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帰郷  (ピュン誕Comments(0) )

2005年ピュン誕です。
凄まじく微妙な読み物。これがお祝いと呼べるのかどうか・・・・(悩)




 砂塵を上げて走るジープの乗り心地なんて、お世辞にも良いといえるものじゃない。 上下左右に激しく揺さぶられ、これじゃまるでシェーカーで振られるカクテルの気分だ。


 助手席に座る僕は流れ去る風景を見ながら、1時間前のことを思い出す。


 空港のあたりはずいぶんと近代化していた。
 ビルが立ち並び、待ち行く人の表情も明るかった。
 かつてこの国の人間がまるでペットのように売買の対象になっていたことなど、 誰の記憶にも残っては居ないのだろうか。


 月日は、流れたんだ。



 ビル郡を過ぎても、しばらくは店や住宅が並んでいた。
 昔であれば到底望むことさえ出来なかった豊かな生活がそこにはあった。
 さまざまな種類の店にカラフルな住宅、ひとつひとつが僕の目を惹いた。
 が、それも無くなると、あとは山並みと木々が連なる単調な風景が続いた。 時折集落が見えるが、それもほんの一瞬で、再び見慣れた風景が延々と続くだけだった。



 しかし、僕が目指す先は ―――― まだまだ遠い。



 こんな辺鄙で何も無いな場所にやって来た僕を、 「物好きだ」と言って笑い飛ばした運転手は、隣で陽気に歌を歌っている。 車体が弾むたびに大げさに歓声をあげ、この振動を気にしている様子は全く無い。

 物好き・・・ねぇ。 言われてみれば確かにそうかもしれない。




 今更ここへ来るなんて ――――




「街のあたりはずいぶんと暮らしやすくなったがな、この辺はまだまだだな」




 本当に、まだまだ、だ。




 だが、何ひとつ変わらない風景に、僕の胸は懐かしい想いでいっぱいになる。











 道ばかりが続く、何も無い場所でジープは停車した。

「そこの丘を越えた先が、アンタの目的地さ」

 僕は礼を言いながら、少ないけれど、といくらかの持ち合わせを渡そうとした。 しかし、彼の掌がそれを制す。

「気遣いはいらんよ。どうせ通り道だったんだ」
「ありがとう」

 代わりに、偶然持ち合わせていたタバコを手渡した。

「友達に無理やり押し付けられてね、ボクは吸わないから、もしよかったら」
「ありがとよ、へぇ、珍しい包装だな。どこの国のだ?・・・・はぁ・・・日本製か」
「口に合えばいいんだけど」
「みんなで楽しむさ、じゃあ」

 もうもうと砂煙を上げて、車は走り去っていった。
 車の姿が見えなくなると、ようやく周囲に静寂が訪れた。








 空の色と空気のにおい、焼け付く日差しと乾いた風、



 それらが忘れてしまっていた昔を蘇らせる。



 この丘を何度登ったことだろう?




父に連れられ狩に行き ――
病気のときは母に負ぶわれ ――
友達と遊ぶときはひたすら走った。そう、妹も居たっけ――――




 胸いっぱいに深呼吸をする。心のなかで暴れる嵐を収めないことには、どうかしてしまいそうだ。



 丘の頂が近い。



 周囲の木々も徐々に開けてきた。



 最早、どれほど心を静めようとしても、高まる鼓動は抑えようも無かった。



 走っていきたい、でも、それも怖い。



 眼下に広がる村は、昔の姿そのままだった。






僕は ―――― 帰ってきたんだ







帰郷









 ピュンマはゆっくりと村に足を踏み入れた。
 見慣れない旅人の姿に、子供達は彼を遠巻きに眺める。
 彼が微笑むと、子供達の表情はぱっと明るくなり、歓声を上げて走っていった。

 女達は陽気に歌を歌いながら夕飯の支度をている。若い男達の姿こそ見えないが、 年老いた男達は木陰でゲームに興じていた。

 ゲームの勝敗が決したのか、男達から歓声が響き、ピュンマも何気なくそのほうを見やった。



 つと、白髪の老人と目が合う。



「!」



 このときピュンマはこの地を訪れたことを深く後悔した。
 年月が過ぎれば、昔と今とを直接つなげるものは何もなくなるはずだった。
 自分の記憶の中だけで生き続ける友は、自分と同じく若いままなのだ。 だからこそ、たとえ今、昔の仲間に出くわしたとしても、それと気付くはずは無かった。 ピュンマにとって昔と現在は全く異なるふたつの世界だと、頑なにそう信じてきた。

 しかし、彼を見つめ続ける「長老」と呼ばれる「彼」。

 深くしわが刻まれ、瞳は落ち窪み、すっかり年老いてしまったが、 それでも拭い去ることの出来ない「彼」の持つ空気。

「彼」だ、「彼」に違いない。

 過去の仲間達と自分の間に横たわった時間の壁など、所詮、薄い紙切れ同然のものだと思い知らされる。

「旅の人・・・・」

 いつの間にか老人は自分の前に立っていた。
 かつてピュンマより長身を誇っていた「彼」も、今はピュンマを見上げる。

「こんな辺鄙な村に何か用でも?」

 年老いても瞳は力強く、鋭く、かつてピュンマが舌を巻いたほどの策士だった「彼」の姿そのものだった。




――――いつかこの国は独立するんだ。そうすれば、皆が豊かになる

 朝が来るまで語り合ったのは、もう、何十年も前のことだ。

 「彼」はピュンマの幼馴染であり、ライバルであり、親友であった。
 ピュンマが奴隷狩りに遭って行方知れずになったことを一番悲しんだのは「彼」だったというし、 しばらくの後(それは彼が黒い幽霊団に改造され、逃亡の戦いを一段落させた後のことだが)、 何事も無かったようにひょっこり戻ってきたときに、一番喜んだのも「彼」だった。

 ピュンマが戻ってきて間もなく、2人の周囲は劇的に変化していった。

 ピュンマの父が仲間達とともに独立運動に参加したのだ。もちろんピュンマも「彼」もそれに従った。
 当たり前の自由を手にするために、皆、寝る間も惜しんで遮二無二働いた。 休みなど無かったし、生命の危険を感じることも1度2度のことではなかった。
 連日の激務は改造された身体(そのことは誰ひとり知らなかったが)でさえ悲鳴を上げていたのに、 しかし、生身の「彼」はピュンマも舌を巻くほど働いた。

 そして暇さえあればふたりは国の未来について語り合った。
 希望だけが彼らの原動力だった。



 しかし――――


 家族が黄金のライオンに惨殺され――――――



 黒い幽霊団の改造をもってしても精神の強さを得られるはずも無く、 自暴自棄になっていくピュンマを「彼」は懸命に支え――――――



 程なく、独立運動は終わり、彼らは自由を勝ち取った。



 誰もが長い苦しみから解放されたことを喜び合うその中で、



 ピュンマは独り、そっと村を離れた。



 仲間達の、そして「彼」の目尻に見えたわずかな皺、黒髪に混ざる白髪・・・ 現実と乖離し始めた時間の壁を、ピュンマはこれ以上直視することが出来なかった。










 そして、今 ―――― 



 「彼」が居る。



「旅の人・・・こんな辺鄙な村など、何もありませんが」



「彼」はゆっくりと言葉を紡ぐ。



「この村の・・・独立運動に関わった仲間達の墓を参ってくだされんだろうか」



 驚いて目をむいたピュンマに、「彼」はかすかな笑みを漏らした。



 ピュンマを案内するという、若い男の申し出を退け、「彼」は付いて来いと目で合図した。
 「彼」がゆっくりと前を歩く。何を言うでもなく、何を聞くでもない。ただ淡々と歩く。
 そのゆっくりとした足取りが、遠く過ぎ去っていった時間をゆっくり、ゆっくりと巻き戻していった。



 そう、話したいことがあれば、いつも並んでここを歩いた。



 語り合うのは、いつでもあの大きな木の下だった。



 そして、村のはずれの木の下に――――



 3人の墓があった。



 老人は震える指を墓の方向に向ける。しゃがれた声で「あとは独りで行きなさい」、そう言うと、 ゆっくりと木陰に座り込んだ。

「あの、すみません」

 遠慮がちのピュンマの問いかけに、老人は目を閉じたままだった。


 かすかに溜息を漏らし、ピュンマは墓へと歩き始めた。



――長い間、お前の帰りをずっと待っていたんだ、詫びのヒトコトくらい言えよ――




 「彼」の声が聞こえた気がしたが、振り返ると老人は眠ったままだった。



 ピュンマはひとり、歩いていく。



 村を離れてから、ずっと訪れたいと思っていた場所、



 しかし、帰ることが叶わなかったこの地。



 美しい花に彩られた墓標を静かに見つめた。
 





 「ただいま、帰りが遅くなってゴメン」





 「お帰り ピュンマ」
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