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しあわせの粒子  (お笑いComments(0) )

弊サイトでは珍しい93、あるいは39話。
やっぱりジョーは天然です。
濃縮度合いが5倍から10倍へアップしました(当社比)
ファンのみなさま本当にごめんなさい。




「ねぇ、フランソワーズ、見て。すごいよ」



背後のはしゃいだ声。テラスの花に水を遣っていたフランソワーズが振り返ると、 栗色の瞳の少年が、驚きと感激が入り混じった表情で笑っている。


「どうしたの?」


彼の姿を見とめて、彼女はふんわりと微笑んだ。朝の日差しが、まだ湿り気の残る空気の粒子にきらめいて、 その笑顔を一層やわらかくする。彼女に見つめられ、少年もまた嬉しそうに、そして 少しだけ気恥ずかしそうに微笑んだ。


「どうしたの?」
もう一度問い掛ける。
「発見したんだ」
「発見?」
「そう」
「なにを?」
「えぇっとね、朝に洗濯物を干すと、洗濯物がキラキラ光るってこと」
「キラキラ?光る?」


あまりに突拍子も無い話で、彼女は一瞬答えに窮した。いつだってそう、自分は この18歳の少年に翻弄されっぱなしなのである。まるで幼い子供が周囲をかき乱すように・・・。 しかし、ジョーときたらフランソワーズの困惑などお構いなしに、ニコニコ話を続けた。

「こうやって洗濯物を太陽にかざすとね――」

彼は自分と太陽の間に真っ白いTシャツを パンッ と広げる。

「ほら、光の粒がキラキラ光ってみえるんだよ」

Tシャツを眩しそうに見つめる彼。
栗色の瞳が得意気に光っている。
その姿に再び笑みがこぼれた。


「それにね・・・」
「それに?」

フランソワーズの蒼い瞳に見つめられ、ほんの一瞬、彼がはにかんだ。 だが、すぐに自信たっぷりの表情に戻ると、 Tシャツのシワを伸ばすように、2度3度とはためかせる。

「こうするとね、光の粒が周りに飛び散っていくんだよ!」

ニコニコ笑いながら、彼は何度も白いTシャツを煽る。
洗濯物が翻る度に彼の笑い声も一緒に弾けた。


彼女とジョーの間には少しだけ距離があって、 実際のところ、彼の言う光の粒が見えたわけではない。 それでも彼の言わんとしていることがわかるような気がして、「素敵ね」と答えた。

     ―彼の言う「光の粒」って・・・・

朝露に光が反射してそれが「粒」にみえているのかもしれない。
あるいは、まだ湿り気が残る空気がうすい霧のように煙って、光が乱反射しているからかもしれない。



でも、理由なんてどうでもいい。だって彼がこんなにも楽しそうに笑っているのだから。



「まるで幸せの粒が洗濯物にたくさんくっついているみたいだ」



1枚1枚風になびかせながら、感嘆の声を上げる彼。



     ―こういうときのジョーって本当に子供みたい。



彼の新発見よりも、ジョーのその驚きに満ちて光り輝く瞳のほうが彼女は好きだった。
花へのみずやりも終わったというのに、そうやってしばらく彼の姿を眺めていた。





     ―幸せ、これが幸せなんだと思う。





     ―特別なことではなく、当たり前に毎日がすごせること。





     ―ほんの些細なことに驚いて、悲しんで、怒って、仲直りして、笑って・・・





「ねぇ、フランソワーズ。聞いてる?」

ジョーの少しだけ拗ねたような声にフランソワーズは我に返った。

「あっ、ごめんね、ちょっと考え事をしていて」

ジョーは少し頬を膨らませたが、また直ぐに表情をやわらげた。

「みてよ、ほら。光の粒、あげる」

そう言って親指と人差し指に挟んだそれを彼女の目の前にかざす。


     ―ヒカリノツブ アゲル?


     ―光の粒って、持てるの?


「ねぇ、見てったら」
今度はフランソワーズの左手を無理やり開くと、その真ん中に「粒」を置いた。
「ね、幸せの光の粒」


     ―直径1mmもない、小さな粒たち。


「たくさんあるからフランソワーズにもあげるね」


     ―透明で水を含んだそれらは、プルンプルンと掌で小さく震えて・・。


「素敵でしょ?」

ジョーの嬉しそうな声に、フランソワーズの顔色は静かに蒼ざめていく。

「ねぇ・・・ジョー」

声が低くなる。

「昨日、イワンと一緒にお風呂に入ってのって誰だったかしら?」
「ジェットだよ」

     ―ジェット!!  あぁ、だめだわ!


ジェットと聞いて、彼女の表情に落胆の色が広がる。
「ジョー、洗濯する前に洗濯槽の中身ちゃんと確認した?」
「中身・・・? あぁゴメン忘れちゃった」
「!」

ハハハと笑うジョーを押しのけて、彼女は洗濯物のカゴへと走る。
無心でカゴを漁り、底に見つけたそれは・・・・



無残に破れた紙オムツ・・・。



紙オムツの中からは、数え切れないほどの高分子吸収体が溢れ出している。
透明な小さな粒子たち、それはさながら、かなり小さな”いくら”。
崩れ落ちそうな気持ちを必死でこらえながら、彼女はゆっくりと立ち上がった。

振り返る。

風に吹かれてひらひら舞う洗濯物にも、もれなく高分子吸収体。
それらはたっぷり水を含み、朝日に照らされて、キラキラと輝いていた。


     ―確かに、キラキラしてる・・・・、た・し・か・に。


「んもぅ! 洗濯やり直しヨ。 紙オムツは洗わないでって言ったじゃない!!!」


「・・・・・ゴメン」




     ―幸せだなんて思った自分が間抜けだった。
     ―いつだって自分は子供達のやらかすことに振り回されてばかり。
     ―少しでいいから、少しでいいから、ほっとさせてほしいのに・・・・。





フランソワーズは大きく溜息を付いて、洗濯物に手をかけた。







       デモネ、フランソワーズ―――


       ソンナ些細ナコトニ一喜一憂デキルコトガ幸セナンダト思ウヨ。


       ダカラサ・・・

       
       早クみるくヲ頂戴


       ボク、オナカガ スイチャッタ ―――








あとがき

突然ですが、貴方は紙オムツを洗ってしまったことはありますか?

私は2度やりました。


おむつを洗ってしまったときは、直ぐにそれとわかります。
洗濯物に無数の小粒がついていて、まぁきれいなんですよ。<興味ある方は是非お試しください。
そして、屑取りネットが大きく膨らんでいて、手で握るとポワン、ポワンと不思議な弾力を感じます。

こうなったら、もう一度洗濯です。仕方ありません。

泣きながら洗濯する私、その隣でチョーナンが

「ジナンちゃんのおむつもせんたくするんでしょ?ちゃんと入れておいたからね!」

と鼻高々に報告されては怒るに怒れません。
悲しき2年前の実話です。

(03年9月1日初出)
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