ビリオネア 6/8 (お笑い/
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「いやぁ。すでに750万円の挑戦。なのに、ライフラインを1個も使っていらっしゃらない」
「使いませんよ、最後まで自力で行きます!」
この自信たっぷりの言葉に会場から割れんばかりの拍手が送られる。
アルベルトでなくとも、彼の仲間がここに居合わせたら、ジェットが普通でないことはすぐに理解するだろう。
(フランじゃないから、美濃の手元の解答を盗み見できるわけが無いし・・・。奴の能力でないとすると。)
ふと腕の中の赤ん坊の様子が気になり、視線を落とすと、彼は脂汗のようなものを浮かべていた。
<<なんでそんなに疲れているんだ。イワン・・・>>
<<モ・・・モウ、限界ダヨ・・・・じぇっと、アトハ、ガンバッテ・・・>>
脳に響く、本当にかすかな精神感応の波。それを感じた瞬間、腕の中の赤ん坊は首を垂れ、深い眠りに落ちていった。
最後の力を振り絞って送ったメッセージだったのだろう。錯乱してメッセージを送る相手の選択すら誤ってしまったらしい。
(ということは・・・お前ら・・・グルだったのか!!)
美濃の出す問題の答えをイワンがテレパシーでジェットに送っていた。
アルベルトが感じたあの妙な「間」は、イワンが答えをジェットに教えている時間だったのだ。今までの全ての疑問が、すーっと解けていく。いや、もっとこのことに早く気付くべきだった。イワンが寝てくれたから良かったものの、危うくパシリにされるところだった。
(危ない、危ない・・・。)
額にかいた汗をハンカチでぬぐった。
(さて、イワンが寝たことを奴に伝えるべきか、否か。)
姑息な手段を使い続けたジェットへのお仕置きで、内緒にしておこうかとも思ったが、力の限り彼をサポートし続けたイワンに敬意を表し、事の顛末だけは本人に伝えることにした。
<<ジェットよく聞け>>
<<アン? またオッサンか・・。今度は何だ?>>
<<大事な連絡だ。よく聞け>>
<<だから、なんだっつーの。>>
<<イワンが、眠った。>>
<<・・・>>
<<聞こえてるか?>>
<<マジ?>>
<<あぁ。オレは嘘は言わん。>>
<<なんでイワンはオレに言わなかったんだ?>>
<<テレパシーを送る相手を間違えたらしい。あとはがんばれって言ってたぞ。>>
<<・・・>>
<<あとは自力でがんばるしかないな。自業自得だ、俺は知らん>>
「アルベルトさん。ジェットさんついに750万円に挑戦ですよ。声援を送って上げてください」
「1000万円、取れよ」
そう言うとにやりと冷ややかな笑いを送った。
<<取れなければ、”パシリ”だからな。>>
脳内通信で駄目押しを忘れないのである。
「それでは750万円の問題です」
♪チャララララララン♪
「問題、古事記によれば、神倭伊波礼毘古(カムヤマトイワレビコ)の東征のとき、八咫烏(ヤタガラス)が道を案内したとされています。さてこの神倭伊波礼毘古、後の名前は? A神武天皇 B桓武天皇 C仁徳天皇 D孝昭天皇」
(ま・まずい・・・。問題の意味すらさっぱりわかんねぇ。)
ジェットの背中に嫌な汗が流れる。
人工心臓の鼓動は急速に早まり、血の気がさっと引く。
回答者のはじめてのピンチに美濃もニヤリと笑った。
これからが楽しい楽しい駆け引きの時間だ。
「ジェットさん。時間はたっぷりあります。慎重に考えてください」
「は、はい」
「お水、飲みますか?」
人を喰ったような笑いを浮かべ、美濃は彼に水の入ったコップを差し出す。
「あ・・じゃあ」
ジェットはそれを一気に飲み干した。
ますます緊張し、焦るジェットに比べて、美濃は非常に冷静かつ落ち着いた声で彼の選択肢を説明する。
「ジェットリンクさんは既に500万円を獲得されています。
ここで、ドロップアウトをすれば、500万円はあなたのものです。不正解だった場合は100万円になってしまいます。
しかしながら、あなたはまだ3つのライフラインを残していらっしゃいます。どうなさいますか?」
「じゃ、じゃあ・・・オーディエンス」
「解りました。それでは会場の皆さんボタンをどうぞ」
一瞬の間があった後、結果が表示された。
「マジかよ!」ジェットは小さく叫んだ。
1%だって票が多ければ、それにしようと目論んでいたがそれは見事に裏切られた。
「ほー。A・B・C・Dすべて25%。完全に票が割れました。実に珍しい」
はっはっはっ、と美濃は楽しそうに笑った。
(どうしたら、いい?)
補助脳も自分の脳みそも総動員で考える。
考えるだなんて滅多にしないことなので、頭がくらくらする。
明日当たり、「知恵熱」がでるかもしれない。
否、もう、出ているかもしれない。
その時、
<<Dデハナイヨ・・・・>>
確かにそう聞こえた。
<<イワン?>>
だが、応答は無い。彼は数分前に力尽きて眠ってしまったのだから。
もしかしたら、イワンの残留思念が呼びかけたのかもしれない。
<<サンキュー、イワン>>
ジェットは眠り続ける背後の赤子に心の中で感謝した。
「じゃあ、Fifty・Fifty」
動揺しながらも完璧な発音をして見せた。
「さすがはジェットさん、すばらしい発音を聞かせていただきました・・・。で、何が残ればいいと?」
「Dが残れば・・・」
「ではコンピューター、どうぞ」
Dが残れば、一緒に残ったものが正解だ。
祈るような気持ちで画面を見つめる。
「ゲ・ゲッ!」
だが、ジェットの祈りも虚しく残ったのはAとBであった。
「テレフォン!」
こうなったら、もうヤケである。とにかく使えるライフラインは全てここにつぎ込むことにした。
最後の問題に不安が残るが、それはその時考えればいい。
「電話口にはどなたが?」
「仕事の仲間が」
「もしもーし、正義の味方のみなさーん」
「・・・・(汗)」
美濃の突然のフリに、誰一人対応が出来ない。
<<一体ジェットはスタジオで自分のことなんだって紹介したのよ?>>
<<知るわけないダロー。>>
カッカッカッと美濃が笑う。
「あっ、やっぱり、引いちゃってますね。えっと張々湖飯店のみなさん」
「ハイアル~~~~」
大人が嬉しそうに両手を挙げて手を振っている。
「電話口はどなたですか?」
「フランソワーズです」
「フランソワーズさん、ただいまジェット・リンクさんは750万円のチャレンジです」
一斉にどよめきが起こった。
「ジェットがんばれ」の声が電話口から聞こえてくる。
「30秒しかありませんから、問題を良く聞いて、答えを教えて上げてくださいね。ではどうぞ」
カチ・カチ・カチ、と時計の針の刻む音が会場に響く。
刻々と刻まれるその音に、会場も水を打ったように静まり返る。
「ええーーーっと。モニョモニョに・よ・れ・ばゴニョゴニョのコショで、・・・が・・・し・た・と・さ・れ・て・い・ま・す」
「エッ?ナニ?ナニ??何を言ってるの?」
電話口ではフランソワーズが少しイライラしたような口調で問い返す。
「何、問題何?」とか「早く言えよ!」といった声も聞こえる。
「後何秒?」というジョーの問いかけがむなしく宙を漂う。
応援席のアルベルトがほくそ笑んだ。
「・・・・・・ーよ」
ジェットの肩が小刻みに震える。
「えっ?」
「・・・めねーよ」
「なに? なに? あぁ、時間が無い!!」
電話口では全員の声が絶叫に変わる。
ジェットは鼻を天へ突き出し、拳を握りしめて、叫んだ。
「こんな漢字、読めるわけ、ネーーダローーー!!!」
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(03年6月10日 NBG様へ投稿)
「いやぁ。すでに750万円の挑戦。なのに、ライフラインを1個も使っていらっしゃらない」
「使いませんよ、最後まで自力で行きます!」
この自信たっぷりの言葉に会場から割れんばかりの拍手が送られる。
アルベルトでなくとも、彼の仲間がここに居合わせたら、ジェットが普通でないことはすぐに理解するだろう。
(フランじゃないから、美濃の手元の解答を盗み見できるわけが無いし・・・。奴の能力でないとすると。)
ふと腕の中の赤ん坊の様子が気になり、視線を落とすと、彼は脂汗のようなものを浮かべていた。
<<なんでそんなに疲れているんだ。イワン・・・>>
<<モ・・・モウ、限界ダヨ・・・・じぇっと、アトハ、ガンバッテ・・・>>
脳に響く、本当にかすかな精神感応の波。それを感じた瞬間、腕の中の赤ん坊は首を垂れ、深い眠りに落ちていった。
最後の力を振り絞って送ったメッセージだったのだろう。錯乱してメッセージを送る相手の選択すら誤ってしまったらしい。
(ということは・・・お前ら・・・グルだったのか!!)
美濃の出す問題の答えをイワンがテレパシーでジェットに送っていた。
アルベルトが感じたあの妙な「間」は、イワンが答えをジェットに教えている時間だったのだ。今までの全ての疑問が、すーっと解けていく。いや、もっとこのことに早く気付くべきだった。イワンが寝てくれたから良かったものの、危うくパシリにされるところだった。
(危ない、危ない・・・。)
額にかいた汗をハンカチでぬぐった。
(さて、イワンが寝たことを奴に伝えるべきか、否か。)
姑息な手段を使い続けたジェットへのお仕置きで、内緒にしておこうかとも思ったが、力の限り彼をサポートし続けたイワンに敬意を表し、事の顛末だけは本人に伝えることにした。
<<ジェットよく聞け>>
<<アン? またオッサンか・・。今度は何だ?>>
<<大事な連絡だ。よく聞け>>
<<だから、なんだっつーの。>>
<<イワンが、眠った。>>
<<・・・>>
<<聞こえてるか?>>
<<マジ?>>
<<あぁ。オレは嘘は言わん。>>
<<なんでイワンはオレに言わなかったんだ?>>
<<テレパシーを送る相手を間違えたらしい。あとはがんばれって言ってたぞ。>>
<<・・・>>
<<あとは自力でがんばるしかないな。自業自得だ、俺は知らん>>
「アルベルトさん。ジェットさんついに750万円に挑戦ですよ。声援を送って上げてください」
「1000万円、取れよ」
そう言うとにやりと冷ややかな笑いを送った。
<<取れなければ、”パシリ”だからな。>>
脳内通信で駄目押しを忘れないのである。
「それでは750万円の問題です」
♪チャララララララン♪
「問題、古事記によれば、神倭伊波礼毘古(カムヤマトイワレビコ)の東征のとき、八咫烏(ヤタガラス)が道を案内したとされています。さてこの神倭伊波礼毘古、後の名前は? A神武天皇 B桓武天皇 C仁徳天皇 D孝昭天皇」
(ま・まずい・・・。問題の意味すらさっぱりわかんねぇ。)
ジェットの背中に嫌な汗が流れる。
人工心臓の鼓動は急速に早まり、血の気がさっと引く。
回答者のはじめてのピンチに美濃もニヤリと笑った。
これからが楽しい楽しい駆け引きの時間だ。
「ジェットさん。時間はたっぷりあります。慎重に考えてください」
「は、はい」
「お水、飲みますか?」
人を喰ったような笑いを浮かべ、美濃は彼に水の入ったコップを差し出す。
「あ・・じゃあ」
ジェットはそれを一気に飲み干した。
ますます緊張し、焦るジェットに比べて、美濃は非常に冷静かつ落ち着いた声で彼の選択肢を説明する。
「ジェットリンクさんは既に500万円を獲得されています。
ここで、ドロップアウトをすれば、500万円はあなたのものです。不正解だった場合は100万円になってしまいます。
しかしながら、あなたはまだ3つのライフラインを残していらっしゃいます。どうなさいますか?」
「じゃ、じゃあ・・・オーディエンス」
「解りました。それでは会場の皆さんボタンをどうぞ」
一瞬の間があった後、結果が表示された。
「マジかよ!」ジェットは小さく叫んだ。
1%だって票が多ければ、それにしようと目論んでいたがそれは見事に裏切られた。
「ほー。A・B・C・Dすべて25%。完全に票が割れました。実に珍しい」
はっはっはっ、と美濃は楽しそうに笑った。
(どうしたら、いい?)
補助脳も自分の脳みそも総動員で考える。
考えるだなんて滅多にしないことなので、頭がくらくらする。
明日当たり、「知恵熱」がでるかもしれない。
否、もう、出ているかもしれない。
その時、
<<Dデハナイヨ・・・・>>
確かにそう聞こえた。
<<イワン?>>
だが、応答は無い。彼は数分前に力尽きて眠ってしまったのだから。
もしかしたら、イワンの残留思念が呼びかけたのかもしれない。
<<サンキュー、イワン>>
ジェットは眠り続ける背後の赤子に心の中で感謝した。
「じゃあ、Fifty・Fifty」
動揺しながらも完璧な発音をして見せた。
「さすがはジェットさん、すばらしい発音を聞かせていただきました・・・。で、何が残ればいいと?」
「Dが残れば・・・」
「ではコンピューター、どうぞ」
Dが残れば、一緒に残ったものが正解だ。
祈るような気持ちで画面を見つめる。
「ゲ・ゲッ!」
だが、ジェットの祈りも虚しく残ったのはAとBであった。
「テレフォン!」
こうなったら、もうヤケである。とにかく使えるライフラインは全てここにつぎ込むことにした。
最後の問題に不安が残るが、それはその時考えればいい。
「電話口にはどなたが?」
「仕事の仲間が」
「もしもーし、正義の味方のみなさーん」
「・・・・(汗)」
美濃の突然のフリに、誰一人対応が出来ない。
<<一体ジェットはスタジオで自分のことなんだって紹介したのよ?>>
<<知るわけないダロー。>>
カッカッカッと美濃が笑う。
「あっ、やっぱり、引いちゃってますね。えっと張々湖飯店のみなさん」
「ハイアル~~~~」
大人が嬉しそうに両手を挙げて手を振っている。
「電話口はどなたですか?」
「フランソワーズです」
「フランソワーズさん、ただいまジェット・リンクさんは750万円のチャレンジです」
一斉にどよめきが起こった。
「ジェットがんばれ」の声が電話口から聞こえてくる。
「30秒しかありませんから、問題を良く聞いて、答えを教えて上げてくださいね。ではどうぞ」
カチ・カチ・カチ、と時計の針の刻む音が会場に響く。
刻々と刻まれるその音に、会場も水を打ったように静まり返る。
「ええーーーっと。モニョモニョに・よ・れ・ばゴニョゴニョのコショで、・・・が・・・し・た・と・さ・れ・て・い・ま・す」
「エッ?ナニ?ナニ??何を言ってるの?」
電話口ではフランソワーズが少しイライラしたような口調で問い返す。
「何、問題何?」とか「早く言えよ!」といった声も聞こえる。
「後何秒?」というジョーの問いかけがむなしく宙を漂う。
応援席のアルベルトがほくそ笑んだ。
「・・・・・・ーよ」
ジェットの肩が小刻みに震える。
「えっ?」
「・・・めねーよ」
「なに? なに? あぁ、時間が無い!!」
電話口では全員の声が絶叫に変わる。
ジェットは鼻を天へ突き出し、拳を握りしめて、叫んだ。
「こんな漢字、読めるわけ、ネーーダローーー!!!」
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(03年6月10日 NBG様へ投稿)
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