ビリオネア 3/8 (お笑い/
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―― 収録当日の朝
ド・ド・ドドドドドド、ドッターーーン
地鳴りのような凄まじい音が邸内に響き渡る。
今度こそ敵の襲撃か?
またもや00ナンバー達が玄関へと集う。
が、彼らの目の前に居たのは、敵でも事件でもなく、階段で足を滑らせて転げ落ちたギルモア博士の哀れな姿だった。
「いたたたた~~~」
「大丈夫ですか、ギルモア博士?」ジョーが駆け寄る。
「大丈夫・・・というわけにはいかんようじゃの、あっ、いたたた・・・」
博士は立ち上がろうとするものの、腰をしたたかに打ち付けたためか力が入らないらしい。どうにも身動きがとれず、とうとう床にうずくまってしまった。仕方なく、ジョーが博士のわきの下と膝の裏に両腕を差しこみ身体を抱き上げると、部屋のベッドへと運んでいった。
ジョーがリビングへと戻ると、メンバー達が博士のことを心配していた。
「博士もそうとう酷くうったらしいな」
「歩くどころか立ち上がることも出来ないのよ」
「外出も当分は無理であろうな」
「ということは、今日の応援に行くのも無理なのか?」
「そうだね、代わりに誰か行った方が良いね」
ジョーが言うと、リビングに居た全員の目が、あの男へと注がれる。
「オレに、行けと」 読んでいた新聞を降ろし、アルベルトは全員を見回した。
「お願いできるかな?」 懇願するような栗色の瞳に、さすがの彼も苦笑いを隠しきれない。
「お前さんの頼みとあってはな・・・」
新聞を脇に置き、立ち上がり、
「まぁ、あいつの玉砕する姿を目の前で見るのもいいだろう」
不敵な笑みを浮かべた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、オッサンが付き添いかよ!」
「不満か?」
左手のナイフが異様な光を放つ。手入れは行き届いているらしい。
「いーーえーー、滅相も無い。なんにも不満はございませんっ」
ジェットは降参するように、両手を高々とあげた。
とその時、
「ボクモ、連レテ行ッテヨ」
クーファンに乗ったイワンがスーッと寄ってきた。
「イワン、まだ起きていたのか?」
イワンが昼の時間になってから既に15日目。そろそろウトウトし始める時間だというのに、連れて行ってくれというのも理解に苦しむ。「なんでだ?」と当然の疑問がアルベルトの口から発せられた。
「連レテイッテ、損ハナイト思ウヨ。ソレニ、ボクモじぇっとノ活躍ガ見タインダヨ」
「活躍ね・・・それは嫌味か?」
「ソウトモ言ウ」
クスリとイワンが笑った。
「まぁ、いいだろう。俺も1人で応援席に座るのは気が引ける。奴を肴にお前さんと話をするもの悪くはないか」
バタン
リビングの扉が開くと、両腕には抱えきれないほどの赤いハッピを持った張大人がリビングへ入ってきた。
「ハイハイ、皆さん、今日はコレ着るアルね~~」
鼻を大きく膨らませ、得意気にハッピを一枚広げた。
防護服を思わせるような真っ赤なハッピ、背中には白龍。雲の合間から空を目指して昇っている、実に見事な絵だ。そして、その龍を背景に黒字ででかでかと書かれた文字は
張々湖飯店・東京
(HG行書体 フォントサイズ200ポイント(太字))
更に黒地の衿にも店の名前が白抜きで堂々と書かれており、袖口と裾には、ラーメン容器の縁取りでおなじみの雷紋があしらってある。さすがは中国4000年の歴史というか、むしろただの悪趣味というか、芸術を解さない凡人がむやみに感想を言うのは、はばかられるような一品であった。それでも敢えて感想を言えば、「インチキラーメン屋」の臭いがムンムンとしてくるような代物である。
「中華料理店アルから赤がいいあると思ったね」
龍の絵を見ながら、ウンウンと自己満足に浸る大人。
「龍はワテが書いたのことアルよ」
全員、二の句が告げない。
「さぁ、ジェットはん、今日はこれ着てがんばってちょーだいねー」
「オ、オレにこれを着ろって言うのか?」
「当然アル。張々湖飯店の宣伝になるネ。これ見たお客さん、ジャンジャン押し寄せるアルヨ」
「じょ、ジョーダンじゃねー。着れるか、こんなもん!」
ジェットもさすがに切れた。
「せっかく、せっかく、ワテ作ったあるのに・・・。しかもワテとフランソワーズの手作りあるね」
徹夜までして業者探しをさせられたピュンマの努力も虚しく、デザインは大人担当、縫製はフランソワーズ(ミシン)担当になったのだ。
「そうよ、ジェット。少しは大人の苦労をわかってあげて」
そう言うと、彼女は少し背伸びをして、彼の耳元に唇をそっと寄せた。
「それにね、ジェットのだけはアタシが特別に手縫いしたんだから♪」
耳がくすぐったくなるような甘い囁き。
「だけっていうことは・・・?」
「他の人のはミシンで作ったの。でもコレは絶対にナイショよ」
彼女は悪戯っぽく笑うと、彼にウインクした。
そんな特上の笑顔を見せられ、ジェットの顔はゆでだこのように紅潮した。
「着る!着ます!!喜んで!!!!」
ジェットはそそくさと袖を通す。
「あら、ピッタリ♪」
「うん、うん、宣伝になるアル」
大人は満足気に何度も頷いた。
フランソワーズは隣の部屋に行くと、「イワンのもあるのよ」といって着せていた。
イワンもなにやら抵抗したが、フランソワーズが耳打ちをすると、ニッコリと微笑んで、それに袖を通した。
他のメンバーも、皆、最初こそ抵抗をしたものの、彼女がそっと耳打ちをすると、気味の悪いほどのにこやかな表情に変わり、自ら進んで赤いハッピに袖を通した。どうやら全員がジェットと同じことを吹き込まれているらしい。縫い目を見れば、手縫いかミシンかくらいは簡単に見分けが着きそうなものだが、彼女の飛び切りの笑顔とウインクに、誰一人として「フランソワーズの1点もの」を信じて疑わない。
「じゃあね、がんばってきてね!」
みんなに送られて、ジェット・アルベルト・イワン(よくよく考えると第一世代男組)はキタテレビへと向かったのであった。
***
「ようこそ、クイズ¥ビリオネアへ。 私、司会の、美濃もん太、でございます」
司会者美濃の軽妙な語り口で収録はスタートした。
出場者全員の紹介、ゲストの紹介がが終わると、早押し並べ替えクイズが始まった。
「問題。次の野球選手4人を、本塁打の本数が多い順に並べ替えなさい。 A・野村勝也 B・ハンク・アーロン C・王貞治 D・ベーブルース 」
会場を包む緊張感。参加者も真剣そのものにボタンを押している。
ほんの15秒だが、ずいぶんと長い時間に感じられた。
「正解は、
王貞治・・・ハンク・アーロン・・・ベーブルース・・・野村勝也・・・さぁ一番速かったのは!!」
モニターに正解者と回答時間が表示されると、会場から津波のようなどよめきが起こる。
アルベルトもまた、我が目を疑った。
「速・・・すぎる」
「一番速かったのは、ジェット・リンク 神奈川!」
アルベルトが驚くのも無理は無い。ジェットの回答時間は、2位の4.23秒を大きく引き離し、たったの0.56秒であった。
(まさか、あいつ・・・)
アルベルトはその能力がないため、彼自身の目でそれを確認することは出来なかったが、ジェットは加速装置を使ったのかもしれない。センターシートへ向かう彼がチラリとアルベルトを見、ニヤリと笑った。
アルベルトは軽く舌打ちをした。
会場内に派手な音楽が鳴り響く。音と光と拍手の渦の中、インチキラーメン屋のハッピをきたジェットはにこやかにセンターシートへと進み、美濃と固い握手を交わした。
<Prev. Next>
※尚、このSSはフィクションであり、クイズ$ミリオネア及びみのもんた氏とは全く関係がございません。(当たり前だ)
(03年6月5日 NBG様へ投稿)
―― 収録当日の朝
ド・ド・ドドドドドド、ドッターーーン
地鳴りのような凄まじい音が邸内に響き渡る。
今度こそ敵の襲撃か?
またもや00ナンバー達が玄関へと集う。
が、彼らの目の前に居たのは、敵でも事件でもなく、階段で足を滑らせて転げ落ちたギルモア博士の哀れな姿だった。
「いたたたた~~~」
「大丈夫ですか、ギルモア博士?」ジョーが駆け寄る。
「大丈夫・・・というわけにはいかんようじゃの、あっ、いたたた・・・」
博士は立ち上がろうとするものの、腰をしたたかに打ち付けたためか力が入らないらしい。どうにも身動きがとれず、とうとう床にうずくまってしまった。仕方なく、ジョーが博士のわきの下と膝の裏に両腕を差しこみ身体を抱き上げると、部屋のベッドへと運んでいった。
ジョーがリビングへと戻ると、メンバー達が博士のことを心配していた。
「博士もそうとう酷くうったらしいな」
「歩くどころか立ち上がることも出来ないのよ」
「外出も当分は無理であろうな」
「ということは、今日の応援に行くのも無理なのか?」
「そうだね、代わりに誰か行った方が良いね」
ジョーが言うと、リビングに居た全員の目が、あの男へと注がれる。
「オレに、行けと」 読んでいた新聞を降ろし、アルベルトは全員を見回した。
「お願いできるかな?」 懇願するような栗色の瞳に、さすがの彼も苦笑いを隠しきれない。
「お前さんの頼みとあってはな・・・」
新聞を脇に置き、立ち上がり、
「まぁ、あいつの玉砕する姿を目の前で見るのもいいだろう」
不敵な笑みを浮かべた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、オッサンが付き添いかよ!」
「不満か?」
左手のナイフが異様な光を放つ。手入れは行き届いているらしい。
「いーーえーー、滅相も無い。なんにも不満はございませんっ」
ジェットは降参するように、両手を高々とあげた。
とその時、
「ボクモ、連レテ行ッテヨ」
クーファンに乗ったイワンがスーッと寄ってきた。
「イワン、まだ起きていたのか?」
イワンが昼の時間になってから既に15日目。そろそろウトウトし始める時間だというのに、連れて行ってくれというのも理解に苦しむ。「なんでだ?」と当然の疑問がアルベルトの口から発せられた。
「連レテイッテ、損ハナイト思ウヨ。ソレニ、ボクモじぇっとノ活躍ガ見タインダヨ」
「活躍ね・・・それは嫌味か?」
「ソウトモ言ウ」
クスリとイワンが笑った。
「まぁ、いいだろう。俺も1人で応援席に座るのは気が引ける。奴を肴にお前さんと話をするもの悪くはないか」
バタン
リビングの扉が開くと、両腕には抱えきれないほどの赤いハッピを持った張大人がリビングへ入ってきた。
「ハイハイ、皆さん、今日はコレ着るアルね~~」
鼻を大きく膨らませ、得意気にハッピを一枚広げた。
防護服を思わせるような真っ赤なハッピ、背中には白龍。雲の合間から空を目指して昇っている、実に見事な絵だ。そして、その龍を背景に黒字ででかでかと書かれた文字は
張々湖飯店・東京
(HG行書体 フォントサイズ200ポイント(太字))
更に黒地の衿にも店の名前が白抜きで堂々と書かれており、袖口と裾には、ラーメン容器の縁取りでおなじみの雷紋があしらってある。さすがは中国4000年の歴史というか、むしろただの悪趣味というか、芸術を解さない凡人がむやみに感想を言うのは、はばかられるような一品であった。それでも敢えて感想を言えば、「インチキラーメン屋」の臭いがムンムンとしてくるような代物である。
「中華料理店アルから赤がいいあると思ったね」
龍の絵を見ながら、ウンウンと自己満足に浸る大人。
「龍はワテが書いたのことアルよ」
全員、二の句が告げない。
「さぁ、ジェットはん、今日はこれ着てがんばってちょーだいねー」
「オ、オレにこれを着ろって言うのか?」
「当然アル。張々湖飯店の宣伝になるネ。これ見たお客さん、ジャンジャン押し寄せるアルヨ」
「じょ、ジョーダンじゃねー。着れるか、こんなもん!」
ジェットもさすがに切れた。
「せっかく、せっかく、ワテ作ったあるのに・・・。しかもワテとフランソワーズの手作りあるね」
徹夜までして業者探しをさせられたピュンマの努力も虚しく、デザインは大人担当、縫製はフランソワーズ(ミシン)担当になったのだ。
「そうよ、ジェット。少しは大人の苦労をわかってあげて」
そう言うと、彼女は少し背伸びをして、彼の耳元に唇をそっと寄せた。
「それにね、ジェットのだけはアタシが特別に手縫いしたんだから♪」
耳がくすぐったくなるような甘い囁き。
「だけっていうことは・・・?」
「他の人のはミシンで作ったの。でもコレは絶対にナイショよ」
彼女は悪戯っぽく笑うと、彼にウインクした。
そんな特上の笑顔を見せられ、ジェットの顔はゆでだこのように紅潮した。
「着る!着ます!!喜んで!!!!」
ジェットはそそくさと袖を通す。
「あら、ピッタリ♪」
「うん、うん、宣伝になるアル」
大人は満足気に何度も頷いた。
フランソワーズは隣の部屋に行くと、「イワンのもあるのよ」といって着せていた。
イワンもなにやら抵抗したが、フランソワーズが耳打ちをすると、ニッコリと微笑んで、それに袖を通した。
他のメンバーも、皆、最初こそ抵抗をしたものの、彼女がそっと耳打ちをすると、気味の悪いほどのにこやかな表情に変わり、自ら進んで赤いハッピに袖を通した。どうやら全員がジェットと同じことを吹き込まれているらしい。縫い目を見れば、手縫いかミシンかくらいは簡単に見分けが着きそうなものだが、彼女の飛び切りの笑顔とウインクに、誰一人として「フランソワーズの1点もの」を信じて疑わない。
「じゃあね、がんばってきてね!」
みんなに送られて、ジェット・アルベルト・イワン(よくよく考えると第一世代男組)はキタテレビへと向かったのであった。
***
「ようこそ、クイズ¥ビリオネアへ。 私、司会の、美濃もん太、でございます」
司会者美濃の軽妙な語り口で収録はスタートした。
出場者全員の紹介、ゲストの紹介がが終わると、早押し並べ替えクイズが始まった。
「問題。次の野球選手4人を、本塁打の本数が多い順に並べ替えなさい。 A・野村勝也 B・ハンク・アーロン C・王貞治 D・ベーブルース 」
会場を包む緊張感。参加者も真剣そのものにボタンを押している。
ほんの15秒だが、ずいぶんと長い時間に感じられた。
「正解は、
王貞治・・・ハンク・アーロン・・・ベーブルース・・・野村勝也・・・さぁ一番速かったのは!!」
モニターに正解者と回答時間が表示されると、会場から津波のようなどよめきが起こる。
アルベルトもまた、我が目を疑った。
「速・・・すぎる」
「一番速かったのは、ジェット・リンク 神奈川!」
アルベルトが驚くのも無理は無い。ジェットの回答時間は、2位の4.23秒を大きく引き離し、たったの0.56秒であった。
(まさか、あいつ・・・)
アルベルトはその能力がないため、彼自身の目でそれを確認することは出来なかったが、ジェットは加速装置を使ったのかもしれない。センターシートへ向かう彼がチラリとアルベルトを見、ニヤリと笑った。
アルベルトは軽く舌打ちをした。
会場内に派手な音楽が鳴り響く。音と光と拍手の渦の中、インチキラーメン屋のハッピをきたジェットはにこやかにセンターシートへと進み、美濃と固い握手を交わした。
<Prev. Next>
※尚、このSSはフィクションであり、クイズ$ミリオネア及びみのもんた氏とは全く関係がございません。(当たり前だ)
(03年6月5日 NBG様へ投稿)
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