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真夏の口戦(サイト一周年感謝として)  (お笑いComments(0) )

43話。(”よんじゅうさんわ”じゃなく・・・<このサイトではありえないカップリングなので)289も出てきます。
あまりの暑さにナンバーさんが海水浴。子供たちは海へ、大人はそれを眺め・・・




「・・・海に来れば涼しいと言ったのは誰だったかな」

 背後の皮肉な声にフランソワーズは振り返って微笑む。

「だって、涼しいでしょ?」
「とてもそんな気分にはなれんな」






真夏の口戦






 ジリジリ照りつける日差し、たっぷりと熱を蓄えた砂浜。 上と下から熱っせられ、ビーチパラソルの中はもはや蒸し風呂と化していた。 傘が作る申し訳程度の日陰の中で横になり、両手を頭の後ろに組んだアルベルトは不満気な表情を崩さない。

「君はホイル焼きって料理を知ってるか?」
「知っているわよ、もちろん」
「俺は今、猛烈にホイル焼きにされる魚の気分を味わっているところだ」
「あらそう」

 『それはよかったわね・・』と言い出しかねない彼女にめげることなく彼の愚痴は続く。

「さしずめ砂浜がオーブン、皮膚がアルミホイル・・・ 俺の中のわずかばかりの生身が今まさに沸騰しようとしているところだ」

 弱々しく文句言い続ける彼にフランソワーズは声を立てて笑った。

「まさか。アタシたちには温度制御回路がついているのよ。沸騰だなんて大袈裟だわ」
「もちろん冗談、だ」

 全く取り合ってもらえない。アルベルトは小さく舌打ちをした。
 遥か彼方、砂浜を走り回る子供達が「アツイアツイ」とポップコーンのように跳ね回っている。 その姿に彼の口から今日一番の溜息が零れた。
「奴らは元気だな」と呟き、
「きっとメンテナンスのときに神経を抜いてもらったに違いない」悪態すらつき始める。

 まるで子供のようにふてくされる彼をフランがクスリと笑う。

「あのね、そんなところで寝転がってるから暑いのよ。起きあがってごらんなさいよ、風がとっても気持ちいいんだから」

 海から吹いてくる風はパラソルを揺らし、 ビニールシートの端をばたばたと持ち上げる。フランソワーズは気持ちよさそうに目を細めた。

「海の湿気と熱気を帯びた風が気持ちいいとは思えんがな」

 結局寝そべったままのアルベルトはフン、と面白くなさそうに目を閉じた。














 『この夏は記録的な猛暑で・・・』 ニュースから毎日流れるこのセリフを今年は何回聞いたことだろう。 加えて寿命をとうの昔に過ぎていたクーラーがついに故障してしまい、 家に居ても暑いからと海にやってきたのはいいけれど、 こことて暑いことには変わりなかった。

「ほらっ、ジョーたちと一緒に海に入ってこればいいじゃない。少しは涼しくなるわよ」

 彼は気だるそうに上半身を起こし、再び海の方を見やる。砂浜の照り返しがきつくて思わず目を細めた。
 波打ち際では子供達 ――ジョー、ジェット、ピュンマ がダイナミックにプロレスを楽しんでいた。 繰り出される技が常人を遥かに超えていること以外は無邪気なことこの上ない。
 つとジェットの脚払いを食らったジョーが派手にしりもちを付いた。してやったりと大喜びのジェットに 腹を抱えて笑うピュンマ、2人の間のジョーは頭を掻きながらひたすら照れ笑いをしていた。
 笑い疲れてジョーが立ち上がろうとしたその時、両手、両足を2人に拘束され、彼は再び横倒しになった。 哀れな仔犬はそのまま持ち上げられ、2,3度ブランコのように揺さぶられた次の瞬間、


                    ふわっ


 その身体が勢い良く宙に放り出された。ジョーはどうにか下に落ちようと必死で手足をばたつかせているが、 上へ飛んでいく勢いは一向に治まる様子は無い。 豆粒ほどに小さくなった身体がようやく落下しはじめると、今度はグングンスピードをあげて、遥か彼方の水面へと消えていった。
 その光景に砂浜の2人は感嘆の溜息を漏らす。



「ずいぶんと飛んだな」
「軽く500mは行ったんじゃないかしら」
「とてもじゃないが、アレを素で楽しむことは俺には出来ん」

 そんなものを楽しめたのは50年も昔の話だ。いや50年前にこんな遊びにつき合わされていたら 年齢など関係なく即死だったに違いないが。

「それより、君こそ海で泳がないのか?」

 彼の問いに彼女は一瞬困ったような顔をした。

「焼けちゃうのよ」
「ジェットにか? それともピュンマにか? 生憎このサイト(※1)は29とか89には縁が無い。 だからそんな心配は必要ないぞ」
 からかうアルベルトにフランソワーズの眉が釣り上がる。
「何言ってるの? 私は誰にも焼いてません。 肌よ、焼けるって言ったら肌に決まってるじゃない」
「肌?」

 アルベルトの表情が怪訝そうに歪む。サイボーグなのに日焼けするのが不思議だといわんばかりの目。  彼の戸惑いを察したように彼女が続けた。

「人工皮膚に紫外線が当たると変質してしまうって言うのが正確ね。 ほら、アタシの皮膚ってみんなより柔らかく作ってあるでしょ」
「奴ならともかく、俺は知らん」
 遥か彼方の水面からようやく顔を出し、大きく手を振る少年を見やる。
「んもー、真面目に聞いてっ! とにかくアタシの皮膚は紫外線に弱いのっ。 まるでシミができるみたいに所々で斑点状に変色するんですっ!!」
「そりゃずいぶんと面倒だな。だったら博士に紫外線対策のクリームでも作ってもらえばいいじゃないか」
「それがね・・・・実はあるのよ」

 フランソワーズは手元にバスケットを引き寄せると、掌に治まるくらいの小瓶を取り出した。

「アナタ暇そうだし、背中にこれを塗ってくれない?」

 返事など聞く気は無いらしく、彼女はさっさと砂浜に寝そべった。 ピンと綺麗に伸びた白い背中が「はやく塗って」と彼に催促する。
 アルベルトはヤレヤレと溜息をつき、左手にクリームをたっぷり取った。 華奢な肩に遠慮がちに触れると、彼女の身体がピクリと反応した。  その反応に満足そうな笑みを浮かべつつ、アルベルトはそっと手を動かし始めた。  首筋から肩へ、肩から首筋へ・・・、肌と掌が吸い付くような感じをじっくり味わいながら  ゆっくり丁寧に塗っていく。  

 肩の辺りを彷徨っていた手が徐々に降りていき、背中まで到達すると不意にその動きがピタリ止まった。

「どうしたの?」
「君の・・・その・・・この邪魔な紐はどうすればいいのかな」
 ビキニの紐を指差す。
「アナタが取って」
「ジョーやジェットが見たら黙ってないぞ」
「こっちなんか気にしてるわけ無いじゃないの」

 波の音と一緒に彼らのはしゃぐ声が聞こえた。
 ジョーに掴まったジェットがピュンマの背中に無理やり乗せられている ――― と、次の瞬間、ピュンマはエンジン全開、猛スピードで沖のほうへと泳ぎ始めた。 否、泳ぐなんて優雅なものではない。その姿はまるで弾丸。 桁外れの推進力で海面が真っ二つに割れていた。
「助けてくれーーー!」
 ジェットの絶叫が海いっぱいに響いていた。

「確かに君の言う通りだ」

 アルベルトは笑うと、ビキニのホックをパチリと外した。 「やけに手馴れてるんじゃない?」という彼女の言葉は、  「奴よりうまいか?」と皮肉めいた口調に軽くあしらわれた。

 露になった背中、汗でほんのり湿った白い肌、砂浜に押し付けられた胸。 無防備といったらこれほど無防備な姿も無い。 いっそこのまま彼女を・・・。




                         ところが・・・・





 あまりの気持ちよさからか、はたまた日ごろの疲れからか、彼の手の下で彼女はすやすやと寝息を立て始めていた・・・・(涙)














「もう塗るところはないんだが、他には?」


 アルベルトの言葉にフランの意識が戻り、驚いたように彼を見つめた。
「もう1回塗ればいいか?それとも他にご希望があれば」
 意地悪く問い掛けると彼女は少し照れた様に笑い、「もういいわ、ありがとう」やけに素直に礼を言った。





「さて、お返しと言ってはなんですが―――」

 彼の機嫌はすっかり治っていて、

「俺の背中にもこれを塗っていただけないでしょうか」

 そう言うと茶褐色の瓶を彼女に手渡した。見慣れない瓶に彼女がクビを傾げる。






「ね、これも日焼け止めなの?」









「いや・・・その瓶は・・・・・・・


















                                 さび止めだ」
















(fin)




(注1 サイト:作者のサイト「Metal Chamber」のこと)





+言い訳+

43のつもりが見事に玉砕、すみません、期待してくださった方<何を?
所詮こんなものしか書けないと身にしみてわかりました。二度と43はやりません。

さて、アルベルトさんの身体は鋼(炭素鋼なのか合金鋼なのかは不明<いえ、どうでもいいことです) なので他のナンバーさんに比べ潮風には弱いに違い無いと思ってます。
海に来たら健康的などころか実は不健康。お気の毒なことです。

お嬢さんが日焼け止めを欠かせないように、アルベルトはさび止めが欠かせないのでした~~~♪


くだらない話(本当だ)にお付き合いくださってありがとうございました。

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