宇宙(そら)も飛べるはず (お笑い/
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暖かな午後のひととき ――
事件は無く、そんな予感も兆候も全く無い。
せいぜい、ジェットの作ったミルクが少しばかり熱くってイワンが大泣きしたとか、大人が作ったおかずの餃子が3個無くなってしまっていたとか、事件と言うより笑い話に近い出来事がある程度の、のんびりとした退屈な午後。
メンバー達も自分の時間を思い思いに過ごしていた。
ギルモア邸では午後の2時を少しだけまわったところ。普段はリビングも静まり返っている時間だが、退屈しのぎなのか、それとも午睡から少しだけ早く目覚めてしまったためか、いつもより早いお茶の時間が始まっていた。
キッチンにはフランソワーズ。
テラスにはグレートと大人。
イワンは陽だまりの中でうとうとと昼寝中。
ジェロニモは・・・姿が見えないが、おそらく裏の森で静かに時間を過ごしているに違いない。
そしてリビングのソファーではアルベルトとピュンマが談笑している。
その場にはジョーもいるのだが、2人の会話を黙って聞いていた。
2人の邪魔にならないように口を閉ざし、しかし常に口元は優しく微笑みを浮かべ、あるときは博学の2人を尊敬するまなざしで見つめ、あるときは2人の話に栗色の目を見開いて驚いた表情をした。言葉こそ発しないが、上手な聞き役に徹している。
3人の周りは今日の天気のように暖かく、和やかな雰囲気が漂っていた。
パタン
窓際のレースのカーテンがふわっとやわらかな風を抱き込んだその時、リビングのドアが開いて赤毛の男が入ってきた。
「噂をすれば・・・なんとやらだな」
銀髪のドイツ人が皮肉めいた言葉を発すれば、
「やあ、ジェット。今、丁度君の話をしていたところだったんだよ」
黒人の青年は彼にソファーを勧める。
栗色の髪の日本人は何も言わないが、口元に笑みを湛え、彼を歓迎した。
「俺の話って?」
アメリカ人の彼は眉間にしわを寄せ、一瞬不快そうな表情をした。
「実はさ、今日源さんの所に行ってきたんだけど ―― 」
ピュンマが話を始めた。
「君の部品が出来たからって預かってきたんだ。ジェットエンジンの部品でね、ついでだから構造を説明してもらったんだ」
「それで?」
一向に話の要点がつかめないことに少し苛立ちを覚えたのか、とげとげしい口調で先を促す。
「君のエンジンが外気を取り込むタイプだったんだって、初めて知ったよ」
彼の不快には一向に構わない様子で、「本当に驚いたよ」と彼は穏やかな口調を崩さずに言った。
話の主旨を理解したことで、ジェットもやっと表情を和らげた。
「知らなかったのか?」
ソファーに腰掛けながら、少し呆れたような表情で言った。
「今までの僕達って、そんな話・・・滅多にしなかっただろう? だから知らなかったんだ。
僕はてっきり君の体に固体酸素か圧縮ボンベが搭載されていて、それを燃焼させてジェット噴射をしているんだと思っていたんだよ。だから、君と付き合いの長いアルベルトは知っていたのかなって思ってさ、それで聞いていたんだ」
アルベルトは少しだけ口元を緩め、ジェットを見てニヤリと笑った。
「オッサンは知ってたんだろう?」
笑みの意味をそう解釈したのか、ジェットは確信をこめた言葉でアルベルトに問うた。
「いや、知ってたには知ってたが・・・・。神さんとの戦いまでは俺も知らなかったぞ」
辛い戦いを思い出したのか、彼の表情は一瞬だけ強張った。
「あのとき、お前が言ったろう?『酸欠でジェットが出ねぇ』って。 あの時だ。一瞬、我が耳を疑ったよ」
苦笑いをしながら、コーヒーを一口すすった。
ジョーはニコニコしながら3人の顔をかわるがわる見つめている。
なんだぁ、結局、誰もちゃんとはわかってくれていなかったんだ、と言いたげにジェットは肩をすぼめて、呆れたように溜息をついた。
「外気を取り込むってのはさ――」
ジェットはソファーの背もたれに身体を預け、話を始めた。
「お前らが考えているよりも、ずーーっと、大変なことなんだぜ」
そう言って目を閉じ、暫く何かを思い出すような表情をしたあと、言葉を続けた。
「空を飛んでいると、いろいろなトラブルがあるもんなんだ。夏場は虫が入ってくるし、秋は木の葉が引っかかったりする。燃焼室がやけに嫌なにおいがすると思ったら、ビニールを吸い込んでいて、そいつが燃えてたり・・・・・今の時期は花だな。この前なんか桜吹雪の下を低空飛行して遊んだら、途端に花びらがつまっちゃってよ」
「あの時は苦労したぜ」などと、今までには聞いたこともないジェットの苦労談に全員がくつろいだ笑い声を立てた。
ジョーは思った。
こんな日がずっと続くといい。
戦いの無い平和な日々。
自分達の特殊な能力を使わない毎日。
彼は眠たくなるような陽だまりの中で、3人の会話を楽しんでいたが、
「ねぇ・・・・」
会話が一瞬途切れたその時、邪魔にならないように、そっと、注意深く、口を開いた。
「前から疑問に思っていたんだけど・・・・」
3人の暖かい視線がジョーに注がれる。
少し照れたような表情を見せ、仔犬のような瞳で彼は言った。
「酸素がないと飛べないのに、どうやって宇宙まで僕を・・・・助けに来てくれたんだい?」
それまで、暖かかったリビングの温度が一瞬にして凍りついた。
冷たい風が4人の間をすぅっと抜けていく。
「―― そうそう、俺、部屋を片付けないと! またフランに説教される」
あまりにも不自然な理由でジェットはそそくさとその場を離れた。
「あっ・・・僕も電同誌のダウンロードしてたんだっけ」
ギルモア邸はADSL回線でダウンロードにもさほどの時間がかからないはずなのに、絶対嘘だと見破れる理由をいけしゃぁしゃあと言い切ったピュンマは、まるで逃げるかのように部屋へと戻っていった。
「あっ、後で僕にも読ませてねー」
ジョーはニッコリと笑ってピュンマの背中を見送った。
和やかだったリビングはアルベルトとジョーの2人になっていた。
アルベルトも手元にあった本を開き、何事も無かったかのようにそれを読み始めた。
ジョーは中座した2人の不自然さを疑うでもなく、アルベルトの行動を不審に思うことも無く、
「ねえ、アルベルトは・・・・どう思う?」
栗色の瞳をさらに丸くし、小首をかしげて尋ねた。
読み始めた本をパタンと閉じて、1つ大きな溜息を漏らしてから、苦々しい表情のアルベルトはゆっくりと言い放つ。
「忘れろ」
「えっ?」
「いいから忘れろ」
「どうして?」
「きっと誰にも答えられないから」
「そう・・なの?」
「そうだ」
「わ・・・かった」
有無を言わせぬアルベルトの言葉に、ジョーはしぶしぶ頷いた。
が、彼の膨らみ始めた疑問は風船のようにどんどん大きくなっていく。
再び本を読み始めたアルベルトの横顔を眺めながら、あの日のことを思い出した。
確かにジェットは僕を助けに来てくれた。
ジェットがでていたかどうかは・・・よく覚えていないけど。
イワンの力?・・・・・でも宇宙は遠すぎるはずだし
気合?・・・・ジェットだったらあり得るな
髪型が鳥っぽいんじゃなくて、本当は鳥だったとか・・・・
あの鼻は、鼻じゃなくて嘴だったりして。
ありそうだな・・・。
そういうことに、しておこうっと♪
あなたの疑問に天然100%(濃縮還元)の彼が答えてくれます
暖かな午後のひととき ――
事件は無く、そんな予感も兆候も全く無い。
せいぜい、ジェットの作ったミルクが少しばかり熱くってイワンが大泣きしたとか、大人が作ったおかずの餃子が3個無くなってしまっていたとか、事件と言うより笑い話に近い出来事がある程度の、のんびりとした退屈な午後。
メンバー達も自分の時間を思い思いに過ごしていた。
ギルモア邸では午後の2時を少しだけまわったところ。普段はリビングも静まり返っている時間だが、退屈しのぎなのか、それとも午睡から少しだけ早く目覚めてしまったためか、いつもより早いお茶の時間が始まっていた。
キッチンにはフランソワーズ。
テラスにはグレートと大人。
イワンは陽だまりの中でうとうとと昼寝中。
ジェロニモは・・・姿が見えないが、おそらく裏の森で静かに時間を過ごしているに違いない。
そしてリビングのソファーではアルベルトとピュンマが談笑している。
その場にはジョーもいるのだが、2人の会話を黙って聞いていた。
2人の邪魔にならないように口を閉ざし、しかし常に口元は優しく微笑みを浮かべ、あるときは博学の2人を尊敬するまなざしで見つめ、あるときは2人の話に栗色の目を見開いて驚いた表情をした。言葉こそ発しないが、上手な聞き役に徹している。
3人の周りは今日の天気のように暖かく、和やかな雰囲気が漂っていた。
パタン
窓際のレースのカーテンがふわっとやわらかな風を抱き込んだその時、リビングのドアが開いて赤毛の男が入ってきた。
「噂をすれば・・・なんとやらだな」
銀髪のドイツ人が皮肉めいた言葉を発すれば、
「やあ、ジェット。今、丁度君の話をしていたところだったんだよ」
黒人の青年は彼にソファーを勧める。
栗色の髪の日本人は何も言わないが、口元に笑みを湛え、彼を歓迎した。
「俺の話って?」
アメリカ人の彼は眉間にしわを寄せ、一瞬不快そうな表情をした。
「実はさ、今日源さんの所に行ってきたんだけど ―― 」
ピュンマが話を始めた。
「君の部品が出来たからって預かってきたんだ。ジェットエンジンの部品でね、ついでだから構造を説明してもらったんだ」
「それで?」
一向に話の要点がつかめないことに少し苛立ちを覚えたのか、とげとげしい口調で先を促す。
「君のエンジンが外気を取り込むタイプだったんだって、初めて知ったよ」
彼の不快には一向に構わない様子で、「本当に驚いたよ」と彼は穏やかな口調を崩さずに言った。
話の主旨を理解したことで、ジェットもやっと表情を和らげた。
「知らなかったのか?」
ソファーに腰掛けながら、少し呆れたような表情で言った。
「今までの僕達って、そんな話・・・滅多にしなかっただろう? だから知らなかったんだ。
僕はてっきり君の体に固体酸素か圧縮ボンベが搭載されていて、それを燃焼させてジェット噴射をしているんだと思っていたんだよ。だから、君と付き合いの長いアルベルトは知っていたのかなって思ってさ、それで聞いていたんだ」
アルベルトは少しだけ口元を緩め、ジェットを見てニヤリと笑った。
「オッサンは知ってたんだろう?」
笑みの意味をそう解釈したのか、ジェットは確信をこめた言葉でアルベルトに問うた。
「いや、知ってたには知ってたが・・・・。神さんとの戦いまでは俺も知らなかったぞ」
辛い戦いを思い出したのか、彼の表情は一瞬だけ強張った。
「あのとき、お前が言ったろう?『酸欠でジェットが出ねぇ』って。 あの時だ。一瞬、我が耳を疑ったよ」
苦笑いをしながら、コーヒーを一口すすった。
ジョーはニコニコしながら3人の顔をかわるがわる見つめている。
なんだぁ、結局、誰もちゃんとはわかってくれていなかったんだ、と言いたげにジェットは肩をすぼめて、呆れたように溜息をついた。
「外気を取り込むってのはさ――」
ジェットはソファーの背もたれに身体を預け、話を始めた。
「お前らが考えているよりも、ずーーっと、大変なことなんだぜ」
そう言って目を閉じ、暫く何かを思い出すような表情をしたあと、言葉を続けた。
「空を飛んでいると、いろいろなトラブルがあるもんなんだ。夏場は虫が入ってくるし、秋は木の葉が引っかかったりする。燃焼室がやけに嫌なにおいがすると思ったら、ビニールを吸い込んでいて、そいつが燃えてたり・・・・・今の時期は花だな。この前なんか桜吹雪の下を低空飛行して遊んだら、途端に花びらがつまっちゃってよ」
「あの時は苦労したぜ」などと、今までには聞いたこともないジェットの苦労談に全員がくつろいだ笑い声を立てた。
ジョーは思った。
こんな日がずっと続くといい。
戦いの無い平和な日々。
自分達の特殊な能力を使わない毎日。
彼は眠たくなるような陽だまりの中で、3人の会話を楽しんでいたが、
「ねぇ・・・・」
会話が一瞬途切れたその時、邪魔にならないように、そっと、注意深く、口を開いた。
「前から疑問に思っていたんだけど・・・・」
3人の暖かい視線がジョーに注がれる。
少し照れたような表情を見せ、仔犬のような瞳で彼は言った。
「酸素がないと飛べないのに、どうやって宇宙まで僕を・・・・助けに来てくれたんだい?」
それまで、暖かかったリビングの温度が一瞬にして凍りついた。
冷たい風が4人の間をすぅっと抜けていく。
「―― そうそう、俺、部屋を片付けないと! またフランに説教される」
あまりにも不自然な理由でジェットはそそくさとその場を離れた。
「あっ・・・僕も電同誌のダウンロードしてたんだっけ」
ギルモア邸はADSL回線でダウンロードにもさほどの時間がかからないはずなのに、絶対嘘だと見破れる理由をいけしゃぁしゃあと言い切ったピュンマは、まるで逃げるかのように部屋へと戻っていった。
「あっ、後で僕にも読ませてねー」
ジョーはニッコリと笑ってピュンマの背中を見送った。
和やかだったリビングはアルベルトとジョーの2人になっていた。
アルベルトも手元にあった本を開き、何事も無かったかのようにそれを読み始めた。
ジョーは中座した2人の不自然さを疑うでもなく、アルベルトの行動を不審に思うことも無く、
「ねえ、アルベルトは・・・・どう思う?」
栗色の瞳をさらに丸くし、小首をかしげて尋ねた。
読み始めた本をパタンと閉じて、1つ大きな溜息を漏らしてから、苦々しい表情のアルベルトはゆっくりと言い放つ。
「忘れろ」
「えっ?」
「いいから忘れろ」
「どうして?」
「きっと誰にも答えられないから」
「そう・・なの?」
「そうだ」
「わ・・・かった」
有無を言わせぬアルベルトの言葉に、ジョーはしぶしぶ頷いた。
が、彼の膨らみ始めた疑問は風船のようにどんどん大きくなっていく。
再び本を読み始めたアルベルトの横顔を眺めながら、あの日のことを思い出した。
確かにジェットは僕を助けに来てくれた。
ジェットがでていたかどうかは・・・よく覚えていないけど。
イワンの力?・・・・・でも宇宙は遠すぎるはずだし
気合?・・・・ジェットだったらあり得るな
髪型が鳥っぽいんじゃなくて、本当は鳥だったとか・・・・
あの鼻は、鼻じゃなくて嘴だったりして。
ありそうだな・・・。
そういうことに、しておこうっと♪
(03年4月20日 NBG様に投稿)
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