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大試練(from juiさま)  (ピュン誕Comments(0) )

juiさまから8番目のお誕生お祝いとして頂きました!
ありがとうございますっ!
juiさまの作品なので、当然「遠雷」メンバー勢揃い。周に頭の上がらない8番目はこのピンチをどう切り抜ける?というか切り抜けられてないのかも・・・がんばれピュンマっ!




 『 祝い事をしたいから、ちょっと来てちょうだい  by 周 』












 ……厭な予感は、したのだ。




 だいたい決まって何かしらの行事・イベントが行われるのはギルモア邸なのに、なぜ…今回に限ってこの『迷ひ家』なのか。

 場所と言い内容と言い、これではまるで…





 果たし状、だ。


















 大試練


















 震える手で果たし状…もとい、招待状を握りしめたピュンマは、純和風の門の前でひたすらに硬直していた。
 うだるような暑さの中、山の中の日差しがまるでスポットライトのように彼の頭上に降り注いでいる。しかもバックは 蝉の大合唱 …その勢いは今のピュンマの心情を示す、某交響曲顔負けの激しさだ。

 …まぁ、取りあえず第一歩。

 檜の門に付いているインターフォンを、一押し。
 すると応答が返ってくる前に、自動ドアかという勢いで引き戸がオープンした。
 もはや何も言う気になれなかったピュンマは、密かな頭痛に額を押さえながら門を潜る。
 玄関まで続く飛び石を踏みしめて、もう一つの呼び鈴を…


「いらっしゃーいぃっ!」


 …押す前に、ピンクの浴衣姿の元気娘が、ぶち破るかの勢いで引き戸を開けて迎えに出てきた。


「…やぁ、クロウディア」
「遅かったねぇ、ピュンマ」
「あ、ああ、うん。ちょっと」



 …心の準備がね、とは続けられない…



 とにかく入って、というクロウディアに促され、長い長い庭に面した廊下を歩いて…二間続きの和室へ。そこにはもう 既にメンバー達が揃い、そして涼しげなガラスの器に入った和風料理が所狭しと並べられていた。
 しかし。

「よぉピュンマぁ! 遅かったじゃねぇかぁ!」
「こりゃ美味いのぉ、周女史」
「やっぱり暑い日には、ぐいっとイケる冷酒がいいアルね」
「あらぁ~、冷やしたワインもいいわよぉ」
「夏はビールだよなぁ? アルベルトぉ」




 ………並べられていたのは料理だけでなく、出来上がった酔っぱらいも、だった。




 しかも全員、見事なまでに浴衣姿…


 更にはアルベルトまで同様に着替えているときたから、この家の魔力は閻魔大王顔負けの威力だと思う。


 ひとりTシャツでつっ立っているピュンマは、響き渡る頭痛と共に軽い目眩を覚え、ヨロヨロと障子に寄りかかった。 一体いつから飲んでいるのか、と訊ねてみたかったが、とてもそんな状況ではない。何しろバカ陽気はともかく、あの フランソワーズまでが完全に出来上がっていたからだ。




「あまりに来ないから、始めちゃったわよ」




 気配もなく背後から声を掛けられ、しかも目の前の状況に魂を抜き取られていたピュンマは、思わず絶叫しそうになった 声を飲み込んで振り返った。
 そこには…紺地に淡い朝顔の柄が入った浴衣を纏い、ピュンマの分であろう前菜をお盆に載せた……周。


「いらっしゃい」
「………お邪魔してます」
「ま、座れば?」




 チリーーーン……




 緩やかな風に揺らされた風鈴の音が、何かのゴングのように聞こえたのは気のせいだろうか。




「……お招きに預かりまして…」
「あぁ気にしないで。それより、主賓を山奥まで来させて悪かったわね」
「主賓…」
「誕生日なんでしょ?」



 …身体が震えて『有難う』、という言葉が、なかなか素直に出てこない。




 そう、周の果たし状…もとい招待状にあった『祝い事』とは、正にピュンマの誕生日のこと。以前から皆が何か計画 していたのは感じていたが、よもや。


 …よもやこの『迷ひ家』で催されることになるとは、夢にも思わなかった。


 そんなこんなで座布団を勧められ、主賓の席に着くと酔っぱらい集団も「お!」と僅かばかり正気に戻り、ピュンマに 注目。そこへ周がことり、と静かに前菜を置いた。
 綺麗なグラスにビールが注がれ、そして。


「じゃあ、主賓が到着したところで」


 こほん、と咳払いをしてジョーが立ち上ったと同時に…。


「ピュンマ、お誕生日おめでとうーっっ!!!」




 …まるで小学生のような、絶叫が山中にこだました…



 どうしてこんなに心臓に悪いことばかり起こるんだ、とピュンマは絶句したが、小さく笑い、
「ありがとう、みんな」
と、素直に皆を見渡した。
 多少、赤ら顔ばかりが揃っているのは恐いが、皆とこうして共に居ることができて、本当に嬉しい。
 思えば誕生日を祝う、ということなんて、故郷の混乱の中では殆どといっていいほどなかったかもしれない。しかし 今では、こんなにたくさんの仲間と祝い事をするのが恒例化していて、そんな寂しい記憶なんて風化されてしまって いるけれど。



 こうして。



 共に闘って、共に。








 嬉しさと有り難さを、かみしめて ─────── …










「なんて…」



 そう。












「なんて贅沢なことなんだろうと、思う…よ」













 『かけがえのない』、とか『生涯の』とか、言葉にしてしまえば簡単だけど。

 この絆を、そのように呼ばず、なんと呼ぼうか。
















『ありがとう』

















 夕闇に染まり始めた夏の空気に、ピュンマの優しい『声』が溶けた。













「じゃ、これ」




 じん…と胸を感動に染めていると、不意に横から幼い声が飛んできた。驚いて視線を落とすと、ピンクの蝶…もとい クロウディアが、しきりに何やら大きめな包みを差し出してきている。
 早く受け取れと言わんばかりの形相にピュンマは少し怯えたが、「あ、ありがとう」と呟いて、和紙で包まれたそれに 手を伸ばした。
「周が作ったんだよぉ?」
 嬉しそうにピュンマの背中にへばりつく、クロウディア。頭に?を浮かべながらもピュンマはゆっくりと包みを開け、そして 中から出てきたのは…






 浴衣。


 そう、今日はみんな浴衣、だ。







 イワンからギルモアからアルベルトから、そしてもちろんジョーもフランソワーズも、と…皆、色とりどりの浴衣を纏っている。
 ピュンマが手にしているのは、青地に碧色の線が綺麗に入ったもの。まるでピュンマを象徴する海に、幾筋の光が入った ようなデザイン、だ。
「…周が?」
「そうよ」
「もしかして、みんなのも?」
「ええ」
 短く応答すると周は、冷酒のグラスを口元に運んだ。
「…周だって忙しいだろうに…悪かったね」
 感慨深げに手元の浴衣を眺めるピュンマがふと呟くと、周は途端に笑い始めた。
「莫迦ね」
「?」








「誕生日に気を遣うコトなんてないじゃない」









 そう。

 自分が生まれた特別な日、は。











「みんなに作ったからね。こちらこそ、個人的じゃなくて悪いんだけど」
「それはそれで、本当に今日の企画を無視してるな」
 ピュンマの隣に座ったアルベルト ─── グレーに控えめな白い模様の浴衣 ─── が、少しばかり火に油を注ぐ。
「そんなことないよ」
 穏やかに微笑むピュンマは、浴衣を見つめながら「ありがとう」、と素直に周へと礼を述べた。

 周は、どこかのドイツ人のような不敵な笑みを浮かべると、すっかり暗くなった空を見上げた。その横顔を見ていると、 何かに浸っているのかな…と思えたピュンマだったが。



「そろそろいいかしらね。クロウディア」



 くるりと首を巡らすと、彼女は突然、未だピュンマの背にへばり付いているクロウディアへと声を投げた。
 そのクロウディアも、
「そーね」
 と、夜空を見上げて嬉しそうに頷いている。
「じゃ、持ってくるね」
「お願い」
 不思議な母娘の会話に首を傾げたピュンマとアルベルトだが、そんなことは全く気にせず、ちょこんっとピュンマから 離れたクロウディアは、ぱたぱたと縁側を走っていった。

 そして。




「おーまーたーせぇ♪」




 数秒後に戻ってきた少女の手には、明かりの灯された…


「ケーキか?」


 …訊ねたアルベルトが首を傾げ、クロウディアの手元を注視するが、どうも様子が違う。
 そう、ケーキのように象られた瑞々しい…更にはチョコレートかのごとく深い色に染められた『それ』、は。

















「……………………ヨウカン……?」



















 そう……


 特大の羊羹に、小さな蝋燭……しかも和蝋燭…










「じゃ、始めましょうか」

 バースディケーキ…もとい、バースディ羊羹の厳かな明かりに、酔っぱらい達が凄まじく陽気に大拍手。
 ここは喜んで照れたりするのが通例であろうが、室内の明かりが消され、ぼうっと闇に浮かび上がった羊羹 と和蝋燭が強烈すぎて、ピュンマはとてもそんな気にはなれなかった。


「………消せばいいのかな?」
「えぇ」


 頷いた周は、くいっと冷酒を仰いだ。
 が。

「全部消しちゃ、駄目よ」
「…はい?」
 息を吸い込みかけていたピュンマは、口を開けたまま周に振り返る。













「何かひとつ、それなりの話をしてから消してちょうだい。一本づつ」




















 ……まさか自分の為らしきパーティー、が。



 怪談話の会場へと変身するとは。









 ピュンマは…夢にも思わなかった……












                              <了>







凛樹館のjuiさまから、いただきました♪
お馴染みの「大災難ピュンマシリーズ」。 誕生日だって彼が休まることは無いのです。 しかも、周女史にかかってしまっては、まさに「まな板の上の鯉」

料理を食べるとき、プレゼントを開けるときのピュンマの ビビリ顔が目に浮かぶようです。
普段だったら、もしかしたらとめに入ってくれるかもしれない(それは たぶん無理な話ですが)、ナンバーさんもすっかり出来上がってるし(爆)


いよいよ安心しかけたその矢先!
バースデー羊羹!!


思わずPC画面にコーヒーを吹き出すところでした。危ない危ない。

羊羹とはいえ、やっぱり真ん中には「お誕生日おめでとうピュンマ」の文字が あしらわれてるんでしょうか? 生クリーム? いえ、白餡希望。
周囲に和蝋燭(しかも紅白だそうですよ、奥さん!<juiさまがこっそり教えてくれました) 一つ一つ吹き消しながら怖い話とは!

とーぜん、蝋が羊羹に垂れる前に話し終えないといけないでしょうから、ピュンマの 心中は察するに余りあるものがあります。 気の毒だ、気の毒だ(大笑い)

juiさま、素敵なお話をありがとうございました!
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