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ビリオネア 8/8(最終回)  (お笑いComments(0) )

     





「じゃ、じゃあ、オッサン、知ってたのかよ、答え」
「当然だ。答えはAの神武天皇。2択だったのに、残念だったな」
マイクロバスの窓から流れていく海の景色を眺めながら、涼しい顔でアルベルトは答えた。
「ヤタガラスは日本のサッカーチームのユニフォームについている、あの鳥だ。お前、同じ鳥仲間のくせに、知らなかったのか?」
「知るかよ!っつーか、何度も言うが、俺は鳥じゃねぇ! おいっ、ジョー笑いすぎだぞ!」
下を向いて、忍び笑いをこらえていたジョーは、こらえきれずに大声で笑い始めた。
「ごめん、僕も君のこと、改造前は鳥だったのかなって思ってたし」
「オッサンが言うのは冗談だと解るが、お前の場合ちゃんと訂正しておかないと、本気にしそうだからな」

背後から聞こえる、漫才のようなやり取りにギルモア博士も嬉しそうに目を細める。
「いつだったか・・・。ジョーに『D6のDって動物実験体のDなのか?』と聞かれたときにはワシも正直驚いたがな」
苦笑いを隠しきれない。

(DがDOUBUTUのDだって、どうやったらそんな発想ができるんだ?ジョーは濃縮還元100%ではなく、実は「濃縮天然」なのかもしれない。)
博士の一言に、00ナンバー全員が同じ事を考えたのは言うまでもない。


「にしても、オッサン、答えを知ってたなら、教えてくれても良かったのによ」
ジェットは、アルベルトを振り返ったが、
「敵に塩は送らん」
無愛想な答えが返ってきただけだった。

ジェットは大きな溜息を付いて、窓の外を見ながら愚痴った。
「あぁ~~、あとちょっとで1000万円だったのに」
「よく言う。お前が何を答えたって言うんだ。全部イワンのおかげだろう?」
アルベルトがジェットの後ろから手刀を加える。



「しかし、何故イワンがジェットに加担したのだろう」
最後尾の席で腕組みをしていたジェロニモの低い落ち着いた声がした。
「そういえば、そうよね」
今までジェットの姑息さばかりに呆れていて、影の功労者、イワンがジェットの姑息作戦にどうして加担したのかなど、誰も考えなかったのだ。
フランソワーズはふわふわ浮かぶクーファンのイワンにそっと近づくと、覗き込んだ。
「ね、どうしてなの?」
<<ソリャ、ミンナデ旅行ヲ シタカッタンダヨ。>>
「本当に?」
フランソワーズは悪戯をした子供をたしなめるような目つきで聞いた。
<<本当サ。>>
髪の隙間から少しだけのぞく視線を微妙に外しながら答えた。フランソワーズはフッと笑う。
「そんな嘘、私には通じないわよ」
ふうと溜息を付いて、イワンは観念したような表情を浮かべた。
<<本当ノトコロ、君ニハ ぼくノヨウナ 能力ガ アルンジャナイノ?>>
「まさか。でもアタシにはイワンの考えていることがなんとなくわかるのよ」
<<仕方ガ ナイナ。本当ノ事ヲ 話スヨ。>>

クーファンはふわふわと移動をし、フランソワーズが座っていた座席の隣に落ち着いた。

<<ボクガ 自分デ開発シタ計器ヲ売ッテ、僕ラノ活動資金ニ当テテイルコトハ知ッテイルヨネ。>>
全員が頷くと、イワンはゆっくりと目を閉じた。





ある日のことだった。
ボクはいつものようにメールを開くと、とあるアメリカのベンチャー企業からメールがとどいていたんだ。
中身を読んでビックリしたよ。
僕が開発して通信販売で売っている計器が彼らの特許に抵触しているというんだ。
彼らの要求は、売上の一部をロイヤリティー(特許使用料)として支払うことだったんだ。


「ねぇ、ねぇ・・フランソワーズ」
重い雰囲気を察してか、ジョーが後ろから小声でフランに話し掛ける。
「?」
「ロイヤリティーって何? 紅茶のこと?」
(それをいうならロイヤルミルクティーだわ!)
フランソワーズはしばし、こめかみのあたりを指で押さえると、
「後で説明するわ。だからお願い、今は静かにしていてね」
幼い子供を諭すかのようにジョーを制した。


「で・・・彼らの要求金額はどのくらいだったんだい?」
運転席のピュンマが視線を前方に向けたまま尋ねた。
<<ザット 800万円ニナルト思ウ>>
「800まんえん!」
全員が驚きの声を上げた。800万円、すぐに用意できるような金額ではない。
「それを1人でなんとかしようとしたの?」
フランソワーズがイワンの頬に手を当てながら尋ねた。
「冷たいアルネ。ワテに言ってくれれば、少ないながらも協力したのに。ワテのものはみんなのものアルネ」
「そうだ。全員で協力すれば、多額の借金もどうにかなる」
口々にイワンへの協力を申し出た。


<<ウ・・ン。結局、僕1人ジャ ドウニモ出来ナカッタカラ、じぇっとニ頼ンダンダ>>
「クイズに出て、賞金を取れと」腕組みをしたまま話を聞いていたアルベルトが口を開いた。
<<ソウ・・・>>
「何故にネボスケ王子はこのブリテンを指名せずにジェットを選んだのか?」
グレートが大仰な身振りを加えながら言う。実はクイズに出たかったらしい。
<<知ラレタクナカッタンダ。>>
「何を?」
<<僕ガ ソンナ単純ナ失敗ヲ シテシマッタコト>>

確かにスーパーベビー イワン・ウイスキーにしてみれば、自分が世に送り出す製品が人様の特許に抵触しているかどうかなんてことはすぐにわかりそうなものなのに、今回に限ってだけはそれを怠っていたのだという。その些細な失敗をメンバーに知られたくない一心で、ジェットに白羽の矢を立てたというわけだった。

「ジェットには知られても良かったの?」
不思議そうにフランソワーズが問いかける。
<<ウン・・>>
言いにくそうにイワンがモジモジする。
<<じぇっとダッタラ・・・アンマリ深イコトヲ考エズニ くいずニ出テクレルト 思ッタカラ。>>
「じゃあ、ジェットは本当の理由は知らずに、出たの?」
「理由? 一応説明されたけど、金が要るんだなぁ・・ぐらいにしか思わなかったぜ」
「じゃあ、伊豆旅行ってのは?」
「オレのアドリブ」
「だから――」
司会者美濃の突っ込みに、ジェットがたじろいだんだと、初めて全員が納得した。

<<デモサ・・コウヤッテミンナニ知ラレテシマウノダッタラ、君カぴゅんまニオ願イスレバ 良カッタヨ。>>
クーファンがすーっとアルベルトの横に降りた。
「そんな事情があったのなら、出ても構わなかったがな」
「ダメダヨ」前方、運転席のピュンマの声がそれを制した。
「僕らには加速装置が無い。だから、センターシートに座れ無かったんじゃないかな。つまり賞金0円」
「そうだな・・。とてもじゃないが、0.5秒はオレには出せないタイムだ」
お手上げといった風に両手を肩の高さまで上げた。


「じゃあさ、今度はボクを誘ってよ」
栗色の瞳をキラキラ輝かせながら、クーファンを覗き込むようにジョーが言った。
「ボクには加速装置がついてるし、さ」
そう言うと、少しはにかむように微笑んだ。
<<・・・イ、イヤ・・・モウ コンナ失敗ハ 二度トシナイカラ じょーハ心配シナクテイイヨ。>>
イワンのクーファンはジョーから逃げるようにふわりと浮き上がった。

 #今回のことをジェットに引き受けてもらうまではよかったが、
 #まさかセンターシートで大暴れするのは誤算だった。
 #彼を制するのにどれだけ精神力をつかったことか。
 #おかげで、予想よりずっと早く眠りの時間が訪れてしまった。
 #これで今度はジョー?
 #天然を押さえるのは、先読みが出来ない分だけヤンチャなジェットよりも遥かに疲れそうだ。
 #ならば、今度のことを肝に銘じて、二度とこんな失敗はしないようにしよう。

心に固く誓うイワンであった。



「それで、100万円しか取れなかったアルのに、ワテらジェットとイワンのおごりで旅行にきてるアル。特許料の支払いは大丈夫アルカ?」
ナイス大人! 今はその話の途中。危うく忘れるところであった。

<<ソレナラモウ心配シナクテイイヨ。彼ラノ製品ヲ丹念ニ調ベテイタラ、彼ラモボクノ特許ニ 抵触シテイタンダ。ソノコトヲ彼ラニめーるシタラ、彼ラハ 要求ヲ 取リ下ゲタンダ。>>

「痛み分けということだな」
「じゃあ、めでたし、めでたしアルネ」
嬉しそうに大人が両手を上げて喜んだ。



「だがな・・・」
アルベルトのゾクリとするような冷たい声がした。
「伊豆では約束通り、パシリになってもらうからな。覚悟しておけよ」
死神の命令口調にジェットが怯む。
「ちょっとオッサン、それは無いんじゃね-か。せめて東京に戻ってからにしてくれよ!」
「だめだ、この旅行が終わったらオレはすぐにドイツに帰る。お前との約束が果たせなくなるからな」
「だけど、誰の賞金で旅行してると思ってんだよ!」
「ほぉ?」
眉間にしわを寄せ、マシンガンの銃口を口元に持っていき、それにふぅっと息を吹きかけた。
「それとも、オレと闘るか?」
血の気も失せるような冷たい笑みを浮かべてアルベルトが見下す。
分が悪いと判断したジェットは、傍らに浮かぶ赤子を仲間に加えようとした。
「元はといえば、イワン、お前が寝ちまうから1000万円が取れなかったんだぞ。連帯責任だ、一緒にパシリになれ」
ジェットがクーファンの端をつかもうとする。
<<イ・ヤ・ダ・ヨ>>
クーファンはジェットの手をすり抜けて、ふわりと後方に動いた。
<<ダイイチ、賭ケヲシタノハ ボクジャナイ。 ソレニボクニ 無駄ナ力ヲ使ワセテ、早ク眠ラセタノハ他ナラヌ君ジャナイカ。>>
ジェットの手をスルスルとかわしながら、クーファンは右へ左へと移動する。
まるであざ笑っているかのようだった。

「諦めるんだな、若者よ。 これもまた運命・・」
グレートが胸に手をあてて、芝居がかった口調で言うと、
「グレートに付いていこうって思った俺が間違ってたんだ!なあ、一緒にパシリになってくれ」
「な・・なんだ?」
クイズのときにも言っていた、「付いていく」って何? この謎はこの夜の酒の席で明らかになるのであった。


<<トコロデサ じぇっと・・・>>
イワンのクーファンがスーッとバスの先頭へと移動した。
<<モシ750万円ノ問題ガ正解シテイタラ、1000万円ッテ取レタト思ウ?>>
「無理無理、お前抜きで解るわけネーダロー」
ジェットはお手上げのポーズを取った。
「5問目からあとは、1問だって答えがわからなかったんだ。100万円取った後の問題は、問題の意味すらわからなかったぞ」
ジェットらしいといえば、らしい。
「それに、どんな問題が出るのかも知らねーし」
<<ソレガ、実ハ知ッテルンダ。アノ日ノ1000万円ノ問題。>>
イワンは眠りにつく直前、美濃の手元にある残りの問題を読んだのだという。
「せっかくだから、試しに挑戦してみたら?」
「まぁ。聞くだけってことでな」
<<ジャア、イイネ イクヨ。>>

<<問題 幻ノ えねるぎー鉱石 めたるXガ 産出サレタコトデ 知ラレル 西あふりかノ 国ノ名前ハ?>>

「それって・・・」

<<ワカル?じぇっと>>

「ムアンバだろ・・・」

<<正解ッ!!惜シカッタネ・・・>>


ジェットは窓を全開にあけて、海に向かって叫んだ。




「くやしいぞぉーーーーっ!!!!!」




笑い声が響き渡る。
海沿いの道をバスはひた走る。
カーブを曲がり、目的地の熱海はもう目の前だった。

(おしまい)


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あとがき

最初に決まったのはジェットがテレフォンに失敗するオチでした。
オチがきまったものの、なかなかかけずにいたんですが、つらつらと書き始めたら、 あんな風になってしまいました。
ナンバーさん達ををあそこまで黒く仕上げるつもりは無かったのですが、気付いたら真っ黒。

初めての連載で非常に疲れましたが、たくさんの感想をいただけて励みになりました。
多くの方が読んでくださってると思うと(ん?勘違い?)、本当に嬉しいです。
みなさんありがとうございます。

(03年6月12日 NBG様へ投稿)
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