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ギルモア博士は何故日本に住むのか  (職人・大山源一郎Comments(0) )

ギルモアがロシアに帰らない意外な事情 平ゼロ18話近辺の話




アイザック・ギルモア。大戦後、社会主義圏のエリートとして育ち、早くより工学・科学への才能を見出された。 ソ連アカデミーで英才教育を受け、神童と言われるほどの才能を発揮させていたが、その探究心と若さゆえ ブラックゴーストへの誘惑を断ち切れず、悪の組織へとのめりこんでいったのは皆さんもご承知のことと思う。
サイボーグ開発に身を投じて半世紀弱、彼はようやく自分の過ちに気付き9人の仲間達とBGを脱出したのであった。 以来、逃亡と戦いの日々を送っていたが、ついにスカールを倒し「普通の生活」を手にすることが出来たのである。


仲間達はそれぞれの国へと戻り、自分達の生活を始めた。


なのに何故、博士はロシアへ戻らないのか。


これにはいろいろな憶測がある。

1つは懇意にしているコズミ博士が日本に住んでいるということ。
1つは仲間の中で最高性能を誇る009が日本人であり、彼と一緒に住むことで身の安全を確保しているということ。

しかし、残念ながらこの2つは彼を日本に留めた理由ではない。

ドルフィン号、この格納を考えると日本は都合が良いという考え方もあるが、それならばグレートの祖国イギリスの方が遥かに適している。拠点がイギリスであれば00ナンバーの合流も非常に短時間で済む。加えて、日本で00ナンバーが連れ立って出歩こうものなら人目を引いて仕方が無いが、イギリスであればそうそう目立つことも無い。

そう、日本に拠点があるメリットは無いように思える。

しかし、博士はこだわって日本に住んでいるのである。

何故か。

日本の漫画だから日本が拠点なんてことはこの際言わないで頂きたい。
本当は多分そうなんだろうけど・・・。

ギルモアは彼が日本に住むことを決意させた街、蒲田に来ていた。
そのにある小さな町工場に入っていく。

「源さん、こんにちは」
「あぁ、先生かい?」
ぶっきらぼうな声で出迎えたのは、この町工場を1人で切り盛りしている大山源一郎であった。











話は彼らがブラックゴーストを逃れて日本のコズミ邸に身を寄せ始めたばかりの頃まで遡る。


「なぁ、コズミ君」
将棋を指しながらギルモアは話し始めた。
「あの子達はこれからブラックゴーストと熾烈な戦いをせねばならないと思うのだが・・」
「そうかのぉ・・・」

パチリと将棋を指す音が響く。

「当然、傷つくこともあろうかと思うんじゃ」
「それはそうじゃな。そういうこともあるじゃろうて」
「そのときは彼らを修理せねばならないが・・・・肝心の部品が手に入らんのじゃよ」
「ほうほう、そのことか。ほれ、王手」
「・・・・・・・待ってはもらえんか」
「ダーメ」
「そこをなんとか」
「ダメったら、ダメ」
「相変わらず厳しいのぉ・・・・」

ギルモアは大きくため息をついた。

「蒲田に行ってみなされ。あそこは電子立国日本の土台となった街じゃて。ワシの知り合いの工場長を紹介しよう。きっとサイボーグ用部品の加工も手がけてくれるじゃろう」
コズミはそう言ってお茶を一口すすった。



コズミに言われるがまま、ギルモアは蒲田に来ていた。
『日本のハイテク産業を土台で支えてる街』などというから、どのような研究所が並んでいるかと想像していたが、そこには町工場と呼ばれる建物が立っているだけであった。
「こりゃコズミ君に騙されたかの」そう呟く。

紹介された工場を訪ねる。
思った以上に小さい工場で立ちすくんだ。
建物全体に切削油のような臭いが染み付いている。
いままで超最先端の技術としか触れ合ったことの無いギルモアにとって、その臭いは空に低く垂れ込める雲と同じぐらい不安を感じさせた。

意を決して中に入ると、出てきた社長と呼ばれる人間はなぜか作業着を着ていた。
正直とても社長とは思えない風貌である。
「えぇ、コズミ先生からはお話は聞いています。さぁどうぞ」

奥の応接室に通された。

「何でも義足の部品を加工するとか・・・」
人のよさそうな社長はソファーに腰掛けるなり言った。
「そうです。これが設計図なんですが・・・、膝関節の加工をおねがいしたいんです」
そう言ってギルモアは図面を渡した。
「膝の関節ですか・・・やったことは無いなぁ。はぁー、なるほどね・・・・」

社長は図面を見ながらしきりと感心しているようだった。

「普通、人工関節って樹脂(プラスチック)も使って作るものですよね。それをね・・・金属でここまで使うんですか・・・」
「樹脂だとちょっとうまくいかないことがありましてね・・・」(加速装置を使うと燃えちゃいますって!)
「しかもテフロネックスなんてずいぶん珍しい材料を使うんですね」(そんな材料は無いです!!)
「テフロネックスは強度も耐磨耗性もいいですから」
「・・・・確かにそうでしょうけど」
社長は困った顔をした。
「うちにはテフロネックスをこの精度で加工できる技術は無いですよ・・・残念ですが、他を当たってください」

打ちのめされた思いで工場を後にした。
期待もしていなかったが、ここまであっさり断られるとも思っていなかった。
先ほどから降りだした雨はどしゃぶりに変わっていた。
「こりゃ、前途多難じゃのぉ」
ギルモアは傘を差し、次の目的地へと向かった。

その後何軒か工場を回ったが、全てのところで断られた。
ギルモアが求める精度で部品を加工する技術が無いと言うのが理由だった。
ブラックゴーストの技術力が世の中の技術を遥かに上回っていることを思い知らされる。

「この街でこれを加工できるのは源さんのところくらいだなぁ」

5件目に回った工場の担当者が呟いた。
「源さん?」
「えぇ、大山製作所の社長、大山源一郎さんです。腕はいいけど変わり者で気難しいんです。あの人だったらこれを加工できると思いますけど、ただし、仕事を受けてもらうまでが大変でね」
「変わり者・・・ですか」
「あぁ。あの人に泣かされた担当者を私は何人も知ってますよ」
「と・・・とにかく場所を教えてもらえませんか」
部品を作ってもらえるのであれば気難しいことなど問題ではない。
相手の首を縦に振らせるまで帰らなければいいだけのことだ。


ギルモアは大山の会社へと向かった。
目の前には小さな工場があった。
ちっぽけな外観なのに、なぜか人を寄せ付けないような雰囲気がある。
ドアを開けることさえ躊躇われるような気がした。
入り口を開け、「すみません・・・・」そう言うのが精一杯だった。

「はい?」
中から出てきたのは50代前半の男だった。
「あの・・・ギルモアと申しますが、部品の加工をお願いできないかと・・・」
「あぁ。電話で話は聞いてます、そこの椅子に座ってください」
そう言って入り口脇のテーブルを指した。

今までだって驚きの連続だった。
しかし、ここはさらに驚くことばかり。
工場の中は機械が並ぶばかりで他には何も無い。
打ち合わせ用の部屋もあるはずも無く、入り口脇に置かれたテープル(しかも台所にあるような!)が打ち合わせの場所らしい。当然お茶など出てくるはずも無かった。

ギルモアは恐る恐る椅子に座り、図面を手渡すと大山はそれを無造作にテーブルの上に広げた。
タバコを咥え、火をつける。それから腕組みをし、身を乗り出すようにして図面を見始めた。
その眼光は鋭く、図面を見ると言うよりは睨み付けると言ったほうがいいかもしれない。
今まで何軒か訪ねたところでは図面に付いてあれこれ聞かれたものだが、大山は図面を見続けるばかりで何も言わない。
質問が全く出ないことにギルモアは言い知れぬ不安を抱く。
落ち着き無くそわそわしはじめ、組んだ両手の指がイライラするかのように小刻みに動く。
しかし大山はそんなギルモアの様子も一向に気にならないようだった。

ピクリとも動かず図面を凝視する大山。
時計の音だけが部屋に響く。
そうして何分も経過した。
大山の咥えたタバコの灰が重そうに垂れ下がる。
いよいよ灰が落ちる!と思った瞬間、大山はタバコをつまみ、無造作に灰皿に擦りつけた。

「人工関節ってのはこんなに寸法公差※が厳しいのかい?」
彼が発した最初の言葉だった。
鋭い目がギルモアに向く。
「機械のことが全く解ってないで設計したのか、さもなくば、よっぽど高速に動く脚の設計だな」
「わ、わかるんですか?関節の図面だけで」
「わかりますとも。俺は学歴は無いが、これで何年も生きてきたんだ」
ぶっきらぼうに大山は答えた。
ごまかそう・・・・、サイボーグなんてことは口が裂けても言えない。咄嗟にそう判断したギルモアは言った。
「大山さんのおっしゃる通り、この脚の持ち主は速く走るのが得意で・・・。並みの関節ではガタが出ると言いましてね。それで特注なんですよ。まぁオリンピック選手と言うわけにはいかないですが」

「ハハハ」とギルモアの乾いた笑いが作業場に響く。

「あのね・・・ギルモアさん」
大山は身を乗り出してきた。
「私はプロですよ。関節のことは良くわからないが、高速で動く機械は幾つも手がけてきている。この脚がどのくらいのスピードを要求しているかなんていうのはすぐにわかりますよ。まして・・・」

そう言って図面の1ヶ所を指差した。
そこには「cooling water in」と書かれている。

009が加速装置を使用すると、金属部品同士が高速で擦れ、発熱する。
発熱することで金属が膨張し、身体のバランスが崩れる。
「cooling water」とはその発熱を最低限に押さえるために、彼の身体に流している冷却水のことである。

「冷却水を使う脚なんていうのは前代未聞だ。オリンピック選手なんてレベルじゃないのはすぐにわかりますよ・・・・」
「・・・・・・」
「言いたくないのかもしれないが、だったら他を当たってください。私が手がけるからには用途を教えていただきます」
「しかし・・・・図面も材料も表面処理(めっき)もちゃんと指示してある。これで何も言わないで作ってはもらえないじゃろうか?」

しばらくの間があった後、静かに大山が言った。

「我々は下請けじゃないんです。どんな大企業とも対等に渡り合ってきた。図面を見、用途を知り、我々の持っている知識、ノウハウも盛り込んで頂いて本当に最高のものを作ってきたと自負してます。どんな相手に対してもそうしてきた。今回もそうでなければ受けられません」

声には少し怒りが込められているようにも思えた。
自分の発言が彼のプライドを著しく傷つけたのかもしれない・・・。

「・・・・・」

「繰り返しますよ、用途を教えていただけないのであれば、他を当たってください」

もっともこれを作ることができるのは、自分だけでしょうけど・・・大山はそう言いながらタバコに火をつけた。

「あなたの身に危険が及ぶかもしれない話です。それでも知りたいと・・・」
「あぁ知りたいね」

ギルモアは観念した。
ポツリポツリと話し始めた。
ブラックゴーストのこと、サイボーグ計画のこと、自分が改造を手がけたサイボーグたちのこと、そして自分達がその組織から逃れてきて、これからはその組織との戦いになることを・・・。

「で・・・・」

イライラしたように大山は3本目のタバコに火をつけた。
身の上話を聞きたいわけではない、彼の表情がそう言っているようだった。

「で、この脚の持ち主は、どういう仕様なんですか?」
「・・・マッハ5のスピードで走ります。また彼1人の力で持ち上げられる重さは・・・・・」

009に関する全ての性能を話した。
包み隠さず話したのは、膝の関節があらゆる性能に関わってくるためである。
1つ話してしまえば、全部話すのも同じこと。
隠しておいてもいずれ見抜かれてしまう、ならばと全てを話した。

「なるほどね・・・」

大山は3本目のタバコを灰皿に押し付け、身を乗り出すようにギルモアを見つめた。

「先生、この仕事を引き受けるのに条件を2つ出してもいいですか?」
「条件?」

ギルモアは一瞬身構えた。途方も無く高額な代金を要求されるのではないかと不安がよぎる。

「えぇ。1つは脚の持ち主に会わせてください。できれば彼が走るところを実際に見たい」
「えぇ。それは大丈夫です」
「それと、部品は1週間で必ず完成させます。そうしたらすぐに俺の部品を使って欲しいんです。その使用感を聞いてから残りは作ります。これが二つ目の条件です」
「・・・・2つの条件とはそれだけなのですか?」
「えぇ、他に?」
「あの・・・代金は?」
「あぁ、そうだな・・・実際に掛かった材料費だけで結構ですよ」

こんな最先端の技術に触れさせてもらえるんだ、こちらが勉強代を払わなくっちゃいけないだろう、だけどこんな仕事の仕方をしているからさっぱり儲からないんだな、と大山は大きな声で笑った。

「出来ることなら・・・」
大山はギルモアを見ながら言った。
「先生が作ったサイボーグの部品、うちで全部引き受けさせてもらうわけにはいきませんかね。あぁ、もちろん金属材料だけですけど」


以来、00ナンバーの部品は大山が加工することとなった。
彼の仕上げた部品は非常に好評であった。
特に機械の部分が多いアルベルトは、「ブラックゴーストに居たときよりはるかに具合がいい」と言って大山の部品を絶賛したものだ。











ギルモアは今日もまた小さな町工場の前に立った。
あれから何回ここを訪れたろう。
人を寄せ付けないように思えた玄関も、今では自分だけが通ることを許された扉のように思える。

「源さん、こんにちは」
「あぁ、先生かい?」
奥からする声はいつだってぶっきらぼうだ。
相変わらずよのぉ・・・ギルモアは笑った。

大山はいつもの椅子に腰掛けて、いつものようにタバコを咥えた。
「で、先生、今度は誰のを作るんですか?」
「あぁ、もうすぐアルベルトがメンテナンスでの、一式お願いしたいんじゃ」
「アルベルトですか・・・アイツの部品は多いから忙しくなるなぁ。2,3日は徹夜だ、こりゃ」
大山は笑った。
「彼が日本に来たらここに来たいと言っておったがの、構わんじゃろうか?」
「あぁ、構いませんよ。なんなら自分の部品を自分で作らせますか。てめぇの部品1つ加工するのがどれだけ大変か1度身を持って体験させねぇとな、アイツはなんだかんだと注文が多い」
まぁ、それだけ自分の身体を真剣に考えているってことだからこっちも仕事がしやすいんだ、と煙草をもみ消しながら大山は言った。

 ―― それでの・・・・今度はここの部分を少し設計変更したんじゃが・・・。
 ―― じゃあ、先生、新しい材料を使って・・・。
 ―― それはいい・・・・


大山源一郎、彼が居る限りギルモアは日本を離れるつもりはないのである。



 ※寸法公差:部品の長さに応じて、実際の寸法として許される最大値と最小値。当然狭いほど加工が難しくなります。   ギルモアが図面に引いた公差は常識の一桁くらい小さかったくらいでしょうかね・・・。<作れないってば






あとがき

源さん登場の話です。
1話限りと思って登場させたオリキャラなので、予想に反して源さんが人気者になって 驚いているのは他ならぬ私です。
町工場も旋盤工も(一応源さんはそう言う設定です)行ったことも、見たことも無いのに、何処までかけるか・・・・。
これからがんばります。
(03年2月17日 NBG様に投稿)
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