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ケッショウジカン 2  (お笑いComments(0) )

9,1,2,3,4,ギルモア
天然ジョーくんを再びあの恐怖が襲う!





(1)

真っ白だった視界がだんだんと焦点を結びはじめ、そこがメンテナンスルームだと気付くのにはそれほど時間はかからなかった。
僕はゆっくりと身体を起こし、またぼんやりしている頭を2、3回振ってから周囲を見渡した。
計器の数々、コンピュータ・・・、そして棚にはたくさんの薬品と学術書や資料。





なのに






しん・・・・・






物音がしない。





「博士?」






呼んでみたが返事が無い。






「フランソワーズ?」






僕の声は真っ白な壁に吸い込まれていった。







人の気配も、機械の振動も、音さえもない部屋に僕はたった1人。 いつものメンテナンスだったらギルモア博士やその手伝いをしている フランソワーズが居るのに、どうしたというんだ?
いつも、とびっきりの笑顔で迎えてくれる君の姿が見られないなんて・・・。





「やっぱり―――」





音が聞こえないのは加速装置が入ったままになっているからだろう。
僕は祈るような気持ちで奥歯のスイッチを入れた。







カッ シャン・・・・。







スイッチが切り替わる機械音が頭蓋に響く。







だけど







しん・・・・・







変化は無かった。







あのときの恐怖が粟立つように全身を駆け抜ける。
もしかして、また時間が止まってしまったと言うのか!
冷や汗がつっーっと背中を流れ落ちた。







そういえば―――







今回のメンテナンスでは加速装置に手を加えると博士が言っていた。
ならばこの異常はまた、加速装置の誤動作に違いない。
また、あの1人きりの時間を過ごさなくてはならないのだろうか。
時間が経てば元に戻るだろう。しかし、それまでどのくらいの時間を待てばいいのか・・・。
1日なのか、1週間なのか、1ヶ月なのか、1年・・・


それとも一生・・・・。







とにかく、周りの様子を見に行こう。








(2)

リビングにはジェットとアルベルト。
僕の予想に反して、彼らは普通に動き、普通に話をしていた。

(あぁ、そうか)

メンテナンスルームで音が聞こえなかったのは、単に音が鳴っていなかっただけだ。
恥ずかしくなるような単純な誤解に僕はおもわずクスリと笑った。

(よかった。)


今すぐにでもジェットに走っていって、両手を握りしめ、僕の喜びを伝えたい。
だけど、それも変だから平静を装う。
だって、音の無い部屋で、僕がオロオロしていたなどと知られるわけにはいかないんだ。 これでも僕は一応、最強のサイボーグなんだから。些細なことに恐がっているだなんて、 口が裂けてもいえない。

それでも、やっぱり口元がだらしなく緩む。 端から見れば今の僕はちょっと変に見えるかもしれないが、この際どうだっていいや。 なんてったって、途方もなく長い時間をたった一人で過ごさなくても良くなったんだ。
そして、ジェットが僕の姿を見れば、『よぉ、ずいぶんと早くに目が覚めたんだな』位のことは言ってくれるだろう。





「ジェット。」僕は彼の名を呼んだ。





だが・・・・




振り返った彼の瞳は不信の色に染められていた。




「どういうことなんだ、これは?」





ジェットは大股でツカツカと歩いてくると、赤い頭を僕の目の前にグイッと突き出す。 そして、自分のトサカ・・・もとい、髪を掻き分けて、髪の奥のそのまた奥を見せ付けた。

そこには・・・

「ピィ・・・ピィ・・・ピィ・・・」

小さな小さな雛が1,2,3羽♪
「うわぁ~~。か~わいいなぁ~~~。君のペットかい?」
いけない、いけない、もう少しで「君の子供かい?」って言ってしまうところだったよ。
だけど、ジェットはニコリともせずに、ムッとしている。



「どうしたの?なにか心配事でもあるの?」
「・・・・」
「僕でよければ相談に乗ってもいいよ」
今日はいい日なんだ。どんな相談だって万事解決する自信があるよ。
「っつーか、これを俺の頭に入れた奴ってお前だろう?」
「はぁ?」
「こいつら俺の頭の中でフンばっかりしやがって、本当に迷惑してるんだ!」
確かにジェットの頭は少し異臭を放っている。
おなかがすいたのか、ヒナはパクパクと口を開けている。


「お前なんだろう!」


ジェットが再び僕を問い詰めた。





ちょっと待ってくれ!
僕がそんなことをするわけがないじゃないか。
第一さっきまでメンテナンスで寝ていた僕がどうして疑われなくっちゃならないんだ?
アリバイがあるんだ。





なのに・・・次の瞬間、




僕は自分のの口から出た言葉に心臓が止まるかと思うくらいビックリした。






「だって・・・この前の台風で親鳥が死んじゃって・・・フランソワーズが『可哀想』って言うし、巣もめちゃくちゃだったから・・・君の頭が丁度いいって思って・・・・。」






スルスルと淀みなく言い訳の言葉が出てくる、出てくる。
すごい饒舌だよ、僕。

・・・・って、すっかり自分が犯人って認めてどうするんだ!
ちゃんと僕の身の潔白を証明しないといけないのに。
案の定、ジェットは顔を真っ赤にして怒っている。






「冗談じゃねーよ!!!!!!」
「だから・・・その・・・ごめん。」






なんで謝ってるんだ?僕
犯人じゃないのに。





「もう、やらないから。それに、今日の晩御飯のおかず、君に分けてあげるから。」
「・・・・・」
「だからさ、今日のところは・・・ね」
「しかたねーなー。今日の晩御飯エビフライだから、いいか!2本よこせよ、2本だぞ。」

えーーーー!エビフライ大好物なのに(涙)
なんで僕、無実なのにエビフライ2本取られちゃうんだ?

「シャワーを浴びてくる!」相変わらず怒った口調でジェットはリビングを後にした。
僕の足元には3羽のヒナ・・・・。
どうすればいいんだ、これ?







(3)


とりあえず、空箱にヒナを入れて、僕はソファーに座った。
とてもいい日に思えたのに、ジェットの一件でケチがついたようだ。

「あ~~あ」

ソファーにもたれかかっている僕に、今度はアルベルトがツカツカと近づいてきた。

「どういうことだ?」

冷ややかな目が僕を見下ろす。
まるで戦場に居るときみたいな瞳。
嫌な予感がする。

「な、なんのこと?」
「ホウ? とぼけるわけか・・・・じゃあ、見れば思い出すな・・・。」

瞳の奥がキラリと光り、少しだけ口元が歪んだ。
と、次の瞬間、彼は3歩後ろに下がると膝を開けた!

「食らえっ!!!」

アルベルトは何の躊躇もなく、僕に向かってミサイルを発射した!
いくら僕がサイボーグだからって!!!! 思わず目をきつく瞑る。






だが、





★:゜*☆※> !!!パン!!! <※★:゜*☆






乾いた音が・・・・・・しただけだった・・・・。







恐る恐る目を開くと・・・・・その光景に僕は驚いた。
アルベルトの膝からは色とりどりの万国旗。それらは実に優雅に風になびいていた。
そして、万国旗のもう片方の端は僕の頭に・・・・乗っていた。

僕の頭とアルベルトの膝でひらひら揺れる万国旗。
運動会?クシコシポストのメロディーが頭の中を駆け巡る。
それにしても、驚いた。
口から人工心臓のネジが一本飛び出すかと思った。






「ちょ、ちょっと・・・・冗談にしてはキツイよ。」
「っていうか、お前だろ、これを仕掛けたの」





『僕は知らないってば・・・第一そんなことをするのはジェットに決まってるじゃないか。』
そう言うつもりだったのに、また勝手に口が動き始めた。




「だって、アルベルトの膝から万国旗が出たら楽しいかな・・・って。」
「フン、馬鹿馬鹿しい」


アルベルトは低い声でそう言い放った。
射るような目に僕は本気で殺されると思った。


「もう・・・しないよ・・・」
消え入りそうな声でそう言った僕に、
「今回はこれで許してやるが、今度やったらただじゃおかないぞ。」
彼は几帳面に旗を畳んで膝にしまうと、ドアへと向かう。

「あっ、日本の旗が・・・・」

膝からはみ出してるよ・・・という言葉は、しかし、ドアが乱暴にバタンと閉まる音にかき消された。






どういうことなんだ! 
なんでやっても無いことの犯人に仕立てられるんだ?
それに、僕もだ!
どうして、自分の意に反して罪をかぶってしまうんだろう。







おかしい!



おかしい、おかしい!!



絶対に、おかしい!!!



メンテナンスでなにかされたのだろうか?



それとも偽者の僕が出まわっているというのか?



ソファーに座ったまま、僕は頭を抱えてうずくまった。





その僕の肩にやわらかい手が差し伸べられる。
白くて暖かくてしなやかな手・・・フランソワーズだ!
君だけはわかってくれるはず・・・・。






僕は救いの天使をやっと得た思いでゆっくりと頭を上げた。






だが、視界に飛び込んできた君は・・・・





般若のようだった。






(4)



「どういうこと?」






彼女が僕に突きつけてきたのは写真の束。
イシュキック、マユミ、キャサリン王女、タマラ・・・・僕の前を通り過ぎていった女性達の写真。





「なんで、こんなのがあるんだ?」
「は! とぼけるのもいい加減にしてよ、あなたの部屋の机の引き出しに後生大事にしまってあったわよ。」
「知らないよ、本当に、絶対に!!」
「つくづくあなたの女癖の悪さには頭に来たわ、もうこれっきりにしましょう。」



写真を僕に投げつけて、君が去っていく・・・そして、その先には風呂上りのジェット?!


「あたしね、これからはジェットと付き合うことにしたわ。」


冗談じゃない!
振られるのはともかくとも、アイツに取られるのは我慢ならない。
僕は彼らに向かって走り出した・・・。







と、その瞬間、頭に衝撃が走り、僕は意識を失った。






(5)


気がつくと、メンテナンスルームに寝ていた。
目の前にはイワンと博士。


「じょー、目ガ覚メルノガ 早カッタンダネ」


          よかった。イワンは普通だ。


「早速大変ナ事態に陥ッテルミタイダシ」


          なぜ僕の窮地を知っているんだ?




「どういうことなんだ?」
僕は悪戯の犯人がイワンであると確信して、詰め寄った。
イワンを睨みつける僕をなだめるように、「まあまあ」とギルモア博士が割って入った。
「ワシから説明しよう。今回、加速装置に手を加えると言っただろう。」
「はい・・・」
「加速装置のメンテナンスのつもりだったんじゃが、ワシの手違いで部品が入らなくてな、でも君は眠ってしまったし、 せっかくなんで、以前から研究していた、「カコクソウチ」を入れてみたんじゃ。」


加速装置じゃなくて、カコクソウチ?

なんだろう、それ?


「カコク・・・装置・・・ですか」
僕の声は明らかに戸惑っていた。
「そうじゃ、「過酷装置」。スイッチを入れた人が過酷になるという部品での。」
「過酷・・・というと。」
「つまりは、過酷状態に陥った人間に、信じられないような災いが次から次へと襲い掛かる恐怖の部品なんじゃよ。」
「それで、僕がいろいろなことの犯人に仕立て上げられたんですか。」
「平たく言えば、そうじゃ。」
「なんで、そんなことを!! やっぱり博士は僕たちのことを科学者の目でしか見てないんですね。」
「科学者・・・というか、単なる悪戯にきまっとるじゃろう。」



博士はゲラゲラ笑った。
つられてイワンも笑う。



だけど僕は笑えない。

冗談じゃない。こんな状態が続いたら、僕は仲間を失ってしまう。
現にフランソワーズを失ってしまった。





(そうだ!)





あの時、スイッチを入れたから過酷状態になったわけで、切れば元通りになるはず・・・。







カチャ・・・。






その時、博士は哀れなものでも見るような表情をした。
「あのな、ジョー。過酷装置は過酷にすることを目的にしているので、一旦スイッチを入れたら2ヶ月は切れないんじゃよ」
「じゃあ、あと2ヶ月はずっとこのまま・・・・」
「ま、そう言うことじゃな。ハハハハ。」

2ヶ月も! それは困る。
こんなことなら2ヶ月加速装置が入りっぱなしのほうがどれだけマシか。


「イワン、君なら何とかできるだろう?」僕はイワンに頼み込んだ。
「残念ダケド、僕ニモ ドウニモデキナインダ。ゴメンネ。」

ゴメンという割にはイワンは全然すまなそうな顔をしていない。





「ソレニ過酷状態ノ じょーヲ見ルノモ楽シイシ。」





嘘だろ!イワンがこれほどまでに僕に冷たかったなんて。
いままでたくさんミルクを飲ませてあげてきたというのに。


裏切られたショックで、頭が真っ白になる。


そして、急速に目の前がぐるぐる回りだし、僕は意識を失った。




(6)

「ョー・・・・しっかりしてジョー」

ん? 誰かが呼んでる、誰?

「ジョー、ジョー」

肩を揺さぶられて僕は目が覚めた。
ここは・・・メンテナンスルーム。
そして僕の肩を揺すっていたのは・・・フランソワーズ。

「どうしたの?酷くうなされていて」
「過酷装置が・・・切れたの?」
「なによ、カコクソウチって、変なジョー」

フランソワーズはふんわりと微笑んで、優しい瞳で見つめてくれた。

よかった、いつもの君だ。

そうか、いままでのことは夢だったんだ。
それにしても酷い夢だった。




僕が目覚めた知らせを受けて、博士が部屋に入ってきた。
「ずいぶんと早くに目覚めたな・・・。まぁいい。ちょっと今回のメンテナンスの結果を説明しよう。」
そう言うと博士はベッドの脇の椅子に腰掛けた。
「まぁ、取り立てて悪いところは無かったが、加速装置の制御部だけは部品の交換をしておいたよ。
正常に作動するかどうか試してみてくれんかのぉ」
「ハイ」





僕は何気なしに奥歯のスイッチを入れた。





その瞬間、ギルモア博士の目が悪戯っぽく笑った。





・・・・と、その時、ジェットの足音がメンテナンス室へ近づいてくるのが聞こえた。






あとがき

元ネタは息子です。

私の影響ですっかりジェットスキーに仕立て上げたところまでは良かったんですが(ちなみに次男はイワンがいいらしい<渋っ)、009ごっこのときに

「かこくそーち」

と連呼するようになってしまいました。

何度か「加速だよ」と教えて上げたのですが、「かそく」が言いにくいのか、意図的に「かこく」と言っているのか、「かこくそーち」と叫ぶと、家中をゴキブリのように走り回ります。
彼はいいのでしょうが、周りにとってはかなり過酷です。

蛇足ですが、アルの膝から万国旗が出てくるのは、私の願望です。
(03年7月20日 初出)
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