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夏の思い出  (ピュン誕Comments(0) )

はじめて58もの。
誕生日を迎えたピュンマが憂鬱そうなんです・・・。
008 Ring Link Rarry様への捧げもの。(2003年ピュン誕)






       ――残暑


 

日本の暦ではそう呼んでいるらしい。
秋が始まっているのに、暑さが残っているから「残暑」。





(秋・・・ねぇ)





ピュンマは窓辺に立ち、砂浜の様子を眺めた。



窓の外は痛いくらいに眩しい日差し。
聞こえるのは、ステレオサウンドの蝉の声。
感じるのは、湿り気を帯びた熱風。



(これの何処が「秋」なんだ?
      「夏本番」としか言いようが無いじゃないか。)


太陽がギラリと肌に差し込むと、ジワリと汗が吹き出てくる。
汗がまるで身体にピタリとした衣服のように纏わりつく。
不快なことこの上ない。

   ――クーラーかけりゃいーだろー。

ジェットにはそう言われたが、冷房も今ひとつ好きにはなれない。






砂浜ではパーティーの準備にいそしむ仲間達の姿。
今夜の段取りを話しているらしい。





今朝のこと。忙しそうに準備をするフランソワーズを掴まえて、

   ――僕にも何か手伝わせてよ?
   ――主役なんだから、部屋で本でも読んでいて、ね。

満面の笑みにウインクまでされてしまっては、さすがに反論も出来ず、すごすごと部屋に引き下がった。





(それにしても、やることないし・・・)

用意した本も読み尽くし、暑い上にヒマまで持て余している、最悪だ。
その時、窓の外、砂浜の集団から高らかな笑い声が起きた。

(楽しそうだな・・)

彼は自分ひとりだけがポツリと取り残されたような気分になり、小さく溜息を付いた。





                  コンコン





彼をそっと気遣うようなノックの音。
「入るぞ」とドアが開く。


入り口に立っているのは、仲間の中で最も背の高い5番目の男。
男は戸口で彼を見つめていたが、返事が無いのは肯定の意味と解し、ゆっくりとした足取りで部屋に入ってきた。


「退屈だろう。」
無造作に数冊の本を差し出す。
「まぁね。事実上の軟禁状態だし。」
本を受け取りながら、彼は自分への扱いに少しだけ不満を漏らした。
「どちらかっていうと、僕もあの仲間に入りたいよ。」と浜の様子を見やる。


砂浜の騒ぎは、彼の誕生日パーティーの準備。
「企画は秘密」、というわけで彼は囚われの身になった。


だけど・・・


秘密も何も・・・目の前で準備をされたらバーベキューだということは一目瞭然。
「あれじゃ、僕をこの部屋に押し込めた意味がないよ。」苦笑いが混ざる。
「許してやれ。みんな、おまえが戻ってくるのを楽しみにしていたんだ。」


祖国でのピュンマの多忙は誰もが知るところで、クリスマスも正月も彼が日本にやって来ることは無い。
それならばと、仲間が比較的多く集うこの時期に彼のメンテナンスを入れたのはフランソワーズ。
メンテナンスで呼び出して、誕生パーティーも一緒に行うというのがここ数年の彼らの行事になっていた。





(でも・・・)





ピュンマは思う。





時間を止められたこの身体に誕生日の意味があるのかと。
サイボーグになってから何度となく迎えた誕生日。
最初のうちこそ本当の歳を数えていたが、変わらない姿にそんな行為が無意味に思えた。
いっそのこと誕生日など永遠に来ない方がすっきりするのに、そう思い始めたのはここ数年。

もちろん仲間が自分のためにパーティーを開き、祝ってくれるのは嬉しい、その気持ちに偽りは無い。
だが、嬉しい反面パーティーが終わると、どうしようもない虚しさに囚われる。
否、彼らだってその虚しさを感じてるはずなのに、どうしてあんなに屈託の無い笑顔で笑うことが出来るのだろう。





もしかしたら――





この夏の蒸し暑さが、自分の誕生日を鬱陶しいものにしているだけなのかもしれない。





賑やかな光景を見つめながら、ピュンマが思いをめぐらせていると、隣のジェロニモがゆっくりと口を開いた。





「誕生日は祝いではない。遠い昔に自分が生まれたことを感謝する日。」
「感謝?」彼は男を見上げた。
「そうだ。俺たちは祝福されて生まれてきた。 誕生日というのは、産んでくれた人や祝福してくれた人に感謝をする日。」





(産んでくれた人、祝福してくれた人・・・・か・・・・)




ジェロニモの言葉は、彼に妹が生まれた日の記憶を呼び起こした・・・。








母親が産気づいたのはその日の朝食の席。

それでもしばらくは、時折苦しそうな表情を浮かべるくらいで、幼い彼の世話や家事をこなしていたが、 昼過ぎにはとうとう動くことができなくなった。顔は青白く、額からダラダラと汗を流し、身体を四つん這いに屈めて 必死に痛みと戦う姿に、子供だった彼は言い知れぬ恐怖を感じた。


――ねぇおかあさん、だいじょうぶ? 死んじゃうの?
――心配しなくていいのよ。

彼の母は、すがりつくわが子に脂汗を流しながらもニッコリ微笑んで、そっと頬を撫でてくれた。


――ねぇ、おかあさんが死んじゃうヨ!
――大丈夫さ。もうすぐあかちゃんがくるんだぞ。

小さい彼の頭に大きな手を乗せて教えてくれたのは彼の父。

――あかちゃんがくるから苦しいの?
――そうさ。だけど、ピュンマはお兄ちゃんになるんだぞ!
――あんなにおかあさんが辛いんだったら、ボク、あかちゃんなんてイラナイ! あかちゃんなんて大ッキライだ!!

目を潤ませて、握り拳を強く結んで訴えた小さな彼の言葉を、父親はただ笑って聞いていた。



しばらくすると、周りの大人達の動きが一層慌しくなった。にわかに家の中も騒がしくなる。
その中で幼い彼だけが1人、置いてきぼりにされたように立ちすくんでいた。


――ホゲッ、ホゲッ・・・

か弱い産声が聞こえたのは夜も遅くなってから。

――ピュンマ、おいで・・・。

手を引かれて入ったその部屋には、壊れそうなほどに小さい生き物が不器用に手足を 動かしていた。
全身が赤みを帯びていて、それが自分と同じ仲間だとは到底思えなかった。
しかし、その華奢な姿がたまらなくいとおしくて、小さな手をおそるおそる握った。
その姿に彼の母は嬉しそうに目を細める。

――仲良くするのよ。

そう言って、幼い彼の頭を優しく撫でてくれた。
穏やかな声は幸せを噛み締めているようだった。



妹の出産が大変な難産で、危うく母子ともに命を落とすところだったと聞いたのは、何年も後のことだった。



命がけで妹を産んだ母親。
それを助けた村の人たち。
娘の誕生に大喜びした父。

生命が生まれる瞬間の興奮と喜び。
生まれてきた生命の輝き。



大人たちは祝福で子供を迎え、生まれてきたものは皆に希望を与える。






(僕も同じように祝福されて迎えられたのだろうな・・・。)








窓の外から涼しい風が流れ込む。気が付けばもう陽が傾きかけていた。





「そうだね。君の言うとおりだ。」



窓を見ながらピュンマは呟くように言った。



「本当に、君の言う通りだよ、ジェロニモ。」











「ピュンマ-!!準備できたから降りてきて!」

窓の下からフランソワーズが呼んでいる。楽しそうに手を振って。
ジェットときたら主賓の到着の前にビールを飲み始め、ジョーに咎められている。
その姿に、思わずクスリと笑みがこぼれた。



「さぁ、早く行かないと僕たちの分がなくなっちゃうね。」



振り返ったピュンマはいつものような笑顔が戻っていた。
ジェロニモも満足そうに微笑むと、ゆっくりと部屋を後にした。









部屋を去る前、ピュンマは窓の外、遥か彼方の海を眩しそうに眺めた。





<<言い訳>>

58です。初めて書きました。
当初、ピュンマの部屋へ入ってきたジェロニモが彼のベッドに座って話をする。という シチュエーションだったんですが、書いているうちに、不思議で妖しい気分になってきました・・・(汗)。
危険を感じたので、窓際に一緒に立ってもらうことに変更。<それでもしばらくは、妖しい妄想にとりつかれていました

やっぱりピュンマさんにはジェロニモさんなんだと、しみじみ感じた次第です。
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