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どんなことにも理由(わけ)がある~超銀編~ 2/2  (お笑いComments(0) )





                 カァー・・・カァー・・・


                          カァー・・・カァー・・・






















やわらかい風に頬をなでられ、俺は誘われるように目を開けた。





俺の身体は茜色に染まった空間にぼんやりと浮かんでいた。
視界は霧に包まれ定かでない。
四肢の感覚も無い。
意識だけが浮遊して風に溶けていく気分。
だがそれはなかなかに快適で、





なるほど、ここが『あの世』ということらしい。





ここが天国か地獄かなんて知ったこっちゃねえ。
そんなことはどうだっていい。
とにかく、俺はここが気に入った。





                   ザワザワ・・・・





風が吹いた。
つられて空気がゆっくりと拡散しはじめる。
俺の視界を遮っていた霧も徐々に晴れてきて、


ここは?!





俺は我が目を疑った。














どんなことにも理由(わけ)がある  超銀編








空に浮かぶ俺の身体。
夕日がまぶしいくらいに俺を照らす。
海は凪ぎ、夕焼けに照らされた水面がやわらかい光を反射する。
それはまるで宝石の輝きにも似て。
煌きの中に小さく見える青い影・・・・あれは・・・






イシュメール・・・!






眼下に広がる海・・・・緑の森・・・・・国際宇宙センター・・・・
崖の辺り、風になびく黄色いマフラー。
そして背中を丸めたギルモア博士。





     間違いない ―――


                 ここは地球、だ




















              ― おぉ、神よ! 感謝いたします



そう言ったのは確かブリテンだったな。
あんときはただ笑って聞いてただけだが・・・、 神さんってのは本当にいるんだな。 死んじまった俺にこんな景色を見せてくれるんだからよ。
全員無事で地球に戻ってこられた。 きっとゾアの野郎もくたばったに違いない。
もう思い残すことは、なにもねぇ。





俺は茜色に染まる空を仰ぎ、大きく深く息を吸った。





「さぁ、さっさとあの世につれてってくれや」





だが、自分が発した言葉に鳥肌が立った。
鼓膜を震わせたのはあまりにも現実味を帯びた音で、








俺は・・・生きてる・・・・のか?










波が引くように宙を彷徨う感覚が消えると、 何かに強く締め付けられている刺激を覚えた。
そして、ようやく俺は自分がどこに居るのかを理解した。















俺は国際宇宙センターに程近い森の中、そこで一番背の高い木のてっぺんに居た。
しかも身体は太い蔓によってこの巨木に縛り付けられており、手足の自由が完全に奪われていた。 身体、腕、脚と蔓は複雑に絡み合い、それ解くのは至難の業だ。 力づくで蔓から逃れようと全身に力をこめる。が、もがけばもがくほど蔓は俺に身体にきつく食い込んできた。





                 「クソッ、こんな蔓、叩ききってやる。」





俺は電磁ナイフのスイッチを入れた・・・だが、






左手からは何も出てこなかった






故障か?




















悪い時に悪いことは重なるもので、さっきから俺を遠巻きに見ていたカラスの群れから1羽2羽とカラスが寄ってきた。 耳元で不愉快な泣き声でがなりたてる奴、頭の上で休む奴、挙句の果てには手や脚をつつき始める奴まで現われて、 俺の視界が一瞬にして黒に染まる。

「やめろっ、やめろっ!」

奴らを追い払おうともがくが蔓が邪魔して動きが取れない。 頭を前後左右に振ってみたが、そんなことで動じる奴らじゃねぇ。 必死の思いで右腕を引き寄せる。



         ブチッ



鈍い音がして蔓が切れた。ありがてぇ・・・こいつさえあれば、と俺はほくそ笑む。 お前らには気の毒だが背に腹は替えられん。 俺は右手のマシンガンを奴らに向けた・・・・が、





マシンガンが ――――― 無いぃぃぃぃっ?




                            俺の身体はどうなっちまったんだ?












カラスはひとしきり俺をつつくと、楽しそうに帰っていった。
出てこない電磁ナイフ・・・・俺の白い右手・・・・。この状況ではあまり考えたくないような嫌な予感が 脳裏をよぎる。それを確かめるため、自由になった右手で左手の甲を思いっきりつねり上げた。


「イテッ」


激痛が走ったそこには紅く滲んだ・・・血液。






               生身じゃねえか!!!
















ゴソゴソゴソゴソ・・・・



唯一自由になる右手で防護服のポケットを漁る。 手に馴染んだ箱の感触にクッと笑いが漏れた。 タバコとライター、こいつらもめでたく復活できたらしい。





           カチッ・・・






                 「ふぅーーーー」






煙を肺に送り込むと、ようやく生き返ったことを実感した。 先行き不透明ってのはありがたくねえが ここは空気もうまいし見晴らしもいい。たまには木の上でタバコも悪くないもんだ。
余裕の出てきた俺は再び仲間の方を見下ろす。 奴ら・・・土なんか盛って何してんだ? ジェロニモの手にあるのは木・・・・それを十字に組んで・・・


俺の墓だぜ。


ジョーがマフラーを結んでやがる。ほぉー、なかなかいい出来じゃねえか。
ジェットの奴、墓に抱きついて泣いていやがる・・・
そうか・・・・・アイツ俺のこと・・・・(しんみり)











タバコを吸い終えると否応なしに現実に引き戻された。
さて・・・これからどうするかだ。











生身には憧れていた。その気持ちに嘘偽りは無いが 今の状況で生身はあまりにもありがたくない。 この木の高さは優に20mはあるだろうから飛び降りたら即死に違いない。 それ以前に全身を蔓に絡まれて、 俺は一体どうすればいいんだ?
なす術も無く絡みつく蔓の1本1本を見つめる。と、ブランと垂れ下がった蔓の端を見つけた。 それはまるでほつれた毛糸のように見え、 「引っ張って」と俺に催促している様にも思えた。 何気なくそれをクイッと引っ張ると、するりと蔓がほどけ始めた。
あんなにきつく絡み付いていた蔓が面白いようにスルスル解けていく。 俺も調子に乗ってどんどんどんどん蔓を引っ張る。 だが、肝心の結末を予想していなかったのはあまりにも手痛い誤算だった。



蔓を全部解いた瞬間 ―――――





「うわぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ----」





俺はまっさかさまに落下した。



















「いててて・・・・」

幸い枝やら葉っぱがクッションになってくれたおかげで死ぬことは無かったらしい。
だが、身体中に出来たかすり傷は身体を動かすたびにヒリヒリと神経を刺激する。


クソッ、だから生身ってのは!


痛む腰をさすりながらようやく立ち上がると背後で嫌な声を聞いた。





                 グルルルル・・・・





グルル?
俺は音のした方を恐る恐る振り返る。野犬が俺を凄まじい形相で睨んでいた。
「野郎っ!」
俺は咄嗟にひざを開けようとして気付いた。


もう、ないんだ・・・・


こういうときは逃げるが勝ち。
俺は一目散に駆け出した。だが、野犬も俺を追いかけてくる。 たいした距離も走っていないのに、息が上がりはじめる。 胸が苦しくなってきて、吸い込んだ空気が肺を刺激する。 木から落ちて出来た全身のかすり傷も痛む。






くそっ、これだから生身ってのは!






走りながら振り返る。 野犬と俺の距離がグンと縮まっていた。 このままじゃ殺られる!



                    グシャッ



ぬかるみに足を取られ、俺は地面に倒れこんだ。
すかさず野犬が腹の上に乗りあがって来る。鋭い牙が光り、喉元を喰いちぎられそうになったその時、





                    パーーーーン





咄嗟に手をかけたスーパーガンが光を放った。 野犬は宙を舞って事切れた。
「ハァハァ・・・」
額の汗をぬぐいながら、ゆっくりと立ち上がり、足元に転がる野犬に詫びた。 一歩踏み出すとぬかるみに足元を取られ、グシャリと気持ちの悪い感触が伝わる。 まだ膝が笑っていやがる。 ガロの前では死ぬのも恐くなかったが、情けねぇ話、今は本気で恐かった。






こんなことは真っ平だ・・・・





      やっぱり俺は004でなくっちゃいけねぇ














「ハインリッヒ、あなたが、口癖のように行っていた普通の人間に戻れたのよ」



「ま、そういうことだ」




              そういうことなんだけどな・・・





                       生身ってのは案外不便なもんだぜ、マドモアゼル。




<Prev.





あとがき

まずは、全国100万人のハインリッヒファンのみなさま、ごめんなさいっっ!


構想当初ここまで彼を格好悪くするつもりは無かったんですが、所詮コメディーなので 壊れていただきました。本編で壊れて二次創作で精神的に壊されて、気の毒な限りです。

随所でつっこみたくなるのが超銀の楽しいところなんですが、 「もう一度改造してくれ」発言だけはどうしても納得がいかず、きっと相当な 理由があったに違いない。そんなことを考えていたら、こんな話になってしまいました。

何故木の上に居たのか・・・・ジョーがボルテックスのなかでそれを望んでいたら笑えるけれど。<超銀なので天然ではなく、腹黒で

(03年12月17日初出)
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