大誤算(前) (遠雷(いただきもの)/
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太陽、燦々。
鬱陶しいぐらいに鳴く、セミ。
アスファルトに立ち上る、蜃気楼。
カランと溶ける、グラスの氷。
夏、こんな暑い日は。
みんなで海に行こう────
「で………どうしてドルフィン号、なんだい?」
唖然としつつピュンマは、嬉々として青い海に騒ぐ面々を見回した。
ドルフィン号の窓から見えるその風景は、正に南国。
真っ青な水面と眩しいような白い砂浜が、雲の下に広がっている。
が、ピュンマの呼びかけなど完全に聞こえていないお子様組は、そんな風景に感動の嵐。ひたすら食い入るように眼下を覗き込み、壮大な絶景っぷりに大はしゃぎしていた。
そんな中。
「だって考えてごらんなさいよ。このメンツで一般交通機関を使っていたら、気分が悪くなる。とてもじゃないけど、面倒見切れない」
中央シートで文庫本を開いた周だけがピュンマの発言を聴いていたらしく、辛うじて返答らしきものを呟いた。
「修学旅行の引率みたいなものなんて、ごめんだわ」
「……っていうよりは家族旅行、だね」
殺伐とした周の言葉に、どこが違うんだろう、とピュンマは苦笑する。
その『家族旅行』でドルフィン号を動かすなんて、よくギルモア博士が許可したものだ。
というかその博士自体、まあ点検後の試運転も兼ねて行っておいで、とのたもうたのだから、その時点で終わっている。
そこでたまたま訪れていたピュンマが巻き込まれ……更にメンテを盛大にサボってやっと来日していたジェットとアルベルトをも引っくるめてのお出かけ、という展開になったのだ。
行き先は、沖縄。
そして宿泊先は、最近できたばかりだという、仁科医療グループの保養所。
なんでもバンガロー式でプライベートビーチもプールもあり、ちょっとした南国ホテルの造りらしい。
で……事の発端はというと。
…某銀髪娘の提案、だった。
そう、クロウディアが叩きつけるようにしてこのメンツの前にパンフを置き、連れて行けと詰め寄ったのである。
大賛成! とはしゃぎ回ったのは、ジョー、ジェット、イワンにフランソワーズの『お子様』組。
何だか訳の分からない殺気を醸しだし、すうっと薄氷色の瞳を細めたのは、アルベルト。
周は周で、仕事あるからみんなで行ってきて、とヒラヒラと手を振った…のだが……いつの間にか出勤簿が『一週間有休』という風に塗り替えられていたらしい。
犯人は、言わずと知れた、啓吾と莉都。
さすがは会長と副会長……その権力の発揮ぶりは、ある意味、凄い。
と言うわけでかなりの引っかかりがある人間はいるものの、ここは喜んでいるお子様達に免じて…と出発することになったのだった。しかもドルフィン号で…
本当にそこは、保養所とは思えないほど凝った建物だった。
南国さながらの作りに、調度品。
プライベートプールも様々な大きさのものがあり、その先には美しい砂浜。
中庭には南国植物が咲き乱れ…思わず、
「…いっそのことホテルとしてオープンさせりゃ儲かったんじゃねぇか?」
というジェットの言葉に、皆、共感。
どこが「ちょっとした南国ホテルの造り」だ。ちょっとした、ではなく、本当に観光地のホテルそのものという佇まい…にほぼ全員が唖然状態。
ファミリータイプのバンガローも凝った作りで、ベランダにはハンモック、籐の椅子など正に常夏の国仕様。
それを目にした途端、やっほー!と お子様達は、天井から薄いレースが垂れ下がったベッドに飛び込んだ。
そんな五人の姿に、アルベルトとピュンマ、周は肩をすくめる。
部屋に用意されていたトロピカルフルーツを食べ終わると、お子様組は素早く着替えて海に直行。浮き輪だのビーチボールなどを抱えて、あっという間に姿を消した。
嵐のような速攻ぶりに……残されたアルベルト、ピュンマ、周…そして都合上残ったイワンは目を点にする。
「…娯楽に飢えてるのか」
「失礼ね。まるで私がいいとこに連れて行ってないようじゃない」
「違うのか?」
「たまにしか来ない人間にいわれたかない」
嵐の集団を見送って息をついた周は、ふいっとアルベルトから顔を背けてイワンを抱き上げた。
「イワンも残ってちゃつまんないわね。プールでも連れて行ってあげようか?」
『周は? 泳がないの?』
「水につかるぐらいなら入ってもいいな。海よりプールがいい」
『じゃ、連れて行ってよ』
腕の中で周を見上げたイワンは、クスクスと嬉しそうに笑う。
「海組はどうする」
浜辺へ駆けだしていく元気なメンツを横目で追ったアルベルトは、周とピュンマを見回した。
あのメンツに「沖へ出るな」とか「波に注意しろ」という言葉は一切必要ないが、如何せん、ヤツらだ。別の意味で、監視がいる。
何しろこの時期なので、保養所はめいいっぱい満室。小規模な建物だとはいえ、人は多い。
いくら会社のプライベートスペースとはいえ、自分達からすれば「一般人」と呼べる者たちがわんさかいるのだ。
そんなふうに頭を悩ませていると、
「任せた、わ」
と周が短く言って…イワンと共に部屋を後にした。
残されたピュンマとアルベルトは、一拍おいて顔を見合わせる。
押しつけやがったな……周…!
「そーれっ!!」
素晴らしいジャンピングサーブでクロウディアが殴った…もとい、飛ばしたビーチボールは、フルスピードでジェットに向かって行った。
「へ! 甘ぇんだよ黒死蝶!」
全く怯まず、剛速球を受け止めるジェット。
「きゃあ! 恐い!」
叫びながらも、見事に打ち返すフランソワーズも凄い凄い。
「そっち行ったよ!」
ジョーもジョーで、速攻のレシーブ。
何とも難易度の高い、お遊びのビーチバレー。
皆が動いてボールを受け止めるたびに、凄まじい水しぶきが上がった。
そう、何故かムキになって己の力を存分に発揮し、命がけかというような勢いでボールを追いまくっている。
そんな勢いでやっているものだから、さっきからビーチボールが鬼のように割れまくり。
いっそのこと、バレーボールでも持ってくれば良かったのでは…と輪に混じったピュンマは思うのだが、例えバレーボールだとしても、この人並み外れた腕力の面々では破壊されかねない。
にしても……
「スライディングキャッチー!」
「あ、今度は違う角度ね?」
「あー! どこ飛ばしてんだよ! クロウディアっ!」
「僕に任せて!」
………人目もはばからず、『能力』使いすぎです、皆さん。
ピュンマは恐る恐る、背後の浜辺を振り返った。
白い砂浜には、そこそこの、人数。
皆、この戦闘のように繰り広げられる……だが、楽しそうなお遊びに…目を点にしていた。
「あのね…君たち…」
密かに頭痛を感じて、ピュンマはこめかみを押さえた。
別の意味で監視がいる、と眉をぴくりと動かしたアルベルトの言葉が、凄まじく身に染みる。
さっきから何度も「能力は使うな」、と注意してみるのだが、浮かれまくっている子供達は聴きゃーしない。
……手に負えません…お父さん、お母さん。
だが、その両親(?)が、監視を放棄しているので、ラチがあかない。
そう結局、アルベルトまでピュンマに押しつけて散歩に行ってしまったのだ。
大きくピュンマが溜息をついて肩を落とした、その時。
ばしいぃぃぃぃぃぃ…ん…
凄まじい剛速球が、ピュンマの頭に直撃、した。
「悪ぃピュンマ。大丈夫か?」
その剛球を打ったらしき張本人…ジェットは、軽く平謝り。
暫く静寂が広がったものの、それはそれで軽くその場の状況は流されようとしていた、が。
突然……とぷん、と音を立てて、すうっとピュンマが水の中に消えた。
かと思うと、その5秒後。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
がぼがぼがぼっ…と、たった今までそこにいたジェットが、一瞬で豪快に沈没。
そのまま……水の中から足を掴まれ、沈みつつも水上スキーのようにフルスピードで引っ張り回されて、行く。
「ピュンマァァァァァァーーー!! 何しやがる! つーか悪かったっつってるだろう!!」
ジェットの叫びはむなしく水面にこだましたが……ピュンマの暴走は止まらない。
何とも奇妙な体勢で引っ張られ、沖へ消えていくジェットを見ながら…ジョー、フランソワーズ、クロウディアは呆気にとられたまま固まった。
「ピュンマって……」
目を瞬いてボールを片手に硬直した、ジョー。
「静かにキレるんだね」
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jui様の凛樹館で5000番を踏み、書いていただきました。
「遠雷」番外編。
彼らが水着に着替えたら・・・。(汗)
リクエスト内容は「ピュンマを壊す。」
「遠雷」番外編。
彼らが水着に着替えたら・・・。(汗)
リクエスト内容は「ピュンマを壊す。」
太陽、燦々。
鬱陶しいぐらいに鳴く、セミ。
アスファルトに立ち上る、蜃気楼。
カランと溶ける、グラスの氷。
夏、こんな暑い日は。
みんなで海に行こう────
「で………どうしてドルフィン号、なんだい?」
唖然としつつピュンマは、嬉々として青い海に騒ぐ面々を見回した。
ドルフィン号の窓から見えるその風景は、正に南国。
真っ青な水面と眩しいような白い砂浜が、雲の下に広がっている。
が、ピュンマの呼びかけなど完全に聞こえていないお子様組は、そんな風景に感動の嵐。ひたすら食い入るように眼下を覗き込み、壮大な絶景っぷりに大はしゃぎしていた。
そんな中。
「だって考えてごらんなさいよ。このメンツで一般交通機関を使っていたら、気分が悪くなる。とてもじゃないけど、面倒見切れない」
中央シートで文庫本を開いた周だけがピュンマの発言を聴いていたらしく、辛うじて返答らしきものを呟いた。
「修学旅行の引率みたいなものなんて、ごめんだわ」
「……っていうよりは家族旅行、だね」
殺伐とした周の言葉に、どこが違うんだろう、とピュンマは苦笑する。
その『家族旅行』でドルフィン号を動かすなんて、よくギルモア博士が許可したものだ。
というかその博士自体、まあ点検後の試運転も兼ねて行っておいで、とのたもうたのだから、その時点で終わっている。
そこでたまたま訪れていたピュンマが巻き込まれ……更にメンテを盛大にサボってやっと来日していたジェットとアルベルトをも引っくるめてのお出かけ、という展開になったのだ。
行き先は、沖縄。
そして宿泊先は、最近できたばかりだという、仁科医療グループの保養所。
なんでもバンガロー式でプライベートビーチもプールもあり、ちょっとした南国ホテルの造りらしい。
で……事の発端はというと。
…某銀髪娘の提案、だった。
そう、クロウディアが叩きつけるようにしてこのメンツの前にパンフを置き、連れて行けと詰め寄ったのである。
大賛成! とはしゃぎ回ったのは、ジョー、ジェット、イワンにフランソワーズの『お子様』組。
何だか訳の分からない殺気を醸しだし、すうっと薄氷色の瞳を細めたのは、アルベルト。
周は周で、仕事あるからみんなで行ってきて、とヒラヒラと手を振った…のだが……いつの間にか出勤簿が『一週間有休』という風に塗り替えられていたらしい。
犯人は、言わずと知れた、啓吾と莉都。
さすがは会長と副会長……その権力の発揮ぶりは、ある意味、凄い。
と言うわけでかなりの引っかかりがある人間はいるものの、ここは喜んでいるお子様達に免じて…と出発することになったのだった。しかもドルフィン号で…
本当にそこは、保養所とは思えないほど凝った建物だった。
南国さながらの作りに、調度品。
プライベートプールも様々な大きさのものがあり、その先には美しい砂浜。
中庭には南国植物が咲き乱れ…思わず、
「…いっそのことホテルとしてオープンさせりゃ儲かったんじゃねぇか?」
というジェットの言葉に、皆、共感。
どこが「ちょっとした南国ホテルの造り」だ。ちょっとした、ではなく、本当に観光地のホテルそのものという佇まい…にほぼ全員が唖然状態。
ファミリータイプのバンガローも凝った作りで、ベランダにはハンモック、籐の椅子など正に常夏の国仕様。
それを目にした途端、やっほー!と お子様達は、天井から薄いレースが垂れ下がったベッドに飛び込んだ。
そんな五人の姿に、アルベルトとピュンマ、周は肩をすくめる。
部屋に用意されていたトロピカルフルーツを食べ終わると、お子様組は素早く着替えて海に直行。浮き輪だのビーチボールなどを抱えて、あっという間に姿を消した。
嵐のような速攻ぶりに……残されたアルベルト、ピュンマ、周…そして都合上残ったイワンは目を点にする。
「…娯楽に飢えてるのか」
「失礼ね。まるで私がいいとこに連れて行ってないようじゃない」
「違うのか?」
「たまにしか来ない人間にいわれたかない」
嵐の集団を見送って息をついた周は、ふいっとアルベルトから顔を背けてイワンを抱き上げた。
「イワンも残ってちゃつまんないわね。プールでも連れて行ってあげようか?」
『周は? 泳がないの?』
「水につかるぐらいなら入ってもいいな。海よりプールがいい」
『じゃ、連れて行ってよ』
腕の中で周を見上げたイワンは、クスクスと嬉しそうに笑う。
「海組はどうする」
浜辺へ駆けだしていく元気なメンツを横目で追ったアルベルトは、周とピュンマを見回した。
あのメンツに「沖へ出るな」とか「波に注意しろ」という言葉は一切必要ないが、如何せん、ヤツらだ。別の意味で、監視がいる。
何しろこの時期なので、保養所はめいいっぱい満室。小規模な建物だとはいえ、人は多い。
いくら会社のプライベートスペースとはいえ、自分達からすれば「一般人」と呼べる者たちがわんさかいるのだ。
そんなふうに頭を悩ませていると、
「任せた、わ」
と周が短く言って…イワンと共に部屋を後にした。
残されたピュンマとアルベルトは、一拍おいて顔を見合わせる。
押しつけやがったな……周…!
「そーれっ!!」
素晴らしいジャンピングサーブでクロウディアが殴った…もとい、飛ばしたビーチボールは、フルスピードでジェットに向かって行った。
「へ! 甘ぇんだよ黒死蝶!」
全く怯まず、剛速球を受け止めるジェット。
「きゃあ! 恐い!」
叫びながらも、見事に打ち返すフランソワーズも凄い凄い。
「そっち行ったよ!」
ジョーもジョーで、速攻のレシーブ。
何とも難易度の高い、お遊びのビーチバレー。
皆が動いてボールを受け止めるたびに、凄まじい水しぶきが上がった。
そう、何故かムキになって己の力を存分に発揮し、命がけかというような勢いでボールを追いまくっている。
そんな勢いでやっているものだから、さっきからビーチボールが鬼のように割れまくり。
いっそのこと、バレーボールでも持ってくれば良かったのでは…と輪に混じったピュンマは思うのだが、例えバレーボールだとしても、この人並み外れた腕力の面々では破壊されかねない。
にしても……
「スライディングキャッチー!」
「あ、今度は違う角度ね?」
「あー! どこ飛ばしてんだよ! クロウディアっ!」
「僕に任せて!」
………人目もはばからず、『能力』使いすぎです、皆さん。
ピュンマは恐る恐る、背後の浜辺を振り返った。
白い砂浜には、そこそこの、人数。
皆、この戦闘のように繰り広げられる……だが、楽しそうなお遊びに…目を点にしていた。
「あのね…君たち…」
密かに頭痛を感じて、ピュンマはこめかみを押さえた。
別の意味で監視がいる、と眉をぴくりと動かしたアルベルトの言葉が、凄まじく身に染みる。
さっきから何度も「能力は使うな」、と注意してみるのだが、浮かれまくっている子供達は聴きゃーしない。
……手に負えません…お父さん、お母さん。
だが、その両親(?)が、監視を放棄しているので、ラチがあかない。
そう結局、アルベルトまでピュンマに押しつけて散歩に行ってしまったのだ。
大きくピュンマが溜息をついて肩を落とした、その時。
ばしいぃぃぃぃぃぃ…ん…
凄まじい剛速球が、ピュンマの頭に直撃、した。
「悪ぃピュンマ。大丈夫か?」
その剛球を打ったらしき張本人…ジェットは、軽く平謝り。
暫く静寂が広がったものの、それはそれで軽くその場の状況は流されようとしていた、が。
突然……とぷん、と音を立てて、すうっとピュンマが水の中に消えた。
かと思うと、その5秒後。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
がぼがぼがぼっ…と、たった今までそこにいたジェットが、一瞬で豪快に沈没。
そのまま……水の中から足を掴まれ、沈みつつも水上スキーのようにフルスピードで引っ張り回されて、行く。
「ピュンマァァァァァァーーー!! 何しやがる! つーか悪かったっつってるだろう!!」
ジェットの叫びはむなしく水面にこだましたが……ピュンマの暴走は止まらない。
何とも奇妙な体勢で引っ張られ、沖へ消えていくジェットを見ながら…ジョー、フランソワーズ、クロウディアは呆気にとられたまま固まった。
「ピュンマって……」
目を瞬いてボールを片手に硬直した、ジョー。
「静かにキレるんだね」
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