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春よ来い  (お笑いComments(0) )

3,4,9   8は友情出演
キリバンニアピンでみぃさまからリクエストいただきました。
お題は「ジョーの嫉妬」
お相手はフラン嬢、ライバルはハインリヒ
春満開のギルモア邸に訪れた不穏な空気の原因は・・・・





 フランソワーズの様子がおかしくなったのはいつからだったろう?



 病気ではない、と言い張る彼女。けれど顔色は悪く、表情も暗い。いつも思い悩んでいるように俯いているし、 泣きはらしたような腫れぼったい目をしているときもあった。口数がめっきり減り、花のような笑顔は影をひそめた。 賑やかだったリビングは通夜のようにひっそりと沈んだ。
 まるでこの家全体が陰気で澱んだ空気につつまれてしまったようだった。



 春なのに。彼女が一番大好きな春だっていうのに。











――ボクでよければ相談に乗るよ・・・・・



 そう言いたかった。否、言うつもりだった。
 彼女の笑顔のためならどんな苦労だって厭わない。
 なのに・・・それなのに、彼女を前にすると肝心の言葉が出てこない。 何十回と唱えたはずの言葉も、いざ彼女の前に来ると喉の奥で虚しくもがくだけだった。
 相手が彼女だからこそうまく言えないのも承知で、今日こそは、今日こそはと思いながら、時間だけを無駄に過ごしてしまった。



 そしてグズグズしているボクに更なる悲劇が襲った。



 ボクが居るはずだった彼女の隣は、いつの間にかハインリヒが・・・・座っていた。








春よ来い







 「はぁ・・・」



 ボクは朝から通算50回目の溜息をついた。
 誰かが『溜息1回で1年寿命が縮まる』なんて言ってたな・・・ジェットだっけ、ピュンマだったっけ。 どっちだっていいや。今のボクにはそんなことはどうでもいいことだ。
 わかっていることは、ボクの寿命が50年縮まった、ただそれだけ。 けれどサイボーグにとっての50年は悲しむべきことなのだろうか、はたまた笑ってしまうほどの些細な誤差なのだろうか・・・。

 「はぁ・・・」 と51回目。

 憂鬱の原因はボクの部屋から見える古い桜の木にある。
 遠くに離れているからその姿は小さいけれど、枝ぶりがいいとか、花が一斉に咲くから見事だとか、 みんなあの桜をやたらと誉めちぎる。 正直なところボク自身は桜なんて全然気にも留めていなかったんだけど、 フランがあの桜を好きって言ったからボクも好きになった。
 そしてあの桜で花見をするのが春の恒例になっていた。だけど今年はそれもない。 彼女が言い出さないこともあるし、あんな具合の彼女を無理に連れ出すのも憚られたから。 だから今年は窓から花見・・・・のつもりだった。



なのに―――



 ボクは今日ほど自分の能力を疎ましく思ったことは無い。



 ここから優に500mは離れている桜の木の下に誰が居るかだなんて、生身だったらわかるはずも無かったことだ。 しかし多少目を強化されたばかりに、桜を見上げる2人の姿を嫌というほどはっきり見てしまった。
 嫌だったら見なけりゃいいだろうって思うかもしれない。けれどなぜか目をそらすことが出来ない。 桜の2人に溜息がまたひとつ零れた。
 どちらが花見に誘ったのかはわからない。フランが連れてってとねだったのかもしれないし、ハインリヒが気晴らしに連れて行ったのかもしれない。  フランはこちらに背を向けているので表情はわからないが、彼の表情でそれがあまり楽しげな雰囲気でないのは良くわかった。
 彼女は時折小さな肩を震わせ、ハンカチを目に押し当てる・・・泣いているらしい。彼は抱きしめることもせず、ただハンカチを彼女に貸したり肩を叩いてみたり、 あれこれと気を使ってるように見える。見えるけど・・・・






ボクダッタラ カノジョヲ ナカセタリハ シナイ












 花見の一件以来、彼女の具合はますます悪くなった。










 彼女は1日の大半を部屋で過ごすようになった。そんな彼女にハインリヒは当たり前のように付き添う。 そして仲間達もそれを当然のこととして受け入れていた。


 今日の朝食は珍しく彼女が起きてきた。
 一緒の朝食は1週間ぶりでボクの心は弾んだ。 だが、ボクの気持ちとは裏腹に彼女はほんの数分で席を立った。
「具合が悪いのごめんなさい・・・」
 そう言い残すと自室へと引き返していった。彼女の残した朝食を持って ハインリヒも続いた。 そして彼女の居ない朝食はやっぱりお通夜みたいに寂しかった。










 食後、リビングに残ったのはボクとピュンマ。
 ピュンマだって彼女の具合が心配じゃないわけないだろうに呑気に本なんか読んでいる。 ボク1人ソワソワしながら2階にある彼女の部屋の方を見上げた。 気を紛らわせようとテレビを見ても雑誌を読んでも、結局彼女のことばかりが気になった。

「そんなにフランソワーズが気になる?」

 僕の方をチラリと見ながらピュンマが言った。後からピュンマに聞いた話だけど、 このときのボクと言ったら端から見ていられないくらい不安で押しつぶされそうな顔をしていたのだと言う。

「うん・・・・」

 今まで彼女の様子について誰も話をしないことも不思議だったけど、こうやっていきなり確信を突かれると どこからどう答えていいのかわからなかった。 ボクだって聞きたいことがたくさんあるのに、彼女はどうしちゃったのか、ハインリヒは何故彼女に付きっ切りなのか、何故みんなそれを当然のこととして受け止めていられるのか・・・・ さまざまな疑問が一気に噴出してきて、それらをきちんとした言葉にすることは出来なかった。
 曖昧な言葉を返したボクにピュンマは少しだけ同情の色を浮かべたが、すぐに視線を本に戻した。



 しばらくの沈黙の後、



「ふたりは同じ痛みを持っているから・・・・」



 確かに彼はそう言った。








 彼女の涙は、40年前のもの?
 彼女の痛みは彼にしか癒せないもの?
 ボクではどうにも出来ない過去の出来事?
 それが今、彼女を蝕み奈落の底へ突き落としているの?


 やっぱり―――


 ボクでは駄目なんだろうか。













「花見なんて行かなきゃ良かった・・・あれ以来最悪・・・」
 うんざりした表情でフランソワーズはベッドに身体を横たえた。 布団をかぶるとつられてくしゃみが3回出た。
「だからやめておけと言ったろう」
「どうしても見たかったのよ」
 彼女はハインリヒから真新しいティッシュの箱を受け取ると1枚引き出した。

 窓の外は風が強く、桜の木はまるで雪のように花びらが舞い落ちていた。 絵画のような風景に2人はしばし見とれていた。

「それにしても、罪作りだな・・・・君は」
 ベッド脇に座ったハインリヒが皮肉たっぷりに口を開いた。
「何のこと?」
「わかってるだろう、坊やのことだ」
「ジョー?」
「奴の顔を見ただろう?泣きそうな顔をしていたぞ。 君のことを本気で心配しているし、俺達2人の関係を思いっきり誤解している」
「いいじゃない、別に」
 フランソワーズはニッコリと微笑んだ。
「よくない。ここままでは俺は奴に殺されるかもしれん。いい加減本当のことを話してやれ」
「何て言えばいいのよ」
「簡単なことだ。『わたしは花粉症です』って言えばいい」
「いやよ!」
 フランソワーズは駄々をこねるように布団にもぐりこむ。
「別に恥かしい話じゃない。いいか、日本人の多くが花粉症だ。当たり前の病気だ。 そして、その当たり前の病気に俺達第一世代が脅かされているんだ。 拒絶反応を押さえるために開発した血液と体液がスギに対してはめっぽう弱いだなんて、あの時は想定外だったからな」
「そして生身に近かった私が最初に発症した・・・。最初だったおかげで後から発病するあなたたちのために、 博士の開発した薬の効果を試す羽目になったんだわ。花粉症なんてマスクとメガネをすれば予防できるのに・・・。 それではいつまでたっても治せないからって・・・春先に日本でミッションになったら 大変だって・・・・。 あなたやジェットのためにこうやって薬の実験台にさせられているのよ!」
「君の苦労も痛いほどわかるし感謝もしている。 だからこそ、こうやってクスリの効果を記録する役目も俺がしているんだ。 スギなんか御免だとアメリカに逃げ帰った奴とは違ってな。
 さぁ、新しい薬だ・・・えぇっとサンプルコードは53・・・もう53種類目なんだな・・・。 今度のクスリは、イソフェニルアラミドサルファクロライドδプラス・・・・・・ フン、最近のは面倒で名前も読めん。とにかく飲むんだ」
 フランソワーズはアルベルトから手渡された錠剤を2粒飲むとだるそうにベッドに横たわった。
「今度のは副作用が弱いといいのに・・・。もう副作用のせいで日常生活すらおぼつかないのよ」
「だな。しかもクスリが副作用ばかりで全く症状が改善されないのも呆れた話だ。 ・・・・それよりなんでジョーにだけは本当のことを教えないんだ?」
「だって・・・知られたくないのよ。彼ったら大袈裟に心配するし」
 応じるフランの鼻声がさらにひどくなり、すかさず手元のティッシュに手を伸ばした。 チーンと鼻をかむ音が部屋に響く。
「鼻だってかみすぎて痛いし・・・もう本当にイヤ」
「それはジョーと関係ない話だろう? それに奴は今だって大袈裟に心配している。教えるのも教えないのも変わらないなら、俺は教えるべきだと思うがな」
「でもイヤ、絶対に、イヤ」
「なるほどな・・・」
「なによ」
 ニヤリと笑ったハインリヒに彼女は憮然とした応じた。
「それほどに好きって訳だ」
 彼がしたり顔で何度も頷くと、
「何言ってるの?そんなんじゃないわよ。誤解です、ご・か・い」
 彼女は思い切り口を尖らせた。しかし、彼女の不満を無視し、ハインリヒは手元のノートになにやら書きつけ始めた。
「何?」
「今度の薬の副作用だ・・・・服用後3分、被験者はミエミエの嘘をつく・・・と」
「あなたなんて、大嫌い!」

 フランソワーズは手元にあったティッシュの箱を思い切り投げつけると、 バフッと箱の壊れる鈍い音がした。両手で鼻を押さえたハインリヒは、うずくまったまましばらく動くことができなかった。















「フランソワーズ・・・」




 リビングでは事情を全く知らないジョーが不安気に階上を見つめ続けていた。















 ジョー、君の春はもうすぐそこまで来ているよ・・・・





多分。














(fin)





あとがき
弊サイト初のキリバンでみぃさまからリクエストいただきました。

リクエスト内容は「ヤキモチを焼くジョー」。
お相手はフランソワーズ、ライバルはハインリヒ。

やはり弊サイトらしくジョーは天然(というかお子様)風味に仕上げたら、 不思議テイストの話になってしまいました。(いえ、それはいつものことですが)

ジョーに事情を知られたくない一心で、逆に彼を不安に陥れたフラン。
ジョーに嫉妬されつつも意外とそのポジションを楽しんでいるハインリヒ。

みなさん黒め仕様なんですが・・・・、

友情出演だったピュンマの一言はあまりにも黒かったですね(苦笑)
彼にしてみれば悪意はなく、フランから口止めされているんだけど、ジョーの心配も わからないではない。なにかヒントを・・・と口走ったのがあれだったわけで、結果的に 大ブラック


ジョーくんの友達はみなさん素敵な方ばかりです。



みぃさま、こんな不思議SSをご笑納いただいてありがとうございました。


(04年4月13日 みぃさま宅にお嫁入り)
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