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どんなことにも理由(わけ)がある~鼻編~ 2/3  (お笑いComments(0) )

解説編です




誰かに呼ばれたような気がして、僕はゆっくりと目を開けた。
視界はハレーションを起こしたように白一色。その中から天井に張り付いた 蛍光灯が輪郭をあらわし始めると、白はゆっくりとその明るさを静めていった。周囲 の色が本来の姿に戻ったとき、ようやく僕は不安気に見下ろす4人の姿に気がついた。


「気分、どう?」


フランソワーズに安堵の色が浮かぶ。他の3人も緊張から開放されたように笑っていた。








どんなことにも理由(わけ)がある ―解説編―







「ボクは・・・」

ピュンマがまだ痛む頭を右手で押さえながら上半身を起こそうすると、すかさずフランソワーズの 両手が彼の肩にかかり、やんわりとその動作を制す。

「まだ動いてはだめ」

彼女の髪がふうわりと鼻を掠める。瞬間甘い香りを感じ、彼はやっと自分が生きていたのだと実感する。

「確か・・・」

どうしてここにこうしているのか、彼は目を細めて考える。 窓の外は冬晴れの良い天気で・・・  そう、天気がいいから昼はバーベキューをしようと準備をしていたんだ。 火起こしを 頼まれ、準備をしていたらジェットが帰ってきて、買い物袋を受け取ろうとした時、・・・フランソワーズの 声が聞こえたような気がしたし、敵の来襲かと、そんなことも脳裏を掠めた。全てが一瞬のことだった。


「指先に・・・」

誰に言うでもなく宙を見つめるピュンマが呟くように言葉を発した。

「指先に凄まじい衝撃を感じて・・・気が遠くなった瞬間、ものすごく大きな塊が僕にぶつかってきて・・・」

誰もが言葉を発することも出来ずに彼の言葉を聞いていた。

「熱いのか、痛いのか、それすらわからなくて・・・・もう、そこから先は良く・・・」

彼は再びゆっくりとした動作で起き上がろうとする。慌てて止めようとしたフランソワーズの手をそっと 制し、左腕で支えながら重たそうに身体を持ち上げた。背中に大きめの枕を あてがってくれたフランソワーズに軽く礼を言うと、ひとりひとりの顔を順々に見渡していく。





「君たち・・・・僕をはめたんだろう?」





いつも以上に穏やかな声だった。が、目は笑っていない。 彼の前には肯定することも否定することも出来ずに、直立不動の4人。


「変だと思ったんだ・・・。まずジョー。君は嘘をつくときにまばたきの回数が増えるよね。 砂浜の君ときたら加速装置でまばたきしているかと思うくらいだったよ」


ゴクリとジョーの喉が鳴った。


「それにフランソワーズ。君だっておかしかった・・・。いつに無く甲高い声だったし、 やけにソワソワしていてね」


蒼い瞳に困惑の色が浮かぶ。


「なにより・・・アルベルト。いくらなんでも『神聖ローマ帝国の薬』はないだろう」
「――――――――すまん、つい・・・・」

弁解の言葉も無く、アルベルトもバツの悪そうな顔で下を向いた。



沈黙。



「元はといえばジェットが悪いのよ」

小声でフランソワーズが隣のジェットをつつく。その言葉にジョーが我に返り、ジェットのほうへと向く。

「そうだよ! 君は博士の言いつけを守らずに私服で飛ぶは、歩いて5分のスーパーに 行くはずが神戸まで・・・」

両手を広げ、懸命に抗議する。

「ヘヘッ、ワリイな。でもよ、俺に触るときのお前達の反応が楽しくってよ。 遠くまで行くとどうなるかってさ。 ・・・あっ、もちろんピュンマに美味い肉を食わせたかったんだぜ、それは本当さ」
「・・・で、その肉は?」
「・・・・丸焦げです」





「はぁ―――――・・・・・・」





再びメンテナンスルームに気まずい沈黙が流れ、機械の低く振動する音がやけに大きな音に聞こえた。
ベッド脇の4人はまるで廊下に立たされた子供のようで言葉も無く項垂れている。 何かを言いたげにモジモジするジェット、 ただただ申し訳ないという表情のフランソワーズ、今にも泣き出さんばかりの瞳で困りきっているジョー、 そして、いつもだったら絶対に見られないアルベルトのしおらしい姿、そのあまりにも「らしくない」姿に 口をへの字に曲げていたピュンマもとうとう堪えきれずに笑い出した。

「まあ・・・・」

彼らから視線を外し、背中の枕に寄りかかると天井を見上げた。

「僕も迂闊だったよ。ジェットが防護服を着ないで空を飛ぶことが何を意味するかって ことくらい、考えればすぐにわかりそうなものだったのにさ」
「してやられたよ」、と悔しさを滲ませたピュンマの言葉にジョーの栗色の瞳が大きく見開かれる。
「じゃ、じゃあ、ピュンマはどうしてこんなことになったのかわかるの?」
「わかるさ。あたりまえだろう?」
「当たり前って・・・」驚きを隠せないジェット。
「静電気だろ? 違うのかい?」

博学の片鱗をのぞかせる彼に、子供達が「ほぉ」と感嘆の声をあげる。

「ね、どうしてジェットが私服で飛ぶとあんなふうに電撃を出すことが出来るのか教えてくれない?」

さっきまで泣きそうなほど項垂れていたジョーが栗色の瞳をキラキラ光らせてピュンマにまとわりつく。

「ジョー、君は危うく死にかけた被害者に説明させようというのかい?」
「説明だけだったら寝ててもできるだろう、それより、このバカが二度と私服で空を 飛ばないようにみっちり教えてやってくれ」とアルベルト。
「ああ、確かにそれは重要なミッションだ」

軽く頷くとピュンマはすぅっと息を吐いた。



「アクリルの下敷きを――」

意外な言葉に全員が彼を見つめる。



「下敷きを頭に擦りつけてから上にそっと持ち上げると、髪が下敷きにくっつく遊びをしたことがあるかい?」
「あ、知ってる。僕なんか髪が多いから友達によくイタズラされたよ」ジョーが懐かしそうに笑う。
「有名な静電気の実験だ」

アルベルトの言葉にピュンマは深く頷く。

「そう、静電気。 そして、今回ボクが食らった電撃も静電気」
「同じ現象なの?」
「そうさ」
「ってことは、髪の毛を下敷きで擦ることと、俺が空を飛ぶことと同じってことなのか?」
「その通り。物と物とをこすり合わせると、摩擦でそれぞれの表面は電気を帯びるんだ。片方はプラスに、 もう片方はマイナスに。この現象のこと摩擦帯電って呼ぶんだよ。そして下敷きの実験は、 下敷きと髪が擦れることでそれぞれが電気が帯びたんだ」

全員が固唾を飲んで彼の言葉に聞き入っている。

「ジェットの場合はね、空を飛ぶジェットと空気中のゴミや雨粒とがこすれ合ってジェットの 身体に電気がたまったんだ」
「だけど、それがどうして雷みたいに人を攻撃するの?溜まった電気はどこかへ流れていかないの? ジェットが戻ってきてから事故までは5分はあったわ。その間に電気が放電されてしまっても おかしくないと思うのよ」
「確かに君の言うとおりだよ。だけど今日は色々条件が悪すぎたんだ」

ピュンマは質問の主、フランソワーズを見る。

「ジェットの身体にたまった静電気ってのは、例えて言うなら水をたたえたダムみたいなものなんだ」
「ダム?」
「そう、ダム。そのダムに溜められた水は膨大な量で、流れ出したらありとあらゆるものを押し流して しまうほどのエネルギーを持っているけれど、仕切りで仕切られているときは静かだろう?」
「たしかにダムの湖は静かだよね」ジョーが頷く。
「けれど、一旦仕切りを上げて放水をはじめると、下に向かって勢いよく水が流れる。 その凄まじさはみんなも知っているよね」
「えぇ。そばで見ていると本当に恐ろしいわ」
「ジェットの身体にたまった静電気は、まさに仕切られたダムの水と同じなんだ。 そして、さっきのフランソワーズの質問に戻るけど、ジェットと僕が立ち話をしている間に、 なぜ放電してしまわなかったかということだよね」
「そうよ」
「答えだけを言えば、静電気が流れていく場所がどこにもなかったんだ」
「そうなの?」
「うん ――――― つまり、帯電した人がどこにも触れていない場合、 静電気が流れていく場所は2つだけあるんだけど・・・」
「2つ?」
「そう2つ。空気と地面さ」
「空気には水分が含まれているだろう?水というのは電気を通す性質がある。だから湿気が多い夏に 帯電しても静電気は水を介して自然と空気中に放電していくんだ。だけど、今日みたいに 乾燥している日はなかなか放電していかない」
「地面へは?」
「履いている靴によるよ。革靴とか、僕たちがミッションで履くブーツ。ああいうのは電気を通して くれるから、徐々に電気が地球へと流れていってしまうんだ」
「アース、というわけだ」
「そう。まさにアース。だけど、今日のジェットの履いている靴はゴム底だったろう?これは電気を 流すことが出来ないんだ。だからジェットに溜まった電気は地球へも流れていかなかった」
「つまり、ジェットが空を飛んで、雨粒や埃との摩擦で出来た静電気は、地面へも空気へも流れる ことが出来ずに・・・」
「うん。ものすごいエネルギーを蓄えたまま、彼の身体に溜まっていたんだ」
「それでピュンマが触ったときに」
「人間も、生身で無い僕たちも、電気が流れる”導体”なんだよね」
「ジェットの身体に溜まりに溜まった電気がピュンマと触れることでピュンマに流れて電撃になった」
「ダムの仕切りを上げたのがピュンマだというわけなんだな。なるほどな・・・」

腕組みするアルベルトの横で肝心のジェットが溜息を付いた。難解な話にとうとう振り落とされてしまったらしい。

「もう1つわからないのが・・・」
フランソワーズが首を捻る。
「防護服だったら静電気は起きないけれど、何故私服だったらダメなの?」
「防護服には、摩擦で静電気が起きないように帯電防止剤ってのが練りこまれているんだ。以前にギルモア博士に聞いたことが ある。普通の服はそんな処理はしていないし、しかも今日ジェットがきていた赤い服、あれ化学繊維だから 木綿の服に比べると格段に静電気が起きやすいんだ」
「そうよね、ポリエステルの服を着ると、冬場は特に衣服が身体に纏わりついたり、脱ぐときにパチパチって 嫌な感じがするわ」

思い出すのもいやそうにフランソワーズが顔をしかめた。

「上が化学繊維の服、靴がゴム底。しかも乾燥しているとあれば、今日は最悪の条件だったわけだ」

アルベルトの瞳が冷たくジェットを居る。ジェットもバツが悪そうに視線をそらした。

「で・・・でもよ、それだけだったら爆発はしねーだろ!なんで火柱がおこったんだよ?」

俺だって熱かったんだ、こんなことは初めてだ、爆発は俺のせいじゃねぇとジェットが熱弁をふるう。

「それはワシから説明するかの」

メンテナンスルームの入り口に、解析データを持ったギルモアが立っていた。

「ジェットとピュンマ、2人の間で放電が起こったとき、バーベキューセットのあたりで爆発が起こったんじゃろう?」
「でも・・・」ピュンマは言葉を濁す。
「そう、君の思っている通りじゃ。炭ではあんな爆発は起きん。じゃが、思い出してくれ。 ガスバーナーか何かをを近くに置いてなかったかのぉ?」
「ガスバーナー・・・・」

ピュンマは記憶を辿る。

「火をおこしてくれと頼まれて、炭に火をつけようとして、でもちょっと喉が渇いたし、何より今日は 風が冷たかった・・・。そう、だからお茶でも沸かして飲もうと・・・。そうです! 僕、博士の 仰るとおり、プロパンガスを持ち出してました!!」

その言葉にフランソワーズが敏感に反応した。

「じゃあ、あのシューって音は・・・やっぱりガス漏れだったのね」
「えっガス漏れ? 僕には音なんて聞こえなかったよ」
「そうね、今思えば本当に些細な小さな音で、きっとアタシ以外の人には聞こえなかったと思うの」
「じゃあ、爆発は・・・2人の間の放電が漏れたガスに引火して起こったというわけか――――― しかし、せっかく炭があるんだからそれを使えば良かったじゃないか」
「だって火力が弱いから・・・」
「なんだよ、結局、爆発の責任はピュンマじゃねーか」 ジェットが笑う。
「なに言ってんだ! ジェットが私服で空を飛ぶから!!」

被害者なのに加害者呼ばわりされたピュンマがこの日初めて声を荒げた。ジェットに食って掛かりそうな 勢いのピュンマをギルモアが慌てて止めた。

「君は怪我人なんじゃから喧嘩はいかん。 じゃがなぁ ジェット、ワシがあれほど注意したというのに、 君という奴は、まったく・・・」

ギルモアは大きく溜息を付いた。気苦労のせいか、口元のシワがまた1本増えたようだ。

「まぁ――」

ギルモアはピュンマを見た。

「凄まじい電撃と爆発じゃったが、幸い電気系統に問題はないようじゃ。よかったの」

博士は安堵したように全員を見渡す。が、彼の可愛い子供達に安堵の色はまったく無い。
全員がグイッとギルモアに顔を寄せると声をそろえて言い放った。


「何とかしてください! ギルモア博士」

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