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戦いは終わった ~策士・ピュンマの思惑~   (お笑いComments(0) )

4と8
ピュンマとアルベルトがミッションを総括します。
某天然少年を肴に2人が勝手なことを語り尽くす、酒の肴第2弾。
ピュンマが009を緻密に分析、そして彼の導き出した結論とは。
ピュンマが悪人になりつつあります。平にご容赦を。




 深夜のコクピット、ピュンマが独り居た。

 灯りを消したコクピットには満月の光が惜しみなく降り注ぎ、 鈍く唸り続ける装置がぼんやりと浮かびあがる。 彼が昼間の激戦を労わるように周囲の機械をゆっくりと見回すと、 コンプレッサーがねぎらいに応えるかのようにガタンと鈍く震えた。
 つと視界を外に移す。窓の外は海だけが広がり、ささ波は月の光を柔らかく反射していた。 昼間の戦いが夢だったのかと錯覚を覚えそうなほどに静かな夜だ。

 激しい戦いだった。あれほどの要塞を攻撃したのだからそれは当然のことで、 むしろ、たった9人で巨大要塞を陥落させたことが信じられない。  黒煙を噴き上げて沈みゆく要塞島の姿が脳裏にありありと浮かぶ。 身体に残る戦いの余韻は当分収まりそうにない。
 彼は昂ぶる気持ちを押さえるかのようにウイスキーを一口含んだ。


「一緒にいいか?」


 いつの間にか背後にはアルベルトが立っていた。
 ピュンマは無言で彼に隣の席を勧めた。





策士・ピュンマの思惑





「正直――」
 アルベルトは前方を見据えたまま口を開いた。
「今回ばかりは諦めていた」
 未だかつて見たこともない巨大な要塞に全員がしり込みをしたのは事実である。
 それでも敵の偵察機を乗っ取りニセの情報を流し、混乱に乗じて潜入した先発隊が基地中の非常サイレンを鳴らす、 敵兵の統率が乱れた隙に総攻撃を仕掛け、混乱に拍車が掛かったその隙に008と009が動力部分を破壊した。
 ピュンマの作戦が驚くほどに的中し、犠牲すら覚悟していた戦いはあっけなく終焉を迎えた。


 すべてが彼の計算通りだった。
 009が敵の新型サイボーグに苦戦を強いられたことを除いては。


「009は恐ろしい男だな」
 酒を一口含み、アルベルトが呟く。
「あぁ・・・」  ピュンマも同意した。
「彼は ――― 自分の性能を遥か凌ぐ相手であったも必ず、勝つ・・・・・まるで強さの限界というものが無いみたいだ。  それは戦いに対する天性の勘を持ってるからなんだろうけれど・・・・・・ 彼が敵でなくて本当によかったよ」
「まあ・・・な。 しかしな、ピュンマ、俺に言わせればオマエさんだって敵に回したくない男だ。
敵にこんな緻密な作戦を立てる参謀が居たら、俺達は間違いなく幽霊島すら脱出できなかっただろうな」
「それを言うなら、僕等は1人として欠ける訳にはいかないさ。誰が居なくてもきっと今日のこの日まで 生き延びることは出来なかったと思うよ」

 生真面目すぎる彼らしい言葉だ。が、一方で妙に説得力があり、アルベルトは苦笑しつつも素直に頷いた。

「ま、いずれにしろ、無傷で戦いが終わったのは、我らが軍師様のおかげだ」
 口元を歪ませてグラスを軽く上げた。ピュンマもはぐらかされたことを苦笑しながら応じた。


 薄雲が月を覆いはじめ、辺りの風景もコクピットも闇の中にゆっくりと沈みはじめた。


「だけど・・・ 何もかもが作戦通りというわけではなかったんだ。」
「あれでか」
 真顔に戻ったピュンマを呆れたように見つめる。  視線の先の彼は唇をかみ締めじっと考え込んでいたが、 やがてその口を重々しく開いた。


 ――― どうしても、009の動きが計算できない ―――


 予想だにしなかった告白にアルベルトの眉が微かに動いた。
「009の性能は僕等をはるかに凌いでいる・・・。 特に加速装置を使った攻撃では多くの敵を一瞬で倒すことが出来る・・・。彼の動きが戦いの行方を左右すると言っても過言じゃない。 だけどね、アルベルト、君は気付いていたかい?」
「なにを?」
「009は土壇場にならないと加速装置を使わないってこと」

 ピュンマの言葉にアルベルトは今までの戦いを振り返ろうと試みる。が、策士は彼に考える時間を与えることなく続けた。

「例えばイギリスのハチ ――― 確かに敵の数は多かった。 だが加速装置で迎え撃っていたら何もタンクを破壊する必要は無かったはずだ。
それからムアンバ ――― ブラックモンスターの破壊にずいぶん手間取ったけど、 あれだって加速装置を使ってくれればもっと楽に戦いを進められたはずだ」

 断定的な口調は、故国で起きた辛い戦いでさえも、彼の思考の中で何度もシミュレートしたことを物語っていた。 ピュンマのグラスの氷が崩れ、カランと音が響いた。その音が合図だったかのように彼は結論を口にした。

「ジョーはね、強い相手に対しては惜しげなく加速装置を使うけど、 それ以外の場所では余程の苦境に陥らない限り、加速しようとはしない」


 雲が切れ始め、辺りにもゆっくりと光が戻りはじめた。


「なるほど、まるでナガシマだな」
 無言でいたアルベルトから発せられた言葉はあまりに意外なものだった。
「ナガシマ?」
 ピュンマの目がいぶかしげに彼を見つめる。
「日本の野球の・・・巨人にいた長島茂雄だ」
「なんで野球なんだよ」
 ピュンマの声は憮然としていた。 ナガシマという名前も、話が日本の野球に変わったことも、そもそもドイツ人であるアルベルトが 日本の野球事情に詳しいことも、すべてが彼には唐突すぎたのである。
 だがアルベルトは構わず続けた。
「ナガシマって選手はな、相当なスタープレーヤーだったらしい、コズミのじいさんから聞かされた話だがな。 何でもないゴロが転がってきても、難しそうに補ってはファインプレーのように見せていたんだそうだ。 それでも派手なプレイに観客は大喜びだった・・・・」
「で、それがジョーの話と何の関係があるんだい?」
 冷静なピュンマにしては珍しく苛々した口調で先を促す。
「自分を良く見せる術に長けてるんだ、ナガシマも奴も・・・・。 奴はピンチに陥って初めて加速装置を使う。だからこそ活躍が際立つ」
 アルベルトの意外すぎる対比に、ピュンマの思考も一気に別の次元へと加速した。
「だから ――― 彼には女性ファンが多いのか!!  それにミッションで出会う女性達がことごとく彼になびいたのもそういうわけだったのか・・・。 ボクはこの40年でロマンスらしいロマンスはたったの1回だぞ・・・。 なんでこんな・・・こんなにも縁が無いのかと思っていたら、クソっそういうことだったのか!!!」

 怒りに任せてコクピットを殴りつけると、金属が潰れる音が辺りに響いた。

「落ち着け。俺が言いたいことは、そういうことじゃない」

 やるせない溜息を漏らし、ピュンマはそのまま押し黙った。自らを落ち着かせるかのように 手にあった残りの酒を一気に呷る。

「だがな・・・ブラックゴーストだって馬鹿じゃない。これからも高性能のサイボーグが次々に 開発されるに違いない。そうなれば009にも苦戦を強いられるだろうし、 ギャラリーを意識する ――― それを無意識にやってのける辺りが奴の恐ろしいところだがな ――― それはまあいいだろう。  兎に角、奴も周りを気にする余裕などなくなるはずだ。相手が強ければ最初から本気で戦うしかないし、 加速装置の出し惜しみもなくなるだろう・・・。 つまりオマエさんが心配している『計算が出来ない』ということも無くなるはずだ」

 「安心しろ」と諭されて、ピュンマの顔に明らかな落胆の色が広がった。

「ずいぶん長く振った話の結末は、たったそれだけ・・・かい?」
「ま、そういうことだ」

 アルベルトはニヤリと笑った。だがその笑みも一瞬で消えた。
 真顔に戻った彼は手元のグラスへ視線を落とし、自らを戒めるように呟いた。

「むしろこれからの心配は俺達の性能を上回る敵にどこまで戦い続ける ことが出来るか、ということだ」
「いや、それは心配に及ばないさ」
 今度はピュンマが笑う。
「どういう意味だ?」
「君の言うとおり、ジョーは強い相手になればなるほど本気が出る。 口で戦いたくないと叫びながらも身体は戦いに忠実に動く。 敵の急所を一瞬で見抜く力も抜群だ。多分彼が負けることは無いさ」
「そうだな・・・なら安心だな、これからも」
「あぁ、ブラックゴーストが方針を変えなければね」
「変える?」
「あぁ。力で押し切ろうとするからこういうことになる。僕だったら全く違うやり方をするね」
「どうするんだ?」
「僕だったら・・・・」



ここでピュンマはまっすぐアルベルトを見つめた。



「僕だったら仔犬を集めてきて軽く改造するよ。それを100匹もそろえれば充分さ。
名前はクビクロ部隊。 ジョーはきっと動けなくなる」






「嫌な性格だな、案外」









(fin)






あとがき


実はこれ、E田さまから頂いたリクエストのボツにした方。
なかなかうまく落とせず、しばらく放っておいたんですが、何とかなりそうな気がして 書き直し、今に至ります。前作と似ているのは平にご容赦を

したがって、「某天然少年を肴に酒を飲むピュンマとアルベルト」がテーマになっています。



ピュンマがだんだん悪人になっていく・・・・・(涙)


8スキーのみなさま、すみません。

(04年7月12日 初出)
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