ビリオネア 4/8 (お笑い/
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ところ変わって、張々湖飯店 ―
テレフォンの収録は大人のお店と決めてあったため、フランソワーズ 張々湖 グレート ジョーの4人は店で待機していた。
「博士、大丈夫かなぁ」
グレートが頬杖をついてため息混じりに言う。お店に来てから既に2時間以上が経過しており、さすがに待ちくたびれた感がある。
「一応コズミ博士に来て貰ったし、大丈夫なんじゃない?きっと研究の話で盛り上がっているよ」
いつもと違う雰囲気を楽しんでいるジョーはまだまだ退屈というほどではないらしい。
「それにしてもこのハッピ。どうにかならんのかねえ。英国紳士の名折れだよ」
衿を引っ張り、それをまじまじと眺める。
「ねえ?そういえば、フランソワーズってハッピを着てたっけ?」
思い出したようにジョーが尋ねた。
「フランソワーズのは無いアル」
「えぇ、無いのぉ~~!」
てっきり”手作りペアルック”だと信じきっていたジョーは裏切られた気分だった。
「無いけど・・・」
「けど?」
「お楽しみアル♪」意味深な笑顔を振りまいた。
その時、「お待たせ♪」と軽やかな声。全員が声のほうへ視線を移すと・・・そこにはチャイナ服のフランソワーズが居た。
「その服、嫌いだったんじゃないのか?」
グレートがマジマジと眺める。平静を保とうと努力しているらしいが、どうにもニヤケタ顔を隠しきれない。
「でも・・・大人がどうしてもって言うし。それにね♪」
「それに?」
ジョーの問いかけには答えず、彼女は彼の隣に座ると、ふんわりと微笑んだ。
「ヘイヘイ、わっかりやしたぁーー」
ゴチソウサマですといわんばかりにグレートはそっぽを向く。
メンバー公認の仲良しカップル。端から見れば、実に微笑ましい光景。
ジョーも、『ハッピペアルックよりこっちのほうが断然いい!』思った。
自分に向けられたあの笑顔、チャイナだって自分のために着てくれたに違いない。
甘ったるくって、くしゃくしゃにされたい気分だった。
だがフランソワーズがそんな甘い感傷に浸っているわけはない。
#私だって年頃の女の子よ。
#それが何?あのハッピ!龍に雷紋!
#冗談じゃないけど着たくないわ。
#あれを着るくらいなら、チャイナのほうが遥かにマシ!
#それにしても、「手縫い♪」の一言でみんなあれを着ちゃうなんて、まだまだチョロイわね。
1人ほくそ笑む彼女であった。
その時、収録スタッフの携帯が鳴り、短い会話が交わされた後、にわかに周囲があわただしくなり始めた。
「ジェット・リンクさんがセンターシートに座ったそうですよ!」
「すっごいなぁ、ジェット」
「アイツ、ああ見えてもなかなかヤルと我輩は見込んで居ったぞ」
「テレビ映るアル~~。張々湖飯店をバンバン宣伝するアル~」
「本当に1000万円取っちゃったら、どうする?」
各々、勝手なことをしゃべりながらも、とりあえず拍手をして彼の検討を祈った。
奴がどんな姑息な手段でセンターシートをゲットしたかなど知る由もない。
***
「あなたの人生を変えてしまうかもしれない、クイズ¥ビリオネア。ジェットリンクさん、ようこそいらっしゃいました」
「どうも」
「ところで、応援席には誰が?」
「仕事の仲間が」
ライトがアルベルトとイワンに当たる。アルベルトは左腕でイワンを抱き、無駄の無い動作ですっと立ち上がると、軽く右手を挙げて会場に挨拶をした。(当然「指紋つき手袋」着用)
「それにしても速かったですね。0.5秒は新記録ですよ」
感心すること仕切りといった表情で、美濃は片手を広げ、5本の指をピンと張った。
「0.5秒、0.5秒ですよ。どうすればそんなタイムが叩き出せるんですか?」
「いやぁ。オレが本気を出せば、このくらい・・・」
得意気に胸をはった。
<<当てずっぽうに押したと言え!>>突然脳内通信が響く。
<<オ、オッサン、なんだよ、いきなり>>
<<司会者が怪しんでるぞ。>>
「ジェットさん・・・? ジェットさん・・・?」
美濃が目の前でひらひらと手を振る。
「ハ・・ハイ」
「あっ、起きてらっしゃいますね。突然、ボーっとするもんだから、寝ちゃったかと思いましたよ。ここで寝たら大したもんですけどね」
からかう様に美濃は笑う。つられて会場も苦笑いを含んだざわつきが起こる。
「で、0.5秒はどうやったらたたき出せるんですか」
「いやぁ~、当てずっぽうに押しただけなんっスよ」
「なるほど。当てずっぽうね。確かに24分の1の確率で正解するわけですし、正に奇襲攻撃。それで実際に正解してここに座っているんですから、実にあなたは運がいい。今日は1000万円、出るかもしれませんねぇ」
「当然です。取りますよ」
腕を組み、挑戦的な目で美濃を見る。
「1000万円手にしたら、あなたは何に使われるおつもりなんですか?」
「親同然に育ててもらった博士と仕事の仲間9人と一緒に旅行をしようと」
「ほう、どちらに行きたいと?」
「希望は伊豆で」
「伊豆に1000万円! 1人予算が100万円。 いやぁ、これは豪遊ができますね」
「でしょう」
「っていうか多すぎるような気がしますけどね。他に何か買う予定でもあるんでしょ~~?」
「い・・・いや、1000万円、全額旅行につぎ込みますよ」
探りを入れるような美濃の突っ込みに、ちょっとだけジェットがたじろいだ。司会者は嘲るように笑うと、
「まぁ、そういうことにしておきましょうか。後ろで応援のアルベルトさんも不審そうに見てますしね」
ジェットの肩越しに座っている不機嫌そうなドイツ人を見やった。
「えっ!(汗)」と小さく叫び、ジェットがアルベルトを見返したが、彼はいつもの憮然とした表情で座ってるだけだった。不機嫌でも不審そうでもない。
(まぁ、オッサンの場合、普通の顔でも不審そうに見えるな、確かに。)
ほっと安堵したのもつかの間、脳内でホットラインが響く。
<<後でゆっくり聞かせてもらうぞ、賞金の使途!>>
<<・・・・ハイ>>
ジェットは鋭すぎる司会者を呪った。
「で、ジェットさんのお仕事って言うのは?」
ジェットは気を取り直すと、衿を正して胸を張り、椅子に深く腰掛け直した。
「ズバリ、正義の味方です!」
会場全体がしん、となる。
(あのバカ・・・)
アルベルトは軽い目眩と頭痛を感じ、右手を眉間によったシワにあてがった。
フォローのしようもない。
会場全体が妙な雰囲気になりかけたとき、静寂を破ったのは美濃だった。
「はっ、はっ、はっ。ジェットさんは正義の味方でいらっしゃる。なのに、着ているハッピは『張々湖飯店・東京』。いや、面白い方だ」
美濃はさも可笑しそうに笑った。つられて会場全体も爆笑の渦に巻き込まれる。
さすが名司会者、回答者の突飛な発言をかわしていく手腕はみごとなものだ。
蛇足で付け加えるならば、オン・エアーではこの場面で「張々湖飯店・東京」と、テロップが表示され、大人を大いに喜ばせた。
「いや、これは大人が着ろっていうから着てるだけで、本当にオレは・・・」
言い訳をしようとした瞬間、ジェットは激しい頭痛に襲われて、頭を抱えた。
前かがみになったせいで椅子から転げ落ちる。
「だ、大丈夫ですか?」
美濃が心配そうに尋ねた。が、彼は復活の速さだけは誰にも負けない。ニッコリと微笑んで姿勢を正し、椅子に座り直すと、後方のアルベルトとイワンを凄まじい形相でにらみつけた。
<<イワン、やりやがったな!>>
<<やるじゃないか、イワン>>
アルベルトが脳内通信で満足そうに言うと、
<<コレ以上暴走サセルノハ、危険ダカラネ>>
<<お前さんを連れてきて、正解だったよ。>>
ニヤリと口元をゆがめて笑った。
ジェットの視線につられて、美濃は応援席のアルベルトへ話を振った。
「アルベルトさんも同じく正義の味方でいらっしゃる?」
「まさか」
苦々しく笑うと、美濃も「そうでしょうね」とカラカラ笑った。
「で、膝の上にいらっしゃるのはお子さんですか?」
いいえ、と口が動きかけたが、美濃の「いやぁ。お父さん、そっくり」の一言に何も言えなくなってしまった。溜息を1つ漏らし、アルベルトは膝の上のイワンに声をかけた。
<<お前と俺は親子だとさ。>>
<<イインジャナイ?ソノホウガ、自然ダシ>>
<<それもそうだな。>>
「そろそろ問題いきます~~」
アシスタントディレクターの一言で、雑談が中断され、いよいよクイズが始まった。
「それでは、ジェット・リンクさんのクイズ¥ビリオネア」
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(03年6月7日 NBG様へ投稿)
ところ変わって、張々湖飯店 ―
テレフォンの収録は大人のお店と決めてあったため、フランソワーズ 張々湖 グレート ジョーの4人は店で待機していた。
「博士、大丈夫かなぁ」
グレートが頬杖をついてため息混じりに言う。お店に来てから既に2時間以上が経過しており、さすがに待ちくたびれた感がある。
「一応コズミ博士に来て貰ったし、大丈夫なんじゃない?きっと研究の話で盛り上がっているよ」
いつもと違う雰囲気を楽しんでいるジョーはまだまだ退屈というほどではないらしい。
「それにしてもこのハッピ。どうにかならんのかねえ。英国紳士の名折れだよ」
衿を引っ張り、それをまじまじと眺める。
「ねえ?そういえば、フランソワーズってハッピを着てたっけ?」
思い出したようにジョーが尋ねた。
「フランソワーズのは無いアル」
「えぇ、無いのぉ~~!」
てっきり”手作りペアルック”だと信じきっていたジョーは裏切られた気分だった。
「無いけど・・・」
「けど?」
「お楽しみアル♪」意味深な笑顔を振りまいた。
その時、「お待たせ♪」と軽やかな声。全員が声のほうへ視線を移すと・・・そこにはチャイナ服のフランソワーズが居た。
「その服、嫌いだったんじゃないのか?」
グレートがマジマジと眺める。平静を保とうと努力しているらしいが、どうにもニヤケタ顔を隠しきれない。
「でも・・・大人がどうしてもって言うし。それにね♪」
「それに?」
ジョーの問いかけには答えず、彼女は彼の隣に座ると、ふんわりと微笑んだ。
「ヘイヘイ、わっかりやしたぁーー」
ゴチソウサマですといわんばかりにグレートはそっぽを向く。
メンバー公認の仲良しカップル。端から見れば、実に微笑ましい光景。
ジョーも、『ハッピペアルックよりこっちのほうが断然いい!』思った。
自分に向けられたあの笑顔、チャイナだって自分のために着てくれたに違いない。
甘ったるくって、くしゃくしゃにされたい気分だった。
だがフランソワーズがそんな甘い感傷に浸っているわけはない。
#私だって年頃の女の子よ。
#それが何?あのハッピ!龍に雷紋!
#冗談じゃないけど着たくないわ。
#あれを着るくらいなら、チャイナのほうが遥かにマシ!
#それにしても、「手縫い♪」の一言でみんなあれを着ちゃうなんて、まだまだチョロイわね。
1人ほくそ笑む彼女であった。
その時、収録スタッフの携帯が鳴り、短い会話が交わされた後、にわかに周囲があわただしくなり始めた。
「ジェット・リンクさんがセンターシートに座ったそうですよ!」
「すっごいなぁ、ジェット」
「アイツ、ああ見えてもなかなかヤルと我輩は見込んで居ったぞ」
「テレビ映るアル~~。張々湖飯店をバンバン宣伝するアル~」
「本当に1000万円取っちゃったら、どうする?」
各々、勝手なことをしゃべりながらも、とりあえず拍手をして彼の検討を祈った。
奴がどんな姑息な手段でセンターシートをゲットしたかなど知る由もない。
***
「あなたの人生を変えてしまうかもしれない、クイズ¥ビリオネア。ジェットリンクさん、ようこそいらっしゃいました」
「どうも」
「ところで、応援席には誰が?」
「仕事の仲間が」
ライトがアルベルトとイワンに当たる。アルベルトは左腕でイワンを抱き、無駄の無い動作ですっと立ち上がると、軽く右手を挙げて会場に挨拶をした。(当然「指紋つき手袋」着用)
「それにしても速かったですね。0.5秒は新記録ですよ」
感心すること仕切りといった表情で、美濃は片手を広げ、5本の指をピンと張った。
「0.5秒、0.5秒ですよ。どうすればそんなタイムが叩き出せるんですか?」
「いやぁ。オレが本気を出せば、このくらい・・・」
得意気に胸をはった。
<<当てずっぽうに押したと言え!>>突然脳内通信が響く。
<<オ、オッサン、なんだよ、いきなり>>
<<司会者が怪しんでるぞ。>>
「ジェットさん・・・? ジェットさん・・・?」
美濃が目の前でひらひらと手を振る。
「ハ・・ハイ」
「あっ、起きてらっしゃいますね。突然、ボーっとするもんだから、寝ちゃったかと思いましたよ。ここで寝たら大したもんですけどね」
からかう様に美濃は笑う。つられて会場も苦笑いを含んだざわつきが起こる。
「で、0.5秒はどうやったらたたき出せるんですか」
「いやぁ~、当てずっぽうに押しただけなんっスよ」
「なるほど。当てずっぽうね。確かに24分の1の確率で正解するわけですし、正に奇襲攻撃。それで実際に正解してここに座っているんですから、実にあなたは運がいい。今日は1000万円、出るかもしれませんねぇ」
「当然です。取りますよ」
腕を組み、挑戦的な目で美濃を見る。
「1000万円手にしたら、あなたは何に使われるおつもりなんですか?」
「親同然に育ててもらった博士と仕事の仲間9人と一緒に旅行をしようと」
「ほう、どちらに行きたいと?」
「希望は伊豆で」
「伊豆に1000万円! 1人予算が100万円。 いやぁ、これは豪遊ができますね」
「でしょう」
「っていうか多すぎるような気がしますけどね。他に何か買う予定でもあるんでしょ~~?」
「い・・・いや、1000万円、全額旅行につぎ込みますよ」
探りを入れるような美濃の突っ込みに、ちょっとだけジェットがたじろいだ。司会者は嘲るように笑うと、
「まぁ、そういうことにしておきましょうか。後ろで応援のアルベルトさんも不審そうに見てますしね」
ジェットの肩越しに座っている不機嫌そうなドイツ人を見やった。
「えっ!(汗)」と小さく叫び、ジェットがアルベルトを見返したが、彼はいつもの憮然とした表情で座ってるだけだった。不機嫌でも不審そうでもない。
(まぁ、オッサンの場合、普通の顔でも不審そうに見えるな、確かに。)
ほっと安堵したのもつかの間、脳内でホットラインが響く。
<<後でゆっくり聞かせてもらうぞ、賞金の使途!>>
<<・・・・ハイ>>
ジェットは鋭すぎる司会者を呪った。
「で、ジェットさんのお仕事って言うのは?」
ジェットは気を取り直すと、衿を正して胸を張り、椅子に深く腰掛け直した。
「ズバリ、正義の味方です!」
会場全体がしん、となる。
(あのバカ・・・)
アルベルトは軽い目眩と頭痛を感じ、右手を眉間によったシワにあてがった。
フォローのしようもない。
会場全体が妙な雰囲気になりかけたとき、静寂を破ったのは美濃だった。
「はっ、はっ、はっ。ジェットさんは正義の味方でいらっしゃる。なのに、着ているハッピは『張々湖飯店・東京』。いや、面白い方だ」
美濃はさも可笑しそうに笑った。つられて会場全体も爆笑の渦に巻き込まれる。
さすが名司会者、回答者の突飛な発言をかわしていく手腕はみごとなものだ。
蛇足で付け加えるならば、オン・エアーではこの場面で「張々湖飯店・東京」と、テロップが表示され、大人を大いに喜ばせた。
「いや、これは大人が着ろっていうから着てるだけで、本当にオレは・・・」
言い訳をしようとした瞬間、ジェットは激しい頭痛に襲われて、頭を抱えた。
前かがみになったせいで椅子から転げ落ちる。
「だ、大丈夫ですか?」
美濃が心配そうに尋ねた。が、彼は復活の速さだけは誰にも負けない。ニッコリと微笑んで姿勢を正し、椅子に座り直すと、後方のアルベルトとイワンを凄まじい形相でにらみつけた。
<<イワン、やりやがったな!>>
<<やるじゃないか、イワン>>
アルベルトが脳内通信で満足そうに言うと、
<<コレ以上暴走サセルノハ、危険ダカラネ>>
<<お前さんを連れてきて、正解だったよ。>>
ニヤリと口元をゆがめて笑った。
ジェットの視線につられて、美濃は応援席のアルベルトへ話を振った。
「アルベルトさんも同じく正義の味方でいらっしゃる?」
「まさか」
苦々しく笑うと、美濃も「そうでしょうね」とカラカラ笑った。
「で、膝の上にいらっしゃるのはお子さんですか?」
いいえ、と口が動きかけたが、美濃の「いやぁ。お父さん、そっくり」の一言に何も言えなくなってしまった。溜息を1つ漏らし、アルベルトは膝の上のイワンに声をかけた。
<<お前と俺は親子だとさ。>>
<<イインジャナイ?ソノホウガ、自然ダシ>>
<<それもそうだな。>>
「そろそろ問題いきます~~」
アシスタントディレクターの一言で、雑談が中断され、いよいよクイズが始まった。
「それでは、ジェット・リンクさんのクイズ¥ビリオネア」
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(03年6月7日 NBG様へ投稿)
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