れ方」に感動です。 「能力使わないでね」って大人の振りしながら、切れると思いっきり「能力」を駆使(爆)。
後半は後半で、「パパ、ママ」ってイワン・・・、あの2人を相手にチャレンジャーです。
そしてピュンマ様も暴言ですか・・・。さぞかし身も心も凍る思いだったでしょう。
寝冷えならぬ、会話冷えで高熱ですね。お早い回復をお祈りしております。
最後の博士のほのぼの感がお話を綺麗にまとめてらっしゃって。素敵なお話でした。
juiさま、本当にありがとうございました!ペコリ(o_ _)o))
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