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蘇生  (シリアスComments(0) )

「蘇生」 をお読みいただく前に

このお話は、平ゼロ44話(バン=ボグート)を基にした捏造物です。
時間軸では拙作「真意」以前の話になります。
つまり、ピュンマが超々音波怪獣に攻撃され、ギルモア博士に手術を受けるくだりがこの話の中心です。途中、ピュンマの破損状態を説明する描写があったり、手術の経過に関する記述も出てきます。(鱗をつける描写だってあります<人でなし)

一言で言ってしまえば、途方もなく暗いだけの話です。
最後にほっとさせるようなオチもありません。

特に以下の項目に該当される方は、
お読みいただく前にご一考下さるようお願いいたします。

 ・44話が苦手な方
 ・あの話の博士が許せない方
 ・ピュンマの鱗話は悲しくなってしまう方


ついでに、上記注意書きを読んでオカルト物を期待された方申し訳ないですが、ご期待を完全に裏切ります。私、オカルトはこの世の中で一番嫌いですから・・・。

それでは、読んでやろうという方は、どうぞ!







時を刻む歯車がゆっくりと軋みはじめていた。






運命の輪が異質な音をそっと奏ではじめていた。






なにもかもが自分たちの知らない場所でひっそりと狂いはじめていた。






飛び立つドルフィン号の空気の揺らぎに
赤いスポーツカーの走り去る音に
空へと消えた002の姿に
格納庫に残るドルフィン号の気配に






科学者は言い知れぬ不安を感じていた。






今度だけはうまくいかない。
取り返しのつかないことが起きそうだ・・・ と。






胸の奥で不安だけが膿んだ傷口のように疼き続けた。







そしてそれは・・・・・








           「008が超々音波怪獣に―――― 」











                           現実のものとなってしまった。















蘇生















「胸から下は―――」

通信機から響く004の声。
008の容態を説明していた彼は一瞬間をおいた。小さく息を漏らすと、念を押すように言葉を紡ぐ。
「ほとんど原形を留めていません。心臓は動いていますが、拍動が不規則で 心拍数は40から70の間で増減を 繰り返しています。また今までに、数秒間ですが心臓停止が4回ありました。停止したのはこちらの時間で9時32分に30秒・・・9時41分に―――」
彼の容態を伝える004の声は、いつも以上に落ち着いていて かつ冷静だった。  発する言葉の1つ1つは まるで吹雪に晒され、冷え切った舌。それらがそっと舐めるように耳をすり抜けると、 身体中 粟立つような震えが走る。
「今のところ血栓は無いようですが、心臓内部――特に隔膜付近はどうなっているか 確認できません。処置らしい処置はまだ行っていませんが、出血を止めるために、 内蔵につながる動脈は全て閉め、脳にだけ血液を流しています。それから・・・」
説明不足でもなく、逆に多すぎることもない。簡潔な言葉で正確に的を得た話しぶりは、 今ある008の容態をありありと思い起こさせる。004の声には あせり、不安、恐怖 、そういったものが微塵も感じられず、映画のワンシーンを見てる錯覚さえ覚えた。だが 、己が心臓を脈打つ音は次第に大きくなり、やがて 鼓膜を震わせるのは拍動だけになっていた。




「――――博士、処置の指示を!」




004の声がはじめて荒いだ。




そう、だった。





「体温を25度まで下げ、心臓からの拍出流量を3.5から3へ下げてくれ。それから、酸素吸入を止めて肺への吸気はボンベに切り替えて、血中ガスが・・・・・・」
科学者の思考を遮り、彼自身の口が勝手に動き始める。
滑らかに澱みなく動く舌。ずいぶん前から こんな日が来ることを予感していたのだろう、科学者は頭の片隅で思った。 自分がドルフィン号に準備した器具も、何度となくシミュレーションしたその処置も、 気付かぬ間に彼の血液や筋肉に浸透していたのだ。 不意に彼は自分の身体を駆け巡る血液を想像する。 血管を流れる赤血球、そのヘモグロビンに結合する酸素。全てが規則正しく整然と進行する化学反応。 だが、酸素と一緒に 彼らの処置方法や手技がヘモグロビンに結合し、身体中の細胞全てが吸収していたのだ。 今、004に指示をしているのは自分ではなく、血液から情報を得た口の筋肉がしゃべっているに違いない。 そのことを確信した後、この緊急時にこんな馬鹿げた想像をしていることに微かな驚きを覚えた。



「くれぐれも、感染だけには注意をするように。」



やっとの思いで最後の言葉を搾り出し、パチリと通信を切った。
大きく息を吐き出すと、全身の筋肉が一気に弛緩し、彼は力無くソファーに倒れこんだ。
まだ、耳の奥で心臓の脈打つ音が激しく響く。





なぜ、こんなことに。





どこでどう間違ったのか。





なぜ、あの子達がこんな苦しみを背負わなくてはならないのか。







千切れるほどに唇を噛みしめ、組んだ両手へ強く額を押し当てる。
ソファーの上でうずくまり、小刻みに震える肩は、彼を失うかもしれない恐怖のため、 それとも悲しみのため なのか―――
そうして、彼の部屋は徐々に赤い闇に侵食されていく・・・・。






どのくらいそうしていたのか、やがて彼から冷えた笑いがこみ上げてきた。








「何を言ってるんだ。彼らを苦しみに巻き込んだのは、紛れもない、このワシじゃないか!」










彼はソファーに座ったまま、笑い続けていた。
瞳から水滴がジワリと溢れ出した。








周囲には、何もない、







音も色も、








ただ、彼の笑う声が響くだけ。
ただ、部屋が不気味な赤で染められているだけだった。







































メンテナンスルームの時計が午前1時を少しだけ回り、手術開始から4時間が経過 しようとしていた。だが、依然としてギルモアの表情は固いままだった。  008から伸ばされた血色の管は処置台脇の人工心肺装置へとつながり、 血液が彼と装置の間をゆっくりと巡リ続けていた。モーターが鈍く振動すると 浄化前の血液が申し訳なさそうにひっそりと液面を揺らした。険しい表情の科学者 がひとつひとつの脳波を確認する度に、正常を示すピッという音が返る。そして、 この神経を研ぎ澄ます作業はその後1時間以上に及び、無事に全てのチェックが終 了すると彼はようやく安堵の溜息を漏らした。

「脳波に異常が無いのは不幸中の幸いじゃったな・・・。 サイボーグの君たちは脳さえ無事であれば死ぬことは無いのじゃから。」

計器を片付けながら、彼がこの部屋に運び込まれてきたときの姿を思い出す。 あまりにも痛ましいその姿、生身であれば即死であったろう。機械の身体をもつ 彼らにとって、身体の破損は死を意味するものではない。壮絶な不幸に襲われても 、天に迎え入れられることのない、宿命。


あまりの不自然さに、科学者はこの蘇生という行為に眉をひそめた。
こんな状態の彼を救うことは、果たして正しいことなか。



「なぁ、008・・・・いや、ピュンマ・・・・」



ギルモアは椅子に座り、眠り続ける彼に語りかける。




「君は・・・生き延びたいのか? それとも、戦いに終りを告げたいのか・・・。」




答えなど、ない。いまだ自発呼吸さえ出来ない彼は、ただ、生かされているままに横たわっているだけだった。





   ――ダメだった、脳組織の損傷が酷くて、救うことなど到底叶わなかった。




彼の蘇生は中断すべきなのかもしれない。無論、彼の仲間の悲しみの深さは計り知れないだろう。 が、悲しみ以上に神に召される彼を祝福するに違いない。実際、彼は祝福されるに値するほど、 真摯に、誠実に、そして ひたむきに人生を生き抜いた。もう、重荷をおろしても十分すぎるく らい、彼は苦しんだのだ。自然であれば、既に命はない状態。生き延びさせることはあまりにも 不自然で、






     「それでもまだ、君は戦い続けることを望んでいるのだろうか?」








                   眠り続ける彼の瞼が少しだけピクリと動いた。












―ぼくはね、ギルモア博士。
 改造されたことを決して悲しんでいるだけではないんですよ。
 祖国のために、休むことなく働くことの出来る身体。
 疲れることを知らない身体。
 端から見れば、異常にしか見えないでしょうけれど。



幻の中の彼は薄く微笑む。



―それでも、祖国のためにこの身を惜しみなく捧げられることが何より嬉しいんです。










ずいぶん昔に交した彼との会話を思い出し、ギルモアはほんの少しだけ目を細めた。











「そうじゃった。君にはまだ、戦う理由があったんじゃな。」










ギルモアは音もなく立ち上がった。その瞳に今までにない厳しさが宿る。






「そう、生き延びなくてはならないんじゃ、君は。」
発せられた言葉は力強かった。










手術は再開された。
人工心臓、人工肺、人工胃、エネルギータンク・・・・一つ一つのパーツが彼に埋め込まれていく。 神経組織、電子回路、人口筋肉が整うとさらに人間の姿に近づく。最後に人工心臓の弁をゆっくりと 開くと、人工心肺装置の血液が流路を赤く染め上げながら流れ始める。人工心臓は規則正しいリズム を刻み始めた。






彼の身体は復元された ―――― 皮膚を除いて。







ここでギルモアは再び手の動きを止め、彼を見下ろした。規則正しい心音モニターが 遠慮がちにリズムを刻み続ける。
 
長い時間が過ぎた。  いや、一瞬だったのかもしれない。

ギルモアは静かに目を伏せると何かを決心したように壁際の保管庫へと足を向けた。 保管庫の分厚い扉を祈るようにゆっくりと引く・・・、しかしそれは彼の想いとは裏腹に何の抵抗 も無く滑らかに動いた。 棚には丁寧にたたまれた金属シートが庫内の弱い灯りを反射して、遠慮がちに光を放ちつづ けていた。幾重にも重ねられた鱗片は光の当たる角度であらゆる波長の光を発し、そのささ やかで神秘的な光は見ているものすべてを感嘆させるに違いなかった。 彼がさらに扉を大きく開 けると、手術室の眩しいばかりの照明が無遠慮に流れ込み、金属片は密やかな光をきらびや かで妖しい輝きに変え、その幻想的な美しさをより一層際立たせた。
震える手でシートを掴む。棚と鱗の摩擦がつくる ずるり という感触が彼の手へ不気味に伝わってきた。
取り出したシートを両腕に広げると、見かけより大きい重量に彼の両腕が僅かに沈む。支持 体を持たないそれは鎖のように力なく垂れ下がり、鱗片が空調の風にあおられて怯えるように震えた。 鱗が放つ透き通った光もまた小さくふるえ、その輝きにギルモアは思わず目を叛ける。
摩擦係数 耐衝撃荷重 耐熱温度 耐圧・・・どれほど測定したのだろう、無数の実験データが ギルモアの脳裏を次々とよぎっていく。彼がこれを纏えば、もはや、水中で彼に追いつける ものはないだろう。だが・・・・。

胸の奥の膿が再び疼き始めた。

シートを008の上に毛布のようにそっと掛けた。未だ目覚めぬ彼は、微動だにしない。
これが、彼の皮膚に・・・なる。

傷口の膿が凄まじい勢いで増殖していく。

彼の手は処置台の後方にある、縦・横・高さ1mの装置へと伸び、その中から直径10cmの金属製の ノズルを引き出した。次に設備の電源スイッチをパチリ入れると、それまでひそやかに囁いてた 機械の音を押しのけて、ブィーーンと無遠慮な音が部屋中に反響した。同時に先ほど引き出したノ ズルの尖端から白い光が発光し、それは時間とともに輝度を増していった。
ギルモアは008に保護用のサングラスをつけ、自分もまた同じ種類の眼鏡を掛ける。
彼は一瞬、躊躇うようにゴグリとツバを飲み込んだ。ノズルを持つ手が小刻みに震える。

ノズルから発光する光を彼に向け、その身体を照らす。白い光が鱗にあたると眩しいばかりの光線 が部屋中に反射した。彼の身体に掛かっていたシートは光に当たるとみるみるうちにやわらかく なり、そのまま彼の身体へと溶けていった。それはまるでピザに乗せられたチーズのようでもあった。 ギルモアの持つノズルはかすかに震えながら、彼の全身を舐めるように走査していった。










そして彼は・・・・・・蘇生された。














東の空が白み始め、不安な夜が明けようとする頃、大手術はようやく終わりを告げた。
科学者が全ての機器を停止させ、照明を落とすと、辺りはしんと静まり返り、静寂とほのかな光が部屋を支配する。
だが、彼の命をつなぎとめた老科学者の顔に笑みは無かった。






「すまない・・・」






科学者は一言だけ、眠り続ける彼に詫びた。













言い訳

まずは、このような暗い話を読んで頂いてありがとうございました。

「真意」に続いての44話ネタで、相変わらず真っ暗です。
時間的には「真意」の前のことを描きましたが、決して続き物ではないです。 (ラストのフレーズを使いまわしておきながら・・・<最低)


「蘇生」では「真意」で色々書きすぎてわかりにくなってしまった”博士の葛藤”を書いてみたかった のですが、書いているうちに「綺麗な鱗」に凝り出して(<コラ)、また訳のわからない話になっ てしまいました。(実際、彼の鱗は透き通るように綺麗なんじゃないかと想像してます)


また書きたいなと思いつつ、これ以上暗くなったら救えない・・・ですね。

読んで頂いて、本当にありがとうございました。


(03年10月11日 初出)
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