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どんなことにも理由(わけ)がある~鼻編~ 3/3  (お笑いComments(0) )

対策編です




数日後、今回の被害者と加害者達はイワンに呼び出された。
全員が地下の一室に集まると部屋の照明は静かに落とされ、プロジェクターに照らされた 正面のスクリーンだけが煌々と輝く。

<<ハジメテモイイカナ・・・>>

脳に直接響く幼子の声。全員がスクリーンの脇を見るとギルモアに抱かれたイワンが 小さな腕を不器用そうに上げていた。 イワンはギルモアの方へ向き直り、軽く言葉を交わす。 老博士は目を細めながら大きく頷くと、ゆっくりとした動作で腰を屈めて 赤子をそっとクーファンへ移した。ギルモアが自分の椅子に腰を下ろすとクーファンは フワリと浮かび上がり、中から顔を出したイワンが全員をゆっくりと見渡した。

<<静電気ノ 問題ヲ 根本カラ 解決スルノハ 難シイコトナンダケドネ・・・>>

全員がイワンを見上げる。

<<じぇっとノ場合、飛行機ヲ 考エタラ、解決ハ 簡単ダッタヨ。>>
「飛行機?」
<<ソウ、飛行機。 飛行機モネ・・・>>

クーファンで浮かんだままのイワンが小さな指をクルリと回すと、プロジェクターの映像が飛行機の絵に変わった。

<<飛行機モネ、じぇっとト同ジデ 空ヲ飛ブト 水滴ヤ埃ガ 機体ニ衝突シタリ摩擦シタリシテ  胴体表面ニ 電気ヲ 帯ビルンダ>>
「帯電ってどのくらいなの?」
<<マァ・・・ 条件ニモヨルンダケドネ、 雲ヤ雨ノ中ヲ高速デ移動スルト 数秒間デ 数百きろぼると位マデ 帯電スルト言ワレテルヨ 。>>
「まぁ、そんなに?」
「それが通信機器や機械へ影響を及ぼして事故の原因にもなるんだね」
<<ソノ通リ。ダカラ飛行機ニハ 両翼ヤ尾翼、胴体ノ端ニ ぶらしノヨウナモノガ ツイテイルンダヨ。 機体ニ帯電シタ 静電気ハ コノぶらしニ 集マッテネ、 尖端カラ 静電気ガ放電スル 仕組ミナンダ。>>

画面はカメラのレンズを掃除するブラシに似た物の写真に変わった。 一緒に映っているタバコの大きさと比べれば、10cm程度の柄に1cm位の金属製のフサがついたような代物だった。

<<ぼーいんぐ747ノ場合 コノぶらしガ 1機体ニ53本モ ツイテイルンダ>>

「それで、飛行機を参考にしたたというオマエさんの解決策は?」

部屋の後方、壁にもたれかかって両腕を組んだアルベルト。闇にまぎれて表情は読み取れないが、 先を促していることは声の様子から直ぐに理解できた。ブラシが静電気を放電するプロセスを 説明するつもりだったイワンが小さく溜息をつくと、結論を口にした。

<<簡単ナコトサ、じぇっとノ 髪ノ毛ヲ 利用スレバイインダヨ♪>>
「「「「かみぃ?」」」」

全員の声が裏返る。

<<ソウ、髪ノ毛サ。ツマリ 飛行機ニ ツイテイル ぶらしノ役割ヲ じぇっとノ髪ノ毛 デ 代用デキルンジャナイカト オモッタンダ♪>>
「ってことは?」

ジェットが両手を髪に押し当てて、感触を確かめ始めた。手ぐしてみたり、束ねたり、ひっぱってみては 盛んに首を捻る。

「アレッ?アレッ?」と不思議そうなジェットの声に促されるかのように、プロジェクターの脇に 座っていたギルモアが「ヨイショ」と小さく掛け声をかけて立ち上がった。 両腕を腰の後ろで組んでスクリーンの前に来ると、イワンがプロジェクターの光を消し、部屋の照明を 明るくした。

「ジェット、どうじゃ? なにか違和感があるかの?」
「い・・・いや。そう・・・変わった感じはしねーけど・・・」
「ま、そうじゃろうな。感触はなるべく同じになるよう気を付けたでの・・・・。実はな、 おとといのジェットのメンテナンスで髪の毛の材質を変たんじゃよ」
「材質を・・・・ですか」

ジョーは右手を自分の髪、左手をジェットの髪に置いて、両者を比べるように触ってみる。 違いがわからないせいか、ジェットと同じように首を捻った。

「ああ、材質じゃ。今までの毛髪は電気を通さないものじゃったんだが、 今度は電気を通すものに変えてみたんじゃよ。これからは飛行中に帯電しても、 電気が髪の毛に集まって、髪の毛の尖端から空気中に自然と放電していくじゃろう」

「「「「なるほど!!!」」」」

ジェットを除く全員がイワンと博士を口々に賞賛する。

「ものぐさなジェットにこれほど適した改造はない」と 常日頃は追改造に強い嫌悪感を示すフランソワーズでさえも大きく 頷いて満足そうだった。
だがその中にあって、ジェット一人が不満を隠さない。

「じゃ、じゃあよ、俺は一生この髪型から開放されないのか?」
<<ソウイウコト♪>>

嬉しそうなイワンの声にジェットが明らかに不愉快な表情をした。が、イワンは気に留める様子も無く、

<<イイジャナイカ、ドウセ今マデダッテ ズットソノ髪型ダッタンダロウ?>>

しっかり留めを刺すことを忘れない。

「だからなジェット。これからは髪型を変えることも整髪料をつけることも相成らん。これは注意というより命令じゃよ」
「マジかよ・・・っつーか、そんな約束守れるわけがネーダロー」

これから先長い人生、デートの1つだってあるだろう。なのに俺は髪型を整えることさえ許されないのかと あらんかぎりの不満を口にする。が次の瞬間、ジェットは背後に言い知れぬ殺気を感じ、口をつぐんだ。

「オマエさんはずいぶんと博士のご好意に不満もあるようだな。なんだったら、今、 この場で俺が俺好みの髪型に代えてやってもいいぞ」

ナイフをちらつかせたアルベルトの口が歪んだ。
多勢に無勢。ジェットは大きく溜息をつくしかなかった。





以来ジェットは博士の言いつけを忠実に守り、髪型に手を入れることはない ―――
・・・・・というかものぐさな性格ゆえ、言いつけなんか無くても、手入れすることはなかったとも言うが。




とにかく ―――――




以来、仲間の犠牲がなくなったのは言うまでもないことである。












その日の夕方 ―――――

浜辺には、ポケットに両手をつっこんで、少しだけ前かがみの姿勢で散歩するピュンマの姿があった。 砂浜に伸びる長い影。そこへにもうひとつの影がゆっくりと近づいた。

「ねえ、ピュンマ・・・」

彼が振り返ると、立っていたのはフランソワーズ。

「どうしたの?」
「その・・・アタシたち、貴方にちゃんと謝っていなくって・・ごめんなさい」
「そのこと? いいよもう」

2人は並んで歩き始めた。

「仕方が無いよ。アレを食らったら二度とジェットに関わりたいとは思わないのは当然さ。 僕が君たちの立場だったら、きっと同じようにしたと思うよ。それに―――」
「それに?」

フランソワーズが立ち止まって彼を見上げる。海から吹きつける冬の風に彼女の亜麻色の髪が 乱れるように踊っている。ピュンマは下を向いて少しだけ照れたように笑い、彼女に背を向けて少し前を 歩き始めた。

「それに・・・爆発の原因のガス漏れに気付かなかったのは他ならない自分なんだから・・・・。 誰を責めることもできないだろ」
「そんなこと・・・アレは誰にもわからなかったわよ」

冬の日の暮れるのは早く、茜い景色も徐々に闇に滲み始めていた。

「・・・・・・・あのね・・」
「なんだい?」
「貴方の事故、っていうか、私たち全員の事故って防ぎようが無かったのかしら?」
「そのこと・・・・・・・・・」

ピュンマはゆっくりとした動作で腰を曲げ、足元に落ちていた石を拾い上げた。
掌で石を握りなおすと、フランソワーズを振り返った。

「多分・・・防げたと思うよ」

軽く反動をつけて、石を海へと放る。それは緩やかな放物線を描きながら波の間に消えていった。

「今みたいにすればいいのさ」
「・・・石を・・・投げるの?」
「違う違う。その前」
「石を拾って・・・あっ!」
「わかった?」
「地面に・・・・触るの?」
「そう」
「ジェットはゴム靴を履いていたから電気がどこにも流れていかなかった。だけど、彼が直接地面に触れば電気はあっという間に地球へと流れていくからね。誰も被害者にならずにすんだんだ」
「単純なことだったのね・・・」

フランソワーズは頭を抱えて溜息をついた。

「それより、僕もわからないことがあるんだけど・・・」
「ピュンマでもわからないことがあるの?」

驚いて目を見張るフランソワーズに、「あるさ、当然だろう?」と彼が苦笑した。

「それで・・・ピュンマの疑問って?」
「あの時、僕は電撃を受けて激しい痛みを感じた。 だけど・・・ジェットはまるで平気そうに見えたんだ。彼だって同じ痛みを感じていたはずなのに・・」
「ああ、そのこと」

明らかにフランソワーズの声が低くなる。

「慣れたそうよ」
「はぁ?」
「だからね、面白半分にいろんな人に放電してたから、自分では慣れっこになっちゃたんですって」
「慣れた・・・・あの痛みって慣れるのものなのかい? 」
「知らないわ、そんなこと・・・でもね・・・」
「でも?」









「彼はね、いつだって力づくなのよ」













                 「説得力がありすぎ・・・・・それ」









(終)












*****静電気メモ*****

冬場になるとバチッとなる静電気に嫌な思いをしたことはありませんか?
人間の身体は洋服との摩擦や歩く靴と地面との摩擦、色々な原因で知らず知らずのうちに 電気を蓄えてしまっています。私たちには防護服もブーツもありませんし、 まして髪の毛を改造するわけにもいきませんので、些細なことを気を付けるしかありません。

こんなことを試してみてはいかがでしょうか?

 □化学繊維の服は着ない
 □靴は革靴を履く
 □指先でウエットティッシュに触る
 □適当な大きさの物(金属は除く)に触ってみる
 □室内で静電気に悩んでいたら、まず加湿。



どうか、この冬を無事に乗り切りましょう。
近くに引火物があると放電で火事になることもあります。 くれぐれもお気をつけください。





あとがき

私は帯電女です・・・(号泣)

相棒は愛車のヴィッツ。
丁度0010プラスマイナスの間柄です。

冬場の今はもちろん、夏場であってもバチッ・バチッと放電します。 何とかならないものかと調べているうちに、このような屁理屈話を思いつきました。
相変わらずバカですね(陳謝)。


電子制御満載の彼らにとっては静電気は大問題のはずですから、相応の対策が 取られている筈なんですが、プロトタイプ1号の彼は初期設計品だったことも あって(また、時代的にも静電気の問題はそれほど大きくなかったころですし)、 甘い設計をされているんじゃないか、じゃあ、どうしよう?となったときに あのツンツン頭は使えるぞとなった次第です。

どんなことにも理由(わけ)がある、ジェットの髪型だって理由があるはずなのです。(大嘘)



参考にさせていただきました・・・
      静電気のABC 堤井信力著 (講談社)



(03年11月15日初出)


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