ビリオネア 1/8 (お笑い/
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「ヒャッホゥ~~~~!!」(死語?)
飛び切り陽気な声が玄関に響き渡る。
その声は廊下を伝わり、階段に反響し、マッハのスピードで ―音なので当たり前だが― 瞬く間にギルモア邸内を駆け抜けた。
昼下がりの贅沢な静寂を破る突然の奇声。
事故?
事件?
敵の襲撃?
いずれにしても、ただごとではない。
部屋でくつろいでいた者、キッチンに居た者、リビングに居た者、60秒以内には全員が玄関ホールに集まった。その速さは、さすが戦いなれた00ナンバーであるといえよう。だが、緊急招集をかけられた彼らの目の前に居たのは、敵でも、事件でもなく、一枚のはがきを手にした大型の鳥・・否、赤毛の男だった。
「声の主はお前か、ジェット・・・。人騒がせな」
読書を中断され、忌々しそうな表情を浮かべるアルベルト。そして眉間には彼の不快指数を表すシワが、いつもの倍、刻まれていた。染之助・染太郎ならば「いつもの倍」は非常に喜ばしいことだが、アルベルトのシワの数はマシンガンの発射頻度に比例する。00ナンバーは不測の事態に備えて、にわかに臨戦態勢をとった。
「当たったんだぜ!」
原因を作った張本人はアルベルトの不快を全く意に介す様子も無く、ブーメランを投げる仕草で葉書を放る。
アルベルトは葉書を掴み、文面を読み始めた。
「クイズ¥ビリオネア、ご出場が決定いたしました。つきましては、以下の日時にキタテレビGスタジオにいらしてください」
全員の間に沈黙が流れる。
「なんだ、これは?」
眉を吊り上げ、アルベルトの不快な表情は一層厳しくなる。眉間のしわは更に増えた。
空気がピンと張り詰める。
2人のやり取りを見ている仲間達は気が気ではないが、口を挟むことは出来ない。
一触即発なのである。
例えるならば、コップに水が満面に湛えられていて、ちょっとした振動で水が零れてしまいそうな危うい状態。
不用意な言動はアルベルトの琴線を刺激しかねない。今は事態を見守ることしか出来ないのだ。
ジェットもようやくその殺気に気付いたのか、言葉を失った。
しんと静まり返る玄関ホール。
息づかいの音さえ聞こえない。
いよいよマシンガンか・・と全員が諦めかけたその時、沈黙を破ったのは、やはり、ジョーだった。
「クイズ¥ビリオネアって、全問正解すると1000万円もらえるっていうあの番組?」
「あぁ」
「うわ~っ、出るの? 凄いじゃない? ボク、応援するよ!」
これほど場の雰囲気を全くわきまえない言動がかつてあっただろうか?
素っ頓狂な明るい声にそれまでの緊張感は完全にぶち壊されたのである。
ホールに居た全員、このときほど「天然」の力強さを感じたことはなかったろう。
さらに、1000万円と聞いて黙っていなかったのが、張々湖である。
「1000万円! いいアルね~。ワテらの活動資金にするもよし、張々湖飯店のために使うもいいアルね~~」
短い両腕を前に差し出し、ジェットに握手を求めようと擦り寄る。
「大人がもらうんじゃないんだから」
グレートがたしなめながら、大人の襟足をグイッと掴むと、彼はあっけなく仰向けに転がった。
頭が床にぶつかった拍子に自慢の鼻が取れ、それは2回、3回と軽やかに弾んだ。
「グレートはん、酷いアルね~~。ワテらの仲間が貰ったものは、ワテのものあるよ」
四つん這いになって、転がった鼻を押さえながら、必死に抗議する張々湖。だが、言っていることはあまりにもむちゃくちゃだ。
「カネ、カネってガメツイんだよ!」グレートが言えば、
「当たり前アルネ。ワテラいろいろお金が掛かるアルカラ、お金大事にする、之基本!」大人も黙ってはいない。
足元で、口論が始まった2人を無視するように、フランソワーズが話を続けた。
「なんでまた、そんな番組に応募したの?」
「賞金もらって全員で旅行したいって思ってな。俺たちミッションだったら世界中を飛び回っているけど、全員で旅行なんて無いだろ?博士が達者なうちに、みんなで旅行ってのも良いかと思ってな」
柄にも無くしんみりと言ったジェットに、
「ほぉ?お前にしては、まともな考えだ」
と、ようやくアルベルトのシワも姿を消した。
その表情を見て、今まで声すら発せないでいたピュンマとジェロニモがほっと胸をなでおろした。
「さてと・・・」
アルベルトは壁に寄りかかり、腕を組んだ。
「15問全問正解するのは、至難の業だぞ。ライフラインの使いどころもよくよく考えないといけないし、テレフォンで解答する仲間の人選も慎重にしないとな」
意外なことだがアルベルトはあの番組のファン、らしい。
しかし、ジェットはそんな忠告も意に解することも無く、人差し指を立てて、アルベルトの言葉を制するように言い放った。
「はっ? 誰がライフラインを使うって言ったかよ?俺はライフラインを使わずとも、全問正解してみせるさ」
「ほぉ?たいした自信だな」アルベルトが挑発のこもった声色で応戦すれば、
「当然だ。なんだったら懸けてもいいぜ。オレが1000万円を獲得したら、アルベルトは一日オレのパシリになるっていのはどうだ?」
「獲れなかったら、お前がオレのパシリというわけだな。よしいいだろう」
「交渉成立、だな」
ジェットも悪戯っぽい笑いを浮かべる。すでに勝負に勝利したかのような余裕だ。
「オーケイ。というわけで、オレはクイズには不参加だ。懸けの相手の手助けをするわけには行かないからな」
そう言って、ピュンマの肩をポンと1つ叩き、
「まぁ、せいぜいアイツが赤っ恥を書かない程度に助けてやってくれよ」
自室へ戻るべく、階段を登り始めた。
「な・・なんだか、どちらも応援しづらくなったんだけど、でも一応、テレフォンのメンバーは決めておかないとね・・・」
困り顔でピュンマが全員を見回しながら切り出す。
「オレは構わんぞ。奴のためにベストメンバーを人選してやるんだな」
階段から声が響いた。
「だが、その男はお前さん達の助けもいらないらしいがな」
冷ややかな笑いを残して、彼は階上へと消えていった。
兎に角、惨事だけは免れたと、良識的なメンバーはここでほっと胸をなでおろしたのであった。
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(03年6月2日 NBG様へ投稿)
もし、ジェットがあの人気番組に出たら・・
1話限りのオリキャラ美濃が登場。オールキャラ出演です。
1話限りのオリキャラ美濃が登場。オールキャラ出演です。
「ヒャッホゥ~~~~!!」(死語?)
飛び切り陽気な声が玄関に響き渡る。
その声は廊下を伝わり、階段に反響し、マッハのスピードで ―音なので当たり前だが― 瞬く間にギルモア邸内を駆け抜けた。
昼下がりの贅沢な静寂を破る突然の奇声。
事故?
事件?
敵の襲撃?
いずれにしても、ただごとではない。
部屋でくつろいでいた者、キッチンに居た者、リビングに居た者、60秒以内には全員が玄関ホールに集まった。その速さは、さすが戦いなれた00ナンバーであるといえよう。だが、緊急招集をかけられた彼らの目の前に居たのは、敵でも、事件でもなく、一枚のはがきを手にした大型の鳥・・否、赤毛の男だった。
「声の主はお前か、ジェット・・・。人騒がせな」
読書を中断され、忌々しそうな表情を浮かべるアルベルト。そして眉間には彼の不快指数を表すシワが、いつもの倍、刻まれていた。染之助・染太郎ならば「いつもの倍」は非常に喜ばしいことだが、アルベルトのシワの数はマシンガンの発射頻度に比例する。00ナンバーは不測の事態に備えて、にわかに臨戦態勢をとった。
「当たったんだぜ!」
原因を作った張本人はアルベルトの不快を全く意に介す様子も無く、ブーメランを投げる仕草で葉書を放る。
アルベルトは葉書を掴み、文面を読み始めた。
「クイズ¥ビリオネア、ご出場が決定いたしました。つきましては、以下の日時にキタテレビGスタジオにいらしてください」
全員の間に沈黙が流れる。
「なんだ、これは?」
眉を吊り上げ、アルベルトの不快な表情は一層厳しくなる。眉間のしわは更に増えた。
空気がピンと張り詰める。
2人のやり取りを見ている仲間達は気が気ではないが、口を挟むことは出来ない。
一触即発なのである。
例えるならば、コップに水が満面に湛えられていて、ちょっとした振動で水が零れてしまいそうな危うい状態。
不用意な言動はアルベルトの琴線を刺激しかねない。今は事態を見守ることしか出来ないのだ。
ジェットもようやくその殺気に気付いたのか、言葉を失った。
しんと静まり返る玄関ホール。
息づかいの音さえ聞こえない。
いよいよマシンガンか・・と全員が諦めかけたその時、沈黙を破ったのは、やはり、ジョーだった。
「クイズ¥ビリオネアって、全問正解すると1000万円もらえるっていうあの番組?」
「あぁ」
「うわ~っ、出るの? 凄いじゃない? ボク、応援するよ!」
これほど場の雰囲気を全くわきまえない言動がかつてあっただろうか?
素っ頓狂な明るい声にそれまでの緊張感は完全にぶち壊されたのである。
ホールに居た全員、このときほど「天然」の力強さを感じたことはなかったろう。
さらに、1000万円と聞いて黙っていなかったのが、張々湖である。
「1000万円! いいアルね~。ワテらの活動資金にするもよし、張々湖飯店のために使うもいいアルね~~」
短い両腕を前に差し出し、ジェットに握手を求めようと擦り寄る。
「大人がもらうんじゃないんだから」
グレートがたしなめながら、大人の襟足をグイッと掴むと、彼はあっけなく仰向けに転がった。
頭が床にぶつかった拍子に自慢の鼻が取れ、それは2回、3回と軽やかに弾んだ。
「グレートはん、酷いアルね~~。ワテらの仲間が貰ったものは、ワテのものあるよ」
四つん這いになって、転がった鼻を押さえながら、必死に抗議する張々湖。だが、言っていることはあまりにもむちゃくちゃだ。
「カネ、カネってガメツイんだよ!」グレートが言えば、
「当たり前アルネ。ワテラいろいろお金が掛かるアルカラ、お金大事にする、之基本!」大人も黙ってはいない。
足元で、口論が始まった2人を無視するように、フランソワーズが話を続けた。
「なんでまた、そんな番組に応募したの?」
「賞金もらって全員で旅行したいって思ってな。俺たちミッションだったら世界中を飛び回っているけど、全員で旅行なんて無いだろ?博士が達者なうちに、みんなで旅行ってのも良いかと思ってな」
柄にも無くしんみりと言ったジェットに、
「ほぉ?お前にしては、まともな考えだ」
と、ようやくアルベルトのシワも姿を消した。
その表情を見て、今まで声すら発せないでいたピュンマとジェロニモがほっと胸をなでおろした。
「さてと・・・」
アルベルトは壁に寄りかかり、腕を組んだ。
「15問全問正解するのは、至難の業だぞ。ライフラインの使いどころもよくよく考えないといけないし、テレフォンで解答する仲間の人選も慎重にしないとな」
意外なことだがアルベルトはあの番組のファン、らしい。
しかし、ジェットはそんな忠告も意に解することも無く、人差し指を立てて、アルベルトの言葉を制するように言い放った。
「はっ? 誰がライフラインを使うって言ったかよ?俺はライフラインを使わずとも、全問正解してみせるさ」
「ほぉ?たいした自信だな」アルベルトが挑発のこもった声色で応戦すれば、
「当然だ。なんだったら懸けてもいいぜ。オレが1000万円を獲得したら、アルベルトは一日オレのパシリになるっていのはどうだ?」
「獲れなかったら、お前がオレのパシリというわけだな。よしいいだろう」
「交渉成立、だな」
ジェットも悪戯っぽい笑いを浮かべる。すでに勝負に勝利したかのような余裕だ。
「オーケイ。というわけで、オレはクイズには不参加だ。懸けの相手の手助けをするわけには行かないからな」
そう言って、ピュンマの肩をポンと1つ叩き、
「まぁ、せいぜいアイツが赤っ恥を書かない程度に助けてやってくれよ」
自室へ戻るべく、階段を登り始めた。
「な・・なんだか、どちらも応援しづらくなったんだけど、でも一応、テレフォンのメンバーは決めておかないとね・・・」
困り顔でピュンマが全員を見回しながら切り出す。
「オレは構わんぞ。奴のためにベストメンバーを人選してやるんだな」
階段から声が響いた。
「だが、その男はお前さん達の助けもいらないらしいがな」
冷ややかな笑いを残して、彼は階上へと消えていった。
兎に角、惨事だけは免れたと、良識的なメンバーはここでほっと胸をなでおろしたのであった。
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(03年6月2日 NBG様へ投稿)
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