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流し雛(38の日記念)  (その他Comments(0) )

38・・・・というより83。オチはなし。甘い話なのでご注意を(っていう注意書きもどうよ)





「もしもし、ピュンマ!」



「そう・・・ですけど。どちらさま?」


「アタシよ、フ ラ ン ソ ワーズ」



「なんだフランソワーズか。君から電話とは珍しい。
それで突然どうしたんだい?」


「来週のメンテナンスのことなんだけど」



「メンテナンス?」


「ううん、メンテナンスというよりもね・・・
日本にはいつまで居るのかなって」



「3月31日・・・だね」


「そうかぁ・・・・・・」



「それがどうかしたの?」


「ね、4月3日まで延ばせない?」



「はぁ?」


「ダメ?」



「いいけど・・・、どうして?」



「ありがとう!詳しくは来た時に話すわ!じゃあね」















流し雛



「あのね、谷地(やち)に行きたいの」

 ギルモア邸に到着し、お茶を飲んでいる僕に早速彼女が切り出した。

「谷地?」
「そう、谷地・・・・山形県河北町谷地。毎年この時期になるとひな祭りがあるのよ。それを見に行きたくって」
「で、僕に付き合えと」
「そう」
「誘う相手、間違ってない?」
「誰のこと?」

(「誰のこと?」って開き直られてもね・・)

 僕は答えに窮した。日本の祭りに行くのなら、日本人の”彼”と行くのがいいと思ったんだが。

「だって・・・・・・誘いたくても誰も居ないのよ」

 ぷぅっと風船のように頬が膨らんだ。クルクル変わる表情は見ていてまったく飽きない。 彼女は約束をすっぽかされた子供のように全員の名前を挙げる。

「ジェットとジョーはレースでしょ、アルベルトとジェロニモは日本に居ないし、張々湖とグレートはお店が忙しいって」
「なんだぁ、それじゃあ消去法で僕ってわけかい」

 つい大声で笑ってしまった。そうさ僕は目立たない奴さ。

「そういうわけじゃないけど・・・・・・ピュンマは丁度メンテナンスだったし・・・・・・・」

 僕の指摘に彼女は恥ずかしそうに困ったように下を向く。あまりいじめるのもかわいそうだと僕はあっさり 攻略されることにした。

「いいよ。行こう」
「本当に?やったぁ」

 彼女の困惑した顔は一転して弾かれたような笑顔に変わる。そう、僕らは皆、この笑顔に弱いんだ。



 で、山形ってどこかな、と地図を広げてビックリした。ずいぶん遠くじゃないか。 片道400km。とてもじゃないけど日帰りお気楽ドライブというわけにはいかない距離。 聞くのも躊躇われるが、聞かないわけにはいかない重要なことを切り出さざるを得なくなった。

「日帰り? それとも泊まり?」
「どっちでもいいわ」

 僕の悩みなど構うことも無く彼女はニッコリ微笑んだ。君は・・・僕が男だってことを全く意識していない。
 ならばお泊りにして、次の日にはもう少しだけ北上して石ノ森萬画館も寄って・・と思った瞬間、 ジョーの凍りついた顔が脳裏をよぎった。
 ― ジョーとフランソワーズ ― 仲間内では公認の2人となっている。
 ところが驚いたことに彼らはお互いを「片思い」と思っているらしい。ジェットが2人を冷かそうものなら、「ぼ、僕達は別に・・・」と来る。 可愛いんだか呆けてるんだかさっぱりわからない。
 僕らの目を気にしてか、ジョーはフランに気の無い振りをする。
 が、僕やジェット、アルベルトがフランと2人で買い物に出かけるなんてことになれば、 「いってらっしゃい」の目が笑ってない。 背中に殺気を感じることさえある。

 あいつと喧嘩なんかできないよな・・・あいにく僕には加速装置もないし。

「日帰りで行こう。だけどその分朝は早いからね。そのつもりで」
「えぇ。わかったわ」

 後ろめたいことなど何も無いはずなのに、それでもまだどこかで引っかかる。
 本当に彼女と2人で山形まで行っちゃっていいんだろうか・・・・。 グレート辺りにはやし立てられて話が大きくなってしまわないだろうか?否、話がどう広がろうと、ジョーを除いた8人の間だけなら 笑い話なんだろうけど・・・。ジョーの殺気に満ちた瞳が再び脳裏をよぎり、ゾクリと走った寒気に思わず身震いした。

 もしも・・・・もしもだ。彼の逆鱗に触れたら・・・。

 いざとなったら海に逃げるしかないだろう。海の中なら加速装置もきかない。奴とも互角だ。 いや戦いに慣れている分、僕のほうに勝機があるかもしれない。
 だが、待て・・・・もしそうなった場合、僕は海から上がることができないんじゃないか・・・。それも困る・・・。 いや、いいだろう。その時はそのままムアンバに帰るまでだ。(風邪引きそうだな・・・)






 メンテナンスも無事終り、約束の日。快晴、絶好のドライブ日和。
 僕達は朝早く出発し、昼前、谷地に到着した。

 東北にも遅い春がやってきて、道端のそこここに花が咲き始めている。 しかし遥か遠くに見える山の頂には白く雪が残り、 春はまだ始まったばかりだということを告げていた。それでも日差しは明るく自然と心が弾む。
 だが暖かいのは景色ばかり。車から降りるとすぐに凍った風が耳の辺りを鋭く突き刺してきた。
「寒っ、」
 僕はコートに首をうずめるように羽織なおした。
「春って言ってもこの辺はまだまだ寒いのね」
 彼女の周りだけは暖かいんじゃないかと疑いたくなるほど、春らしい笑みを零す。
「さぁ、行きましょ!」
 彼女が踊るように歩き始めた。薄いピンクのコートがふわっと膨らんだ。 軽やかに揺れるコートの裾がその気持ちを雄弁に語っているようだった。


「谷地のひなまつりっていうのはね・・・」

 歩きながらも彼女はおしゃべりをやめようとはしない。

「この土地に昔から住んでいる人たちが、代々伝わっているおひなさまを一般に公開するの。谷地は昔から紅花交易が盛んでね、京都から文化がずいぶん入ったんですって。だから立派なお雛様がたくさん見られるのよ」
「ふーん。立派なお雛様だったら美術館や博物館の方がいいんじゃないの?」
「確かにね、そういうところでも見られるんだけど・・ここのお人形は生活に密着しているって言うか、家の人に愛されてきたお人形だから、美術館のものとは違うんじゃないかなぁって思ったの」

 家族に愛された人形達・・・か。らしいな。


 僕らは案内の看板に従い一件の旧家に入り(当然入場料を払って)、飾られている人形達を見せてもらった。
 「雛人形を見に行こう」と誘われたとき、派手で豪華な雛人形がショーケースの中に小奇麗に飾られているんじゃないかと想像していたが、 実際は全く違っていた。
 ずいぶんと古い人形、愛嬌たっぷりの人形、怪奇映画に出てきそうな人形(正直言って苦手・・・とは彼女にいえなかったけど)、 家中の人形一切合財を出してきて、文字通り「祭り」をしているようだった。人形の前にはずいぶんなご馳走が並んでいて、 ジェットだったら「どれひとつ」なんてつまみ食いをしていたに違いない。
 「家族に愛された人形達」まさにそんな感じ。
 彼女はたくさんある人形の中からめぼしいものを選んでは、雛人形の形式や歴史、雛道具からお供えのご馳走の話まで解説してくれた。
「ずいぶん詳しいんだね」
 すっかり感心し、素直に感想を述べると、
「ふふ、いつもと立場が逆転でしょ」
 得意気な返事が返ってきた。
「だから電話で行き先を教えてくれなかったの?」
「だって始めに言っちゃうと、ピュンマのことだものみっちり予習してきそうだったから」
 悪戯っぽい目がくるくる笑う。
 なるほどね、僕をここにつれてくるためにいろいろ勉強したんだろう。その姿がちょっといじらしく思えた。





 某家の雛人形を見終わって外へ出ると、彼女は買い物があるからとコンビニに入っていった。 残された僕はというと、特にすることも無かったので道端の露店を冷かすことにした。
 露店と言ってもひな祭り会場だから雛人形を売っている。 手のひらサイズの雛人形の焼き物や和紙で作った人形、いろいろな種類のひな人形。その中で僕の目を引いたのは 藁で作った皿に紙製の人形が括り付けてあるものだった。
 その雛人形を見つめていると、「それは流し雛というものさ」と訛りの強い店主の声がした。 彼は暇を持て余していたのか、僕が珍しいのか、流し雛について説明してくれた。
 流し雛は自分の身代わりであるという。
 その身代わりに自分の持っている「厄」や「けがれ」を託し、 雛を川に流すことで文字通り”水に流す”風習なのだそうだ。初期のひな祭りの形式のひとつであり、 今でも地方によってはその風習は残っているという。 人形の素朴さや、その人形に託した思いのようなものに引かれて、僕は流し雛をひとつ買い求めた。
 数分後フランソワーズは戻ってきて、僕達はまた雛人形めぐりを続けた。






「あのね、もうひとつ付き合って欲しいところがあるの」
 雛人形を一通り見終わって、フランソワーズは言った。夕焼けに染まる君の頬、少し大人びた表情に僕は一瞬ドキリとした。
 彼女に連れて来られたのは川のほとりだった。
「あのね・・・・」
 そう言ってバッグの中をごそごそ捜し始め、やがて丸い藁で作ったお皿のようなものを取り出した。
「これは?」
 と覗き込んで僕はビックリした。藁の皿の上には9体の人形がくくりつけられている。良く見るとそれは僕達9人を模した人形。 定員オーバーの感はあるがまぎれも無く流し雛。
「君が作ったの?」
「そうよ」と彼女は微笑んだ。
「ひなまつりには流し雛って風習もあってね、こんな風に雛をながして、厄払いをするんですって」
 偶然テレビで見かけて、ならばと自分達の厄を流したいと思ったのがことの始まりだったと白状した。
「なるほどね」
 ほんのわずかに抱いていた甘い期待はすっかり裏切られたが、彼女らしい思いやりに口元が緩んだ。
「じゃあ、みんなが幸せに暮らせるように祈りながら流そう」
 白く光る細波に揺られながら、雛は消えていった。





この世界から争いごとがなくなりますように・・・・・・・






「実はね、僕も持っているんだ」
 胸のポケットに持っていた買ったばかりの流し雛を取り出した。
「あら、これは本物の流し雛ね」
「あぁ」
「ピュンマは何をお願いするの」

 僕はニヤリと笑って彼女にそれを手渡した。

「君にあげる」
「くれる?」
「ただし、雄雛は僕、雌雛は君だ」

 言いきった僕の言葉に、彼女は形容しがたいほどの困惑の表情を浮かべた。

「あのね・・・私・・・」すまなそうに下を向く。 「何て言ったらいいか・・・」

 うろたえてモジモジする彼女に堪えきれず僕は吹き出し、大声で笑い出した。

「冗談だよ、冗談。そんなわけないだろう?だいたい君の好きな人が誰かなんて、ちゃんと知ってるんだから」
「えっ?」

 顔を赤らめるフランソワーズ。上目遣いで僕を見あげる。

「本当に・・・知ってるの?」

 おいおい、本気で言ってるのかい?ジョーを除く全員が知ってることなんだぞ。全く世話が焼ける二人だ。

「日本のお祭りなんだから、雄雛は当然日本人のアイツ。で、雌雛は持ち主の君。さあ、流しなよ」

 僕に薦められるがままに雛を流すフランソワーズ。波間に雛が見え隠れする。

「なんだぁ、知ってたの」
「見てればわかるよ」
「ジョーも知ってるのかしら?」
「多分・・・・わかってないだろうね」
「あいつは女心ってものを全くわかってないから」そう続けた僕にフランソワーズは「そうかもね」と言って笑った。

 細波に夕日が反射してきらきらと光る。その間を縫うように雛はユラユラ揺れながらゆっくりと進んでいく。

「届くといいね」

 流れていく雛を眺めながら、彼女は少し恥ずかしそうにしながらコクリと頷いた。






 雛が完全に見えなくなるのを確認し、僕達はもと来た道を歩き出した。






「それから、男の人をこんな風に気安くデートに誘うんじゃないぞ」
「えっ?」
「僕だって一応は男なんだから」
「いいの・・、だってピュンマは私のお兄さんみたいなものだから」
 そう言うといきなり彼女は腕にしがみついてきた。
「よせよ、恥ずかしい」
「いいじゃない!!」
 のがれようとする僕の腕をさらに両手で掴みなおす。





聞こえないように溜息を漏らす。





君も・・・・・・わかっちゃいない。





もしもの時は、ジョーとやりあうくらいの覚悟はできていたんだけどね。





(fin)






(言い訳)
笑っちゃいました? えぇ、私は笑っちゃってます!

私の脳内のどこに、こんなに子供じみていて鈍感なフランソワーズが住んでいたんだろう?謎です。 言い訳がましいですが、平成フランにはピュンマに兄ジャンを重ねて欲しいなと思っています。 えぇ、あくまでも願望で。
まぁそんな妄想をお許しいただいたとしても、初っ端の電話のシーンからして「わざとらし感」がムンムン漂うSS、 加えて後半のヘンテコな甘さったら・・・ごめんなさいです。

実はこれ昨年の今時分に何気なく書いたもの。 今日のよき日、38の日にアップしようと読み直したら、


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ~~~」(松田優作風)


顔から火が出ました。修正前の話を一部の人にお見せしたのだから性質が悪い。
慌てて加筆修正、甘さを2割減にしました。それでも不気味に甘ったるいのは・・・・ ペコm(_ _;m)三(m;_ _)mペコ。<ラブストーリーはかけないね、自分


さて、物語に出てきた谷地は実在の土地です。毎年4月の2、3,4日あたりに雛祭りをしていて、文中の様な感じで 年代物のお人形に出会えます。興味のある方は是非お出かけください。きれいですよ。

(2004.3.8)
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