忍者ブログ         
[PR]  (/ )

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


どんなことにも理由(わけ)がある ~それでも残された疑問~ 前編  (お笑いComments(0) )

前半はギルモア ブラウン 後半に2,3,4,9
誰もが一度は考えたあの疑問に挑戦
第一世代時代のブラックゴーストの話
オリキャラ(博士)も登場します





 水を打ったように静まりかえった廊下の突き当たり、 エレベータの前でゴーレイが下へ向かうボタンを押す。 ゴトリと重たい音がして機械が唸りはじめた。不規則に鳴るキーという音が耳につく。
 暗がりの中、途方もなく並んだ数字が順々に光る。もどかしいくらいにゆっくりと、しかし確実に 動く光の点。彼は数字が移動するのを、まるでそれが彼に課せられた重要な任務であるかのように目で追った。
 ようやく彼の居る場所の数字 ― 14 ― が点灯する。 つられてゴーレイも一歩だけ足を踏み出した・・・・が、灯りは移動する速度を全く変えずに彼の目の前をあっさり通過していった。
 軽く舌打ちする。幸先が悪すぎる。
「15・・・・・16・・・・・17・・・・・」
 彼は声に出して数字を読んだ。23のところで光はようやくその動きを止めた。 同時に機械の音も止み辺りに静寂が戻る。コツンと靴を鳴らすと音は深い闇の中へ飲み込まれていった。
 数十秒の後、再び悲鳴にも似た音が響き、光は元来た道を戻り始めた。
 そう言えば・・・、ゴーレイは思う。
(23階ってブラウン博士の部屋があるところじゃないか・・・)
 よりによってこんな日に乗り合わせるとは・・・・、彼は手にしていたデータを無意識に筒の形に丸めた。
 乱暴な音を辺りに響かせてエレベーターはようやく14階に止まった。ゆっくりと扉が開く。 隙間から漏れ出る眩しいばかりの光にゴーレイは思わず顔を叛けた。 
「乗るのかい?」
 明らかに不愉快そうな声。が、それは耳馴染んだブラウンのものより遥かに若い。 眩しさに抗いながら顔を正面に向けると、そこには異様に鼻が大きい長髪の男が立っていた。
 ゴーレイは慌てて頷き、そそくさとエレベータに乗りこんだ。 静寂にはおよそ似合わないブザーの音があたりに響き、ゆっくりとドアが閉まる。
(この男・・・そう、確かブラウン博士が連れてきた・・)
「あなたは確か・・・ギルモ・・・」
「ギルモア・・・・アイザックギルモアだ」
 そう、確かにギルモアといった。ソ連アカデミーで早くから神童の名を欲しいままにしてきた男。 ブラウンの愛弟子であり、ゆくゆくはこのブラックゴーストの幹部にも成り得る男。 自分とは全くの別世界に住む・・・。
 ゴーレイは全身を固くし、丸めたデータを更にきつく握り締めた。
「何階?」
「地下5階を・・・」
「同じ階・・・ということは君もD6の開発エンジニア? 名前は?」
「ゴーレイ・・・マーシャル・ゴーレイ。よろしく」
 ゴーレイは右手を差し出した。ギルモアは差し出された手を無表情に握りながら質問を続ける。
「担当は?」
「センサー全般を」
「そう・・・」
 一瞬、ギルモアの目が軽蔑に歪んだように思えた。
 ― Dプロジェクト ―  ブラックゴーストの最重要課題であるサイボーグ開発を行うこのプロジェクトには 組織の中でも選りすぐりの科学者・技術者が集められた。 言わば超エリート集団から成るプロジェクトだ。しかしそのエリート達の中でも優劣というものが明確に 出来上がっていた。
 サイボーグ開発における花形は生命維持に関わる人工臓器や補助脳の開発であり、 加速装置開発やジェットエンジンに関わる仕事である。それ以外は その業績をさほど期待されてはいない。
 ことセンサーに関していえば、 技術的には開発が終了していると言っても過言ではなく、完成された機構に対して好奇心を剥き出しにする科学者が居ないのも、もっともな話なのである。 そしてギルモアとて同じ気持ちだろう。 案の定、彼の担当に関する話はそれ以上発展することも無かった。
 潤滑油が不足していて叫びにも似た音を発する機械を忌々しく思い、ゴーレイは不快に顔を歪めた。 同じ思いなのかギルモアも、
「超最先端の技術を開発している施設とは思えないほどにお粗末な乗り物だよね、これ」
「シッ、誰がどこで聞いているかわかりませんよ」
 ゴーレイは慌てて制した。エレベーターを批判して粛清にあったなんて話は聞かないが、しかし似たような話で二度と帰ってこなかった研究者を何人も知っている。もっともギルモアほどに将来を嘱望された科学者なら問題ないのかもしれないが・・・
「で、テスト結果は良好なの?」
「は?」
「だからD6のテストデータだよ」
「あぁ・・・」
 あまりに予想外のことを聞かれ、ゴーレイは言葉を一瞬失った。
「・・・・仕様を満足したものもあれば、そうでないものも幾つか・・・」
 自然と言葉を濁す。そう、その仕様を満足しなかったデータが彼にとっての憂鬱の種なのだ。
「どこもそうらしいさ。今日の会議はもめるよ・・・。とにかく加速装置の仕上がりが悪いらしい、 加えて試験体の反抗で飛行データは満足に取らせてもらえないときてる・・・。 おまけにここにきて拒絶反応の問題だろ・・・・・」
 ゴーレイは大きく溜息をついた。ギルモアが話していることの半分も耳には入ってこなかった。
 エレベーターは目的の場所に到達すると、乱暴に停止した。
「センサーってのもさ、人間の五感をいかに数値に置き換えるかって作業なんだろ? 基準が曖昧なものを処理することは並大抵のことじゃないんだろうね。 これから色々教えてくれよ、よろしく」
 ギルモアは軽く手をあげ、何事も無かったように降りていった。







 ギルモアが予言した通り、会議は最初から紛糾した。

 加速装置が実戦で使えないレベルだとわかるとブラウンは声を荒げて対応策を迫った。  しかし、担当者にしても万策尽き果てた感があり、さらには時折現われる拒絶反応の話にまで及ぶと会議は収拾のつかないものとなりつつあった。
(まずいな・・・)
 ゴーレイの担当するセンサー類とは、人間の五感を数値化し、脳、あるいは補助脳へデータを送る機能を有する。 既存の技術でも仕様は充分に満足できるものと誰もが思っていたし、実際、動物実験でも仕様を大幅に上回る結果を出していた。 新規の技術ではなく、既にこなれた技術としてスタッフの間でも認識されており、 もはやこの部門で新たに問題が発見されるとは思われていなかった・・・。

 だが・・・

「ゴーレイ!」

 強い口調のブラウンの声にゴーレイが顔を上げた。

「ほら、お前の番だ・・・」
 隣の席の科学者が彼の肘をつつく。
「は・・はい」
 彼はゆるゆる立ち上がる。
「報告を」
「はい・・・・・。センサーですが・・・動作については問題はありませんでした。 また、仕様に対してもほぼ満足行く結果を得・・・」
「ほぼ?」
 ブラウンの眉が釣りあがる。
「不満足な部分があるというのか?」
 蛇のように彼を睨む。
「それについては、レポートの20ページに・・・」
静まった会議室に紙を繰る音だけが響く、途端にブラウンの顔色が変わった。
「なんだ、このデータは」
「は、はい、あの、嗅覚センサーの検出レベルは仕様を満足するものなんですが・・・、 においの成分を特定する同定成功率についてはいささかの問題がありまして・・・・」
「いささかどころか、これでは使い物にならんだろう!」
 ブラウンが乱暴に机を叩く。
「ですが、単一成分では同定成功率は100%で・・・・」
「そんなことを聞いているんじゃない。 問題は2成分以上を混合させた場合だ」
「はい、2成分での同定成功率は30%・・・3成分では5%・・・4成分では0.2%・・・・」
 ゴーレイの声がだんだんと弱々しくなっていく。
「だから!!」
 ブラウンはデータを乱暴に叩きつける。デスクの上でそれらは無造作に散らばった。
「戦場ってのは実験室じゃないんだ、そのことをわかっているのか?」
「・・・・」
「土ぼこりの臭いと、敵の臭い、硝煙の臭い・・・これらが確実に区別できないようでは意味が無い。 そうじゃないか?」
「おっしゃるとおりです・・・・」
 ゴーレイは項垂れ、会議室が静まり返る。


「でも、このデータ・・・」
 沈黙を破ったのはギルモアだった。
「D6と同型の嗅覚ユニットを用いて動物実験してますよね。5種類混合したガスではすべての成分が正確、 かつ確実に同定されていますけど・・・、それがどうしてD6ではこれほどまでに悪くなったんです?」
「臭いが嗅覚センサーに到達する前に分離管があるんですが・・・」
「分離管?」
 ギルモアは眉をひそませ、首をかしげた。
「はい・・・。実は試験体の鼻奥に取り付けた嗅覚センサーだけは数種類混ざった気体の成分特定はできないんです。 混合した成分を何らかの方法でひとつひとつに分離してやる必要があるんですが、 それを行うのが今言った『分離管』です。
使い方はセンサー直前に分離管を設置し、試験体の鼻から吸入した気体を分離管で 成分ごとに分け、その各々について検出器で同定するとなります」
 ここでゴーレイは一息ついた。ギルモアは目で先を促した。
「今回の同定成功率が著しく低かったのは、分離管での成分分離に失敗した結果です」
「ふぅ・・ん」
 ギルモアは身体を思い切り背もたれに預けてデータを更に見つめた。
「で、動物実験で成功していた分離がD6でうまくいかなかったのは、何故?」
「多分・・・・戦闘時におけるD6の体温上昇によって気体が活性化されてしまい、 分離管に充填した吸着剤への溶解度が低下したのではないかと・・・・」
「なるほどね・・・・」
 ギルモアは頭を掻きながら、ページをめくる。
「で、あなたの考えている解決策は?」
「分離管周辺を温度制御できれば・・・」
 ゴーレイの口から発せられた『温度制御』という言葉に著しく反応したのが、制御グループの担当者だった。
「冗談じゃない。これ以上制御を増やせば脳や補助脳にかかる負荷が大きすぎる。 試験体の破壊にもつながりかねない、臭いごときにいちいち鼻の温度制御なんか出来るものか」
「ですが・・・・」
「無理だ!」
 一切の譲歩もありえない、ゴーレイはそう感じた。
「他に解決策は?」
 ブラウンはゴーレイを見やる、が彼は言葉を失い下を向いた。
「簡単だよ」
 ギルモアの通る声が会議室に響いた。
「分離管を長くすれば、いい」
 会議室に居る全員がごくりとツバを飲み込んだ。
「温度上昇による吸着剤への溶解度の低下は、分離管の長さを長くすることで補うことができる・・・ 違うかい?」
「確かにその通りです・・・・」
「どのくらい延ばせばいいんだ?」
「そうですね・・・現状2cmのものを15cmまで延ばす必要があります。 ですが・・・・、そうなると試験体の鼻を異様に伸ばすことになります。 つまり、試験体の人間らしい外観が損なわれてしまいます」
「かまわん、やれ」
 ブラウンが決定を下した。
「ですが、人間らしくというのが開発コンセプトでは!」
「鼻が長くなったところで問題なかろう。まずは仕様を満たすことが優先だ」
 ブラウンの言葉が会議室に響いた。




「Dプロジェクトで成果を上げないと、ゼロゼロナンバー計画などありえんのだよ」


Next>


(04年2月22日 初出)
PR

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<どんなことにも理由(わけ)がある ~それでも残された疑問~ 後編 | HOME | 83なイラスト(from塩蔵さま)>>
忍者ブログ[PR]